ズルイ人


「お姉さん、おかわり」

「ダメです。どれだけ飲んだと思ってるの?」

「いいじゃんか別にぃ〜」

「ダメ。飲みたいならお店に来てお金払って飲んでくださいな」


ムッと不機嫌そうに眉を寄せる男は、家に来るなりずっと酒を呷っている。
強い方じゃないのに。
ため息をつくと、男はゆらりと立ち上がった。
トイレだろうか。
そう思ったが、ほんの数歩でまたドカッと腰をおろしてしまった。
すぐ、目の前に。


「銀さん?」

「お妙……」


じっと見つめられ、ドキリと胸が痛んだ。
ふわりと漂ってくるお酒の香りがさらに鼓動を速くさせる。
きゅ、と襟元を掴んだ。


「なあ」

「は、はい?」


声が上擦った。
くすりと笑われ、顔が熱くなる。


「この間の返事、まだ聞いてないんだけど。どうするか決めた?」


耳元で囁かれた。
わざと吐息でくすぐられ、思わず身をすくめる。


「ぎ、銀さん……だいぶ酔いが……」

「だから聞いてんだよ。酔ってなきゃ聞けない情けない男なんでね」


うそつき。
妙はくっと唇を噛んだ。
確かに酔ってはいるが、自分が何をしているのかわかっているし、答えだって知っているような顔だ。
ふざけた態度でいてくれたらよかったのに。
ふわふわと香るお酒のにおいで酔えたらいいのに。
そんなことを思っても、現状は変わらない。
銀時はもう逃がす気はないのだろう。


「なあ、告白の返事」


ぞくり、体が震えた。
ドクンドクンと心臓が大きく脈をうつ。
いつの間にか詰められた距離。
鼻先が触れるほど近い。


「銀さん……わ、私……!」

「ん?」

「私、は……」

「うん」


銀時がゆるく微笑む。
その先を促すように。
心臓の音はきっと聞こえているだろう。


「俺はお妙が好きだ。お妙は?」


彼に好きと言われたのは一ヶ月ほど前。
本気で言っているのはその表情でわかった。
返事はすぐでなくてもよいと。
でもお前は俺が好きだと答える。彼はそうはっきり言った。
何でもわかったような態度が腹立たしくて、何事もなかったように接していたのに。
それすらわかっていたかのようだった。
本当に、何もかもが彼の言う通り。


「答えないとキスしちゃうよ」

「ぎ……!」

「はい、時間切れ」


ニヤリ、銀時の口角が上がったのが見え、目を見張る。
しかし、その瞬間には唇を重ねられていた。
いつもすぐに飛び出す鉄拳を封じるためか、力強く手を握られて。
お酒の味。
妙は必死に銀時に応えた。


「銀さんは、ズルイ……」

「そうだな」

「私、まだ何も言ってないのに……」

「じゃあ、聞かせてくれんの?」

「嫌です」


ふいと顔を背ければ、銀時はおかしそうに笑った。
腰に手を回され引き寄せられる。


「好きだ」

「……やっぱり、ズルイわ」

「大人はズルイもんだろ」


簪が引き抜かれ、結っていた髪がパサリと落ちる。
睨むように見つめれば、銀時はやはりおかしそうに笑って唇を落とした。



ーーーーー
余裕のある銀さんとか。
お粗末さまでした!

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