よしよし


プスス……と煙が舞った。
真っ黒に焦げた男鹿を見下ろし、ヒルダは目線を合わせるようにしゃがんだ。


「喜べ。坊っちゃまは漸く深い眠りに入られたようだ」

「そうか……そりゃ良かった……」


突っ伏していた男鹿は、ゆっくりと顔をあげた。
夜泣きがひどく、その度に電撃をくらっていたが、今日の所はこれで終了らしい。
はぁ、と安堵の息を吐いた。


「やってらんね……何で夜泣きなんてするんだ……!」

「仕方なかろう。坊っちゃまはまだ赤子だ」

「お前はいつもそればっかだな! たまには労れ」

「そうか……」


男鹿が静かに声を張ると、ヒルダは大きく頷いた。


「……何やってんだ?」

「労っている」

「………………」


よしよしと、ヒルダは男鹿の頭を撫でていた。
その柔らかな感触が気持ちいい事は否定しないが、何となく面白くない。
これでは子ども扱いだ。
不機嫌そうな男鹿に何を勘違いしたのか、ヒルダはその頭を抱き寄せる。
ポスン、と豊満な胸に顔が沈んだ。


「よしよし」

「………………」


やっぱり子ども扱いらしい。
母が子にするのと何ら変わりなかった。
ムカつくのに、心地よくて甘えたくなる。
らしくないと思いつつも、その穏やかな温もりを感じていたい。
男鹿は自分からヒルダに擦り寄った。


「む、珍しいこともあるな」

「うるせー……お前だって普段こんな事しないくせに」

「そうだな……。だが、私は侍女悪魔だから母性愛は強いのだぞ」

「それが面白くねーんだって……」


はぁ、と息を吐き、より深く胸に顔を埋める。
柔らかくてすごく気持ちがいい。
いつもこの位置がベル坊のものなのが恨めしく思った。
細い腰に腕を回し、強く引き寄せる。
甘い香りをずっと感じていたくて、大きく息を吸った。


****


「………………」


古市はその光景に思考が停止していた。
手に持ったヤキソバパンが滑り落ちる。


「よしよし」

「ん〜……」


何、これ。
開いた口が塞がらなかった。
屋上に来てみれば、男鹿はヒルダの胸に顔を埋めて甘えているではないか。
古市はミルクを飲んでいたベル坊の横にしゃがみ、男鹿たちを指差した。


「ベル坊……あれ、何?」

「ウ? アー……ダッ!」


譲ってやった! と言っているのか、ベル坊はふんぞり返った。
自分の場所だがしょうがない、やれやれ。と首を振っている。


「おい……男鹿……」

「あ? なんだ古市か」

「なんだ、じゃねぇ! お前羨まし……! つかヒルダさん! 何で受け入れてんスか!」

「むう……。こう甘えて擦り寄られるとな……ついつい頭を撫でたくなってしまうのだ」

「え!? 母性愛!? じ、じゃ、オレが甘えても……!?」

「そうだな……貴様は下心があるから……」

「古市。んな事したらオレが許さねぇ。ここはオレの場所だ」

「ベル坊のだろ!!」

「では私の胸で……」

「寄るなおっさん!」


いちゃつく擬似夫婦とアランドロンに挟まれ、頭がおかしくなりそうだと古市は眉間を揉んだ。


「ダブ」

「ん? ベル坊?」


ベル坊がパシパシと男鹿の足を叩いた。
その行動に一瞬不満そうにした男鹿は、ゆっくりとヒルダから離れる。


「フィ〜」


ポスン、ベル坊はヒルダの膝に座りその身を預けた。
うとうとするベル坊の頭を、ヒルダは優しく撫でる。
やがてベル坊は静かな寝息をたてはじめた。


「ふーん……ベル坊に譲ってもらってたのは本当なんだな」

「………………」

「うわ、男鹿……お前わかりやす! ベル坊に嫉妬かよ! 情けな!」

「うるせーな……」

「フ……まあ、そう拗ねるな」


よしよし、ヒルダはベル坊にしたように男鹿の頭を撫でる。
男鹿は嬉しそうにその感触を楽しんでいるようだった。
表情こそ変わらないものの、長い付き合いの古市からすれば、驚くべき変化だと思った。


「………………」


コテン、と男鹿はヒルダの肩に額を置いた。
猫か、とツッコミを入れそうになるほど甘えているのがわかり、古市はギリギリと歯を鳴らした。


「ガキかよ……」


小声だったが、男鹿の耳には届いたらしい。
ピクリと反応を示した。
不機嫌そうにしているという事は、男鹿も自覚しているのだろう。


「よしよし」


ヒルダが男鹿の頭を撫でれば、すぐに機嫌はよくなる。
子ども扱いより、甘えたい方が気持ち勝っているらしい。
膝にはベル坊、肩には男鹿。
しょうがない父子だと思うも、ヒルダは嬉しそうに微笑んでいる。
古市は舌打ちをした。
キランと親指を立てるアランドロンを無視し、早く昼休みが終わる事を願った。



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甘えたい甘えたい〜な男鹿。
本当はこれ……裏のつもりで書いてたんですが、ただ甘えたい男鹿を書きたくなって方向転換しました(笑)
これの続きで裏書こうかしら……見たいですか……?←
お粗末さまでした!

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