1cmの青春


1cm。多分、そのくらい。そう、多分だ。1cmずつ、という方が正しいか。とにかく、1cmだ。



「貴様、さっきから気持ちが悪いぞ。何をブツブツ言っている」

「……別に」


美味しそうにミルクを飲むベル坊を膝に乗せ、ヒルダは男鹿を一瞥した。
その瞳が前より近くに感じるのは、決して男鹿の気のせいではない。
妙にむしゃくしゃして、勢いよくあんパンにかじりついた。
だが、いつもなら何とも思わないその甘さがやけに不快で、らしくもないため息を吐いてしまった。


「古市、お前ちょっと離れろ」

「は?何で?」

「いいから」

「お前が離れればいいだろ」

「真ん中座ってんのに、どう離れろと?」

「………………」


面倒なやつ、と古市は愚痴をこぼし男鹿と距離をとった。
空いた右側がスースーする。
ああ、そうだよこのくらいだ。
男鹿は古市との間にできた空間を見つめた。
少し前のヒルダとの距離だ。
左に座る彼女は気づいていないのだろうか。
縮まった、この距離を。


「ダッ!」


ミルクを飲み終えたベル坊が、のそのそと男鹿の背中へと回ろうと格闘している。
格闘、というのは校舎の壁とである。
男鹿が壁に寄りかかっているせいで、背中へ回ることができないのだ。


「……たまには普通に抱っこしてやったら?」


ちょっと離れた所から、古市が愉しそうにベル坊を指差した。


「ふざけんな!ってかてめー、何その微妙な距離。ベル坊の電撃避けるためか?」

「お前が離れろっつったんだろ!」


そうだっけ?と首を傾ける男鹿に、古市はため息を吐くしかなかった。
ベル坊はベル坊で、未だ壁と格闘している。なんとも愉快な光景だ。
その様子をぼんやり眺めていたヒルダは、さてと、とスカートを揺らし立ち上がった。


「私は帰るぞ」


パンッと傘を広げ歩き出そうとしたヒルダの手を、男鹿は無言で掴みひき止めた。
何だ、とヒルダが目で訴える。


「……昼休み、まだあるしもう少しいればいいんじゃね?」


何か言われるか、はたまた鼻で笑って帰ってしまうか。
そう思っていたけれど。


「ふむ……。まあ、たまにはいいだろう」


そう言って素直に男鹿の隣に腰をおろした。
さらに縮まってしまった距離に、男鹿は眉を寄せたが、嫌悪ではない。


「1cm……」

「ん?何だ?」

「いや、何でもねぇ」


ほんの1cmずつだけど、確実に近づいている。
あと少し、あと少しで肩が触れるか触れないかという距離だ。


「〜〜っ、だああぁぁぁ!!」

「……何を叫んでるんだ貴様は。ついに壊れたか?」

「……青春だな」


髪をぐしゃぐしゃとかき回し、わからない自分の気持ちを誤魔化そうと叫んだが、古市の余計な一言のせいでモヤモヤとしたものが残ってしまった。


「古市!殴らせろ!」

「本当のことだろ!?」



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思った以上の駄文になってしまった……!
ベル坊空気……!
男鹿ヒルの無自覚夫婦が好きです。
読んでくださった方、ありがとうございました!

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