ベールをあげて


儀式だなんだと面倒だな、と男鹿は言っていた事があった。
だが、ヒルダからすれば、人間界にも儀式は多くある。当たり前のように。



「ヒルダちゃん可愛いわ!」


美咲がきゃぁと喜びの声をあげた。
そして満足そうに頷く。


「何騒いでんだよ」

「あ、辰巳! 見てみて! ヒルダちゃん可愛いでしょ!?」

「あん?」


男鹿は訝るように眉尻を上げた。
ぱちん、と目が合う。


「ダー!」

「お、ベル坊はわかってるわね〜。お母さん綺麗でしょ〜」

「ウィー!」

「……どうしたんだよ、それ」


スタスタと近づき、男鹿はヒルダの目の前に座る。


「これ私が作ったのよー。すごいでしょ? 友達に服を作るのが趣味な子がいて、教えてもらったの」

「……で、何でベール?」


男鹿が不思議そうな顔で美咲を見ると、美咲は大げさにため息を吐いた。
ヒルダの頭から広がる真っ白な薄い布。
男鹿はくいと軽く引っ張った。


「あんたたち、式まだでしょ?」


ふわり、美咲がヒルダの顔をベールで覆う。


「ほら辰巳、ヒルダちゃんのベールを」

「ん?」


めくれと?
男鹿が問うと、美咲は目を鋭くさせて睨んだ。


「じゃあ何で覆ったんだよ……」


小さく文句を言いながら、男鹿はヒルダのベールに手をかける。
ふわり、ベールをあげた。
至近距離で視線が絡む。


「そのまま誓いのキス!」

「…………おい」

「……お、お義姉様……」

「何よー、しないの? つまんないわねー」


トイレ行ってくるわ、と美咲は立ち上がり部屋を出て行ってしまった。


「ダブー」

「汚すなよベル坊。姉貴怒らせると怖いぜ」

「男鹿」

「何だ?」

「このベールをつけてキスをすれば、結婚したことになるのか?」

「あ? ならねーだろ。そういうのは式場行ってやることだ。だいたい、婚姻届も出さなきゃいけねーし」

「……つまりは面倒なのだな」


儀式には慣れているが、人間界のものはよくわからない。
ヒルダはベールをそっと撫でた。


「ヒルダ」

「何だ?」


ちゅ、と唇に落とされたもの。


「な……」

「次にベールをめくる時は本番でだ」


ニィ、と男鹿は笑った。



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