手の繋ぎ方


※同級生パロ



ふと、妙は顔をあげた。
いつの間にか窓の外は真っ暗になっている。


「大変、もうこんな時間!」


慌てて参考書を閉じ立ち上がる。
無造作に鞄に詰めこんで、急いで図書室を後にした。
パタパタと小走りで駆ける音が廊下に響く。
人の気配のない校舎は、なぜこんなにも心許ないのだろう。
ほんの少し、怖いという感情がこみあげたが、ぐっと堪える。
曲がり角に差し掛かった時、白いものが突然飛び出してきた。


「きゃっ!?」

「うおっ!?」


ドン、とぶつかり尻餅をつく。


「わり……って、志村?」

「いたた……。何で坂田くんが……?」

「ん、まあ……何つーか……爆睡してたらこんな時間、みたいな? ほら、手出せ」


手を差し出され、おずおずとその手に掴まる。
力強く引かれ立ち上がると、距離はぐっと近づいた。
ふわふわの天パが揺れる。


「しむ――」

「コラァ! お前たち! 下校時刻はとっくに過ぎてるぞ!」

「げ、やべ! マダオ先生!」

「え……」

「逃げるぞ志村!」

「え、えぇ!?」


手を掴まれたまま、銀時は走り出す。
ちょっと待って、と言いたいのに。
階段を駆け降りるスピードが速くて、口が回らない。
女の子の歩幅を考えろ! と心の中で悪態をつきながら、引かれるがままだった。


「……あ……」

「あ?」


ふ、と。
思わず声がもれ、銀時が振り返る。
やっと止まり、妙ははぁと呼吸を整えた。


「何? 忘れ物とか言うなよ」

「違うわよ」


ちらり、後方を見る。
先生は追ってきてはいない。
妙は銀時をじろりと睨み付けた。


「逃げる必要なんてなかったのに」

「何で?」

「私はあなたと違うの。ちゃんと先生に許可もらって残ってたんだから。長谷川先生には伝わってなかったけど」

「……俺は説教だろ」

「学校で爆睡するのが悪いんでしょう?」


ちぇ、と銀時は拗ねたように口を尖らせる。
職員室に行って、勉強終えたことを報告しにいかなきゃいけないのに。
妙は大きなため息をついた。
しかし、居残れる時間を過ぎてしまっていた。
理由が勉強なら先生も対して怒ったりはしないだろうが、問題児の坂田銀時と一緒となれば面倒なことになる。
別に彼自体は悪い人ではない。むしろ有名人で人気者だ。
ただ、受験生という立場上先生からも人との付き合いは考えろと言われている。
優等生なのだから、と。
そんな事関係ないと言いたいのだが、教師の説教を聞いてるほど暇ではない。
だから、面倒だと思った。


「……志村はさ」

「何?」

「俺が嫌い?」

「は?」

「いや、この頃俺が話しかけると面倒そうな顔をするから」


妙は目を見開いた。
今は大きなため息をついたものの、いつもは笑顔でいる。
まさか、バレていたなんて。


「……ごめんなさい。坂田くんを傷つけたいわけじゃないんだけど……ただ、周りがうるさいから、それが面倒だなって。あなたが嫌いなわけじゃないわ」

「優等生の付き合い?」

「ええ。そんなもの、って思いたいんだけれど……。本当は、進学しないで就職したいし……でも……大人はわかってくれないのよね。それが嫌だとは思わないけど、もう少し自由がほしいわ」


期待されるのが嫌なわけではない。
だから勉強はするし、優等生でいるし、進学もする。
自分のためになるとわかっているから。
不意に、ぎゅっと手を握られた。
まだ彼と手を繋いだままだったことに気づき、顔が熱くなる。


「さ、坂田くん……!」

「ん? あぁ、悪い」


パッと離された。
銀時も手を繋いだままだったことを忘れていたようだ。
残った温もりが妙に心地いい。


「……ふふふ」

「何?」

「……さっき、思ったの」

「……何を?」

「手を、引かれたのがすごく久しぶりだったことに」


妙は温もりが残る手を見つめた。
引かれるがままだった手。
ずっと小さな頃は父と繋ぎ、どこまでも引っ張ってくれた。
だが、


「私は手を引く方だったから。新ちゃんの手をずっと引いてあげていたの。だから……とても不思議な気持ちがしたのよ」


父が死んでしまったあの日から。
手を引くのは妙の役目。


「やっぱり、男の人の手は大きいわね」

「……当たり前だろ……と、早くしねーとマジで取り残されるな」

「そうね。怒られるの覚悟で職員室にいきましょ?」

「…………」


銀時にじっと見つめられ、思わずたじろぐ。
何? と首を傾げれば、銀時はスッと手を伸ばした。


「あのさ」

「え?」


きゅっと。手を握られた。
銀時はニヤリと笑って歩き出す。


「志村、俺に勉強教えてたってことにしない?」

「それって……」

「その方が先生も怒りにくいだろ? 多少時間過ぎたくらい許してくれるよ」

「悪知恵は働くのね」

「家まで送ってやるからさ」


な、と銀時は笑う。
繋がれた手の真意を聞くのは野暮というものだろうか。
妙もふわりと笑った。


「仕方ないわね。ただし、それ本当にしたらね」

「それ……って、勉強のことか……?」

「そうよ。坂田くんだって受験生なんだから。人に教えるのも勉強になるし。明日から居残り決定」

「げ……!」

「ふふ、ちゃんと家まで送ってね?」


囁くように言えば、繋いだ手に僅かに力がこめられる。


「……しゃーねーな。ま、それなら志村と堂々と付き合っても先生は何もいえないしな」

「あら、何だか違う意味にきこえるわ」

「そーゆー意味だけど?」


するり、指が絡められ体温があがる。
ずっと小さな手を引いてきた手が、引かれる方に変わった。
そして、今度は隣に。
並んで歩いている。
これは、いわゆる。


(志村? 顔すげぇ赤いぞ。そんなに恥ずかしい?)

(こ、恋人繋ぎは未知数すぎて……!)

(未知数て)



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急にふわふわラブラブしだした志村さんと坂田くん見て、マダオ先生もビックリじゃないかしら(笑)
同級生パロ楽しいな……!
お粗末さまでした!

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