来年はヨメの手作りコロッケ


※男鹿誕



「あ、ヒルダさーん!」


学校帰り。
ヒルダは後ろから呼び止められ、くるりと振り返った。
大きく手を振りながら駆けてくるのは古市だ。


「何だ古市」

「これを」

「む?」


ガサリ、古市から渡された紙袋。
中には山のようにコロッケが入っている。


「それ、男鹿に渡しといてください」

「男鹿に?」

「あいつ、今日誕生日なんスよ」

「誕生日……?」


ヒルダは目を見開いた。
今日が男鹿の誕生日など、初耳であった。


「知らなかったんですか? あの家族の事だから、それなりのご馳走用意してると思いますけど」


そういえばと、ヒルダの脳内にここ最近の男鹿家が蘇る。
――コロッケさえあれば。
――ゲームは中古でいいか。
――ヒルダちゃんは何をあげるの?
ここ最近の会話は男鹿の誕生日の事だったのだ。


「……貴様が誕生日プレゼント用意するとは意外だったな」

「まあ、毎年こんな感じですよ。コロッケ安いですし」

「そうか……」


それじゃと去っていく古市を、ヒルダは複雑な面持ちで見送った。
何とも言えない感情が渦巻く中歩き始める。


「ヒルダ?」

「……!」


何も思い浮かばないまま家に辿り着いてしまった。
玄関の前で男鹿が不思議そうな顔をしている。


「ダッ!」

「ん? それコロッケか?」

「……う、うむ……」

「マジで!? オレにくれるわけ?」

「うむ……。古市からだ」

「古市?」

「誕生日……」


ボソッと呟くと、男鹿はあぁと納得したように頷いた。
ヒルダはキュッと唇を噛みしめる。


「ヒルダ? どうした?」

「……私は……今日が貴様の誕生日だと知らなかった……」

「まあ、特に言ってねーしな」

「私、は……何も用意していない……」


まだ温かいコロッケを潰してしまわないように抱きしめる。
何をあげればいいのか、見当もつかない。
俯いていると、ふわりと頭を撫でられた。


「気にしてんのか?」

「……誕生日は大切な行事だろう」

「……じゃあ、そのコロッケ。食わせてくんね?」

「そんな事でいいのか?」

「おう」


無理難題でも、できる範囲で叶えてやろうと思っていたヒルダにとって些か拍子抜けだった。
それでも男鹿が望むのならと、ヒルダはコロッケをひとつ取り出した。
差し出せば男鹿はパクリとかぶりつく。


「ダブ!」

「ん? ベル坊も食うか?」

「ダッ!」


男鹿はコロッケを指で千切り、ベル坊へと与える。
ヒルダはぼんやりとその様子を見ていた。


「ヒルダも食うか?」

「え? あ、いや……古市から貴様へのものだ……貴様が全て食べるといい」

「お前……気にしなくていいってのに」


男鹿のため息が聞こえたかと思うと、唇に柔らかな感触。
コロッケの匂いが濃くなった。


「じゃぁ、コロッケは全部口移し。今日一日オレの側にいること。風呂も寝るのもな。あ、夜のご奉仕も頼むかな」

「………………」

「誕生日、祝ってくれんだろ?」

「調子に乗りすぎだ貴様」


それでも、ヒルダの口元は緩む。


「ちょっとアンタたち、玄関でいちゃついてないで早く入んなさい。ベル坊でも美味しく食べれるケーキ用意したんだから」


美咲が顔を覗かせた。
男鹿とヒルダは顔を見合わせ、ふと微笑む。


「男鹿」

「ん?」

「誕生日おめでとう」

「おう」


どちらともなくキスをした。



----------
男鹿誕!
時間がなく、小ネタのつもりで書いてたら長くなっちゃったよ!
文章崩れまくってますが、男鹿ヒルのラブラブ感と愛でカバーとか言っておきます。
男鹿くん誕生日おめでとう!
お粗末さまでした!

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -