高級アイス引っ提げて
バゴォ! と比較的聞き慣れた音が聞こえた。
もちろん何だと思うこともない。
容易に予想のつく光景だ。
案の定、人を思いっきり殴った時の衝撃音で、血まみれで倒れているゴリラ、もとい上司である近藤を素通りする。
その上司を殴った本人である妙に近づいた。
「こんにちは、姐さん」
「あら、沖田さん。こんにちは。近藤さんのお迎え……じゃないみたいですね」
「ええ、まあ。実は姐さんに用がありまして」
「沖田さんが私に? 珍しいわね」
妙は大の男を殴り飛ばした事実などないというように、にこりと笑い首を傾げた。
ガサリ、沖田は手に持っていた袋を広げる。
「姐さんダッツ好きでしたよね」
「まあ。こんなに沢山どうしたんです?」
「福引きで当てましてね。こんな高級アイス、俺たちみたいなのには似合いませんから姐さんにどうかと」
「本当に? でもいいのかしら……。せっかく沖田さんが当てたものなのに」
「ダッツも姐さんに食われた方が嬉しいはずでさァ」
妙はきょとんと沖田の顔を見つめたあと、面白い人、ところころ笑った。
「それなら、うちの冷凍庫にあるアイスを差し上げます。どうぞ、上がってください」
沖田は後ろで血だるまになっている近藤のことを考えたが、結局振り返ることもなく妙の後に続いた。
何度も訪れている場所だが、招かれて入るのは初めてだとぼんやり思う。
通された縁側に腰をかけ、一息ついた。
「はい、どうぞ。ソーダで良かったかしら?」
「ありがとうございやす、姐さん」
「ふふ、こちらこそ。ありがとうございます」
妙は沖田の隣に腰をおろした。
こうして並ぶと奇妙な感覚がすると、沖田は思った。
食べなれた空色のソーダを頬張る。
「このソーダ、メガネ……弟さんのですかい?」
「ええ。アイスキャンディーとあずきバーは常に冷凍庫に入ってるの」
「あずきバー……って、万事屋の旦那の?」
「ふふっ。いつ来ても大丈夫なようにね。あ、酢昆布も二箱は必ず用意してるんですよ。だいたいは新ちゃんが補充してくれるんですけれどね」
妙は嬉しそうに庭を見つめた。
その横顔を見ていた沖田も庭へ視線を向ける。
穏やかな風が心地よい。
近藤を迎えに来るぐらいしかここを訪れないが、なぜかここが好きだった。
実際ゆっくり過ごすと奇妙な感覚がする。だが、やはり落ち着く不思議な場所だった。
「……屯所と少し……似てるのかもしれやせん」
「え?」
「ここが賑やかになる事を知ってますから」
「沖田さん……?」
妙が沖田の顔を覗きこむ。
沖田はふと微笑した。
「俺は賑やかなのが好きなんでさァ」
「あら、私もよ」
「……さて、そろそろ近藤さん回収しないと。姐さん、アイスごちそうさまです」
立ち上がり、ぐっと背を伸ばす。
どこかで惰眠貪るよりずっと晴れやかな気持ちだ。
「沖田さん」
「はい?」
「いつでもいらして下さいね。アイス……余分に用意しておきますから」
「……ありがとうごぜぇやす」
妙はニコリと笑い、手をふった。
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「はっ、お妙さん!?」
「お目覚めですかい、近藤さん」
「総悟!? あれ、お妙さんは!?」
ズルズルと引きずられている状況を何とも思わないのか、妙の事で頭がいっぱいなのか。
近藤は引きずられたまま、沖田を見上げる。
「安心してくだせェ。近藤さんの代わりに俺が姐さんと楽しく談笑してきましたから」
「何!? そ、そうか……総悟が俺にかわって……すまなかったな、礼を言うぞ」
「いえ。アイスもご馳走になりやしたし」
「は、そうだ! 確かお前が福引きで当てたダッツが……!」
「安心してくだせェ。それも渡しておきやした」
「そうか……お妙さんが喜んでくれたのならそれでいい………………あれ、総悟がいいとこ取り?」
「ダッツ当てたの俺ですから」
ズルズルと引きずりながら。
今度はアイマスクも持っていこうか。
そんな事を考えた。
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沖田+お妙な沖妙。
この二人同い年なんだぜ!って認識すると何かが弾ける。