豪華絢爛よりも


艶やかな髪と一緒に揺れるそれが何となく気に入らなくて、銀時は眉を寄せそっとそれに触れた。
抜き取ってしまおうか。そう思った瞬間、勘のいい彼女は睨むように銀時を見上げた。
だが、銀時は悪びれる様子はない。


「……何です?」

「いや、似合わねぇと思って」

「……似合い、ませんか……?」


少しだけ目を見開き、妙は気にするように髪に触れた。
この様子からすると、きっと彼女のお気に入りなのだろう。
と言っても、銀時は今までそれをつけているところを見たことはなかったのだけど。


「変、かしら……」

「変じゃなくて、似合わない」

「……失礼ね。そんなにハッキリ言わなくてもいいじゃない」


何度も角度を変えながら鏡を見つめる妙の眉はずっと寄っている。
作り自体はそれほどごてごてしているわけではないが、やはり豪華絢爛きらびやかと言っていいだろう簪。
彼女の顔立ちに合っていないわけではない。
ただ、普段あまり着飾ることをしない彼女だからこそ、とても不自然な輝きを放っていた。


「それ、お前が買ったのか?」

「いいえ、貰ったのよ」

「……誰に?」

「小さい頃、たまに遊んでた友達に」

「……九兵衛、じゃねーよな?」

「九ちゃんなら九ちゃんって言うわよ」

「……だよな」


そりゃそうだ、と銀時は頷いた。
彼女ではないとわかってはいるから、胸のあたりがモヤモヤとしているのだ。


「……男?」

「? ええ、そうですよ。この間偶然再会したんです」

「……へぇ、偶然の再会でそんな高価そうなもんくれるって、どんなヤツだよ」


予感ってのは当たってほしくない時に限って当たるものだ。
そんな奴いたなんて聞いたことない。
そう言えば、妙は不思議そうに首を傾げた。
話題にするほどのことではなかったから、と。


「……お前もう少し考えろよな……」

「どういう意味です?」

「男が偶然再会しただけの友人にんなモンやると思うか?」

「出世したらしいわ」

「そうじゃないだろ」


金があるないの話ではない。
キャバ嬢なのだから、貢ぎ物くらいはあるだろう。
だが、妙は偶然再会したと言ったのだ。
つまり、それは客ではなく、個人として贈ったものだということ。


「……本当は……」

「あ?」

「本当はね、結婚を申し込まれたのよ」

「……なんて?」


けっこん? けっこんって、結婚?
銀時の体がほんの少し強張った。
そんなものを申し込むのはゴリラくらいだと思っていたのに。
軽口叩ける余裕はあるが、どうにも言う気になれない。
近藤といい九兵衛といい、金持ちに好かれやすいのだろうか。
それにしても、結婚とは……。
銀時が眉を寄せると、妙はくすりと小さく笑った。


「ちゃんと断りましたよ?」

「……じゃあ、何でそいつから貰ったもんつけてんだよ」


面白くなくて、無駄にきらびやかな簪を引っこ抜いてやった。
だが、妙は何も言わずただニコニコと笑っているだけ。
一体何を考えているのか。
銀時はさらに眉を寄せた。


「銀さんの反応が見たくて」

「……あ、悪女かお前ェェェ!! 散々人の心を弄びやがって!」

「失礼しちゃうわ。ちょっと気になっただけじゃない」

「ちょっと!? おま、俺がどんだけ……!」


そこまで言いかけて、銀時は口をつぐんだ。
小娘に振り回されるなんて。
だが、それが事実なわけで。
妙は相変わらずニコニコと笑っているし、情けないにも程がある。
銀時は引っこ抜いた簪を一瞥し、盛大にため息を吐いた。


「……何となくは、わかってたけどよ……。男から貰ったんじゃないかって」

「あら、勘がいいのね」

「だから、似合わないって言ったろ」

「……そうね、その簪はもう挿すことはしないわ。それをくれた人にも失礼だものね。でも、銀さんの反応……嬉しかったですよ」


妙はほんのりと頬を赤らめ微笑した。


「……あぁ〜……うん……。まぁ、いつかコレよりお前に似合う簪買ってやるよ」

「ふふ、期待しないで待ってます。ありがとう、銀さん」

「……おぅ」


そこは期待しとけよ。
銀時はぐいと妙の頭を引き寄せ、簪を挿していた結び目にそっと唇を落とした。



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可愛い銀妙が書きたかった、んだけど……あれ……?
読んでくださった方、ありがとうございました!

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