結婚しました。


「しかし、本当今でも信じられん……」

「しつけーな。何度目だよ、そのセリフ」


だってさ……と言いながら、古市は空になった缶ビールをテーブルに置く。
つまみに買ってきた枝豆を食べる男鹿をじとりと睨んでいると、ふとあることを思い出した。
ガサガサと鞄から仕事用のパソコンを取り出し、それを立ち上げる。


「男鹿、これ」

「あ?」


古市はくるりとパソコンの画面を友人に向けた。


「……お前……これはないだろ……」

「何でだよ!いいじゃん!ヒルダさんの花嫁姿!仕事のストレスもこれで癒える毎日だぜ!」


着ているのはいつもの黒い服ではなく、純白のドレス。
クールな表情も身を潜めているように、幸せそうに微笑んでいる写真だ。
その美しさは、ずっと見ていても飽きないほど。


「会社でも評判いいんだよ。アイドルか!グラビアか!ってな」

「キモ市」

「んだよーいいじゃんか。ヒルダさんスッゲエ可愛いもん」

「もん、じゃねーよ。本来ならオレは怒ってお前を殴り飛ばしていいとこなんだからな。ったく……人の嫁を勝手に……」

「そうだよ!何でヒルダさんはこんなアホに嫁いでしまったんだ!」


うわあぁ、と古市は大袈裟にテーブルに突っ伏す。
カラン、と空き缶が数本転がった。
そう。散々夫婦と言われてきた男鹿とヒルダは、本当にその誓いを立てたのだ。
周りは、やっとかとのん気なものだったが、事情を知る古市からすれば衝撃的であった。
そうなってもおかしくはない。
とは思っていたが、ふたりの間にそんな感情が芽生えているようには見えなかった。
まるで、今までの関係の延長線であるかのように結婚してしまったふたり。


「実際さ……ヒルダさんとはどうなの?うまくいってんの?」

「何がうまいのか知らんが……今までと何も変わんねーな」

「変わんねーのかよ」

「気持ちとかそういう変化はあっても、一緒にベル坊育てたりケンカしたり仲直りしたり……昔とやってること一緒だしな」

「イチャイチャしたりは?」

「一般的に言うイチャイチャはねーよ。オレもヒルダもそんなことするガラじゃねーし」


新婚とは思えない生活をしているらしい。
本当に昔と変わらないようだ。


「あ、だからってキスとかは普通にするからな」

「あぁ……むしろしてない方がヤバイだろ。……エッチもすんの?」

「当たり前だろーが」

「だよね!良かった、ちゃんと本当に夫婦はやってるみたいで」


古市はホッと胸を撫で下ろした。
いくら今までと変わらないといっても、ただベル坊の親代わりだった関係のままではない。
結婚という形を取ったのだから、当然と言える。
ただの延長線上ではないのだ。
お互いに愛し合っているのは、この花嫁姿のヒルダの写真からもわかる。


「ベル坊にも会いたかったんだけどな。今魔界?」

「あぁ。アイツも成長したし、魔王だから色々学ばないといけないんだと。今日は王宮に泊まり込みで勉強らしい」

「大変だなぁ……ベル坊も……。お前が育てたにしては、わりと素直ないい子になったが、魔王やれんのかね」

「オレの息子でもあるんだ。魔王くらい余裕だろ」


そうかい、と古市は頷いた。
ベル坊の話をする時、男鹿はどこか誇らしげに話す。
本当に、ベル坊はとても男鹿が育てたとは思えないほど優しい子になった。
時より見せる悪人のような顔は間違いなく男鹿譲りではあるが。
この間会った時は、ヒルダを護れるくらい強くなりたいと言っていた。
いつでも護ってくれた彼女を、今度は自分が護るのだと。
そして、いつか男鹿のように強く大きな男になりたいと目を輝かせていた。


「ベル坊のやつ……すぐにお前を追い越すぜ」

「そりゃ楽しみだ」

「で、お前の仕事はどーなんだよ。魔界から色々依頼されんだろ?」

「まあな。人間界で悪さしてる悪魔退治から、以前大魔王から依頼された探し物みたいな事まで幅広いな」

「それで金もらえるっていいよな……」

「その分命かかってるけどな」


楽とは決して言えないが、男鹿の天職である気がする。
古市のように、普通の会社員など男鹿には務まらないだろう。


「お前の仕事の話、興味あるな。もっと酒買ってくるから、話聞かせろよ」

「あ?泊まる気か?」

「いいだろ、別に。ヒルダさんの手料理食べたいし。そろそろ買い物から帰ってくるだろ?」

「お前……気をつかえよ……」

「は?」

「だから、ベル坊は今日は魔界に泊まり込みなんだって」

「…………」

「…………」


ああ、うん。古市は目を泳がせた。
ハッキリ言われるのも嫌だが、遠回しに言われるのも嫌なものだ。


「イチャイチャはしないんじゃなかったのかよ」

「だーかーら、一般的に言うイチャイチャはしねーっつったろが。やることはやってんだよ。つか、もう帰れば」

「なんか腹立つな……。何、淡々とコトをしてるわけか?何が燃えんのそれ」

「イヤ、あいつ案外すげーから。というか、もう帰れよ」

「マジで!?え、何がすげーの!?」


結局話は何も聞けなかったが、せめてヒルダの手料理だけはと古市はこの場に居座った。


(ヒルダさんの手料理も変わんないのな……)

(だから帰れって言ったろ)



ーーーー
男鹿+古市でした!
小ネタのつもりで書いてたら、楽しくなっちゃって(笑)
本人不在のカプ話は好きです。
男鹿ヒルの結婚後を妄想した時、これが私の中で一番近いイメージかなと思います。
社会人の男鹿がまったく想像できない……!
そしてベル坊は優しいいい子だといい……!
ヒルダは変わらずベル坊の世話したり男鹿の手伝いしたり家事したり……かな。
お粗末さまでした!

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