父子再会


「あれ」

「あ?」

「ダブア!」


振り返ると、そこには大魔王が立っていた。


「息子じゃーん!元気してた?」

「ダブリッシュ!」

「そうかそうか〜元気してたか〜」


久しぶりの父子再会である。
男鹿はボケッとその光景を眺めていた。
自分は大魔王と言い張り、息子を見知らぬ高校生に預ける変人。
だが、ベル坊を大事に思っていないなどの事はなく、今のようにとても可愛がってはいるようだ。
金持ちは色々と忙しく大変だから、子どもの面倒が見れないらしい。
子育ては使用人の仕事だと言っていたヒルダの顔が脳裏に浮かんだ。


「君もいつもありがとね〜。助かるよ、ホント」

「その角……いつもつけてんのか……?」

「ああ、これ?だってわし、大魔王だから」

「何なんだよ。その大魔王って」

「みんなからそう呼ばれてんだよねー。だから大魔王らしく角とマントつけてみたわけよ」


アハハと笑う大魔王は、本当に金持ちの偉い人なのか疑いたくなる。
男鹿はへえと小さく頷いた。


「ところで男鹿君。ヒルダも元気かい?」

「ああ……健康面では元気なんじゃね」

「健康面では?」

「最近あいつちょっと変だし。ケンカも張り合いないっつーか……」

「ケンカ?……へえぇ〜……」


大魔王は含み笑いを浮かべた。
どこか嬉しそうに。


「君には話しておこうか」

「何を?」

「ヒルダのことだよ。何でウチでメイドやってるか分かるかい?」

「さあ……金か?」

「君それ本気で言ってる〜?」


大魔王は、アハハ〜と間延びした笑い声をあげた。
掴み所のなさに、男鹿は眉をしかめる。
変なやつだと思う。
しかし、大魔王に抱かれたベル坊がうとうとし出したのを見ると、矢張り父親なのだと穏やかながらも威厳のようなものを感じた。


「ヒルダはね、拾った子なんだよ」

「拾った?」

「もともと気品のある子だったから、もしかしたらどこかのお嬢様だったのかもねー」

「は?ちょっと待てよ……意味が……」

「ボロボロの状態で見つけてね。わしも何があったかは詳しくは知らないけど、語ろうとはしないし、帰りたくないみたいだったからそのままウチに置いてたんだよね」


置いてたんだよね、って。
深刻な話なのか笑い話なのか。
大魔王の口調のせいで、どう心構えすればいいのか分からない。
だが、適当にしか見えない大魔王がわざわざ話をするのだから、大事な話なのだろう。
男鹿は軽く拳を握った。


「最初は感情を表に出さない子だったんだけど、そのうち笑うようになってねー。でも、それはわしに気を遣っての作った笑顔だった。笑い方を知らないのか、忘れてしまったのか……」

「…………」

「でも、この子の世話を任せてみたら少しずつ変わっていったんだよ」


大魔王はベル坊の頭を優しく撫でる。
男鹿はその様子を眺めながら、ヒルダと初めて会った時のことを思い出した。
ベル坊に見せる笑顔と、その他に見せる笑顔。
違うのは知っていた。
ヒルダのことが気になる一方で、一緒にいると苛つく理由が少しだけわかった気がした。


「……ヒルダを娘のように思ってるはずだよな」

「もちろん。血は繋がっていなくても、ヒルダはわしの娘だし大切に思っているよ」

「なら、オレみたいな不良といるのは心配だろ。何でベル坊やヒルダをオレに任せた?」

「息子が懐いたからだね」

「いや……そういうんじゃなくて……」


話していると疲れる。
男鹿はため息をついた。
ふと微笑した大魔王は、すやすやと眠るベル坊を男鹿に渡しながらその小さな頭を撫でた。
名残惜しそうに。


「何たってわしの息子だから。見る目はあるよ。だから君を信じてみたけど、正解だったね〜アッハッハッ!」

「…………」

「……ヒルダのことはさ、ま、適当にね」

「あんたホント、テキトーだな……」

「適当に、だよ男鹿君。辞書を引きたまえ」


アハハと笑いながら、大魔王は手を振りながら去ってしまった。
男鹿はその背中を見つめながら、携帯を開いた。
適当、と文字を打つ。
悪い意味にとられがちな言葉だが、それだけではない。
とても日本人らしい曖昧さ。


「適切に、ってことか……?」


要するにそれは、彼女に気を使えと。
男鹿は携帯を閉じると、ベル坊が眠っていることも忘れ全力で走った。

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