取りあえず撮っとけ
※夫婦受け
※変態表現注意
「あ? 何やってんだアイツ……」
人通りの少ない校舎裏。
さらに、人目につきにくい場所で背中を丸めしゃがみこんでいる人物がいることに気づき、神崎は眉をひそめた。
「どうしたの? 神崎君」
隣を歩いていた夏目が問う。
神崎はヨーグルッチにストローを差しながら、向こうを見ろと顎で示した。
「あれは……古市か?」
同じく隣を歩いていた城山が訝るようにその背中を見る。
古市はこちらには気づかず、何かを盗み見ているようだった。
「怪しいな……おい、見に行ってみるか」
「おう、そうだな……って、何でてめぇがいんだフランスパン野郎。ナイフでその髪バッサリやってやろうか? あ?」
「何だ神崎……オレがどこにいようと勝手だろうが」
「まあまあ、二人とも。古市君とこにいくんでしょ?」
いつの間にか一緒にいた姫川とにらみ合いを始めた神崎を止め、夏目は古市の背を親指で差した。
ちっ、と舌打ちをし、その怪しい背中に問いかける。
「おい、何やってんだお前?」
「うわっ!? って先輩方……!? し、シーッ!! 今いいとこなんスから!」
びくりと身体を震わせた古市は、慌てて人指さし指を口元に当てた。
静かに、と口調を強めちょいちょいと覗き見ていた先を指し示す。
そこには男鹿とヒルダとベル坊親子の姿が。
いつもなら古市もその輪に入っているのだが、今日は違った。
「おいおい、大胆だなアイツら……」
「へぇ……何か殺伐してると思ってたけど、ちゃんと人が見てない所ではいちゃついてたんだね」
「人が見てないって、オレらみたいなやつらがいないと限らねぇだろ」
「……っ!」
ニヤニヤと笑いだす男共の中で、一人頬を赤らめた城山だけはその場から目を離す。
古市たちが見ていた先では、地べたに腰を下ろしていた男鹿の膝にヒルダが座り、口づけ真っ最中な場面であった。
ちなみに、近くにいるベル坊はお寝んね中だ。
「古市……お前趣味悪いな」
「そういう先輩こそ、ガン見してますよね」
「中々見られないからな」
普段の二人からは考えられないような甘い雰囲気。
時より唇の端から覗く赤い舌が絡み合うのが見え、ゴクリ、唾を飲み込む。
「君たち、何しているんだい?」
再び、突如かけられた声に古市の肩が揺れる。
邪魔すんなという思いで振り返ると、かつての友、そしてもう一度友になった三木の姿があった。
「覗き? あんまりそういうのは……」
「ばか、三木!」
古市は慌てて三木の口を塞ぎ、その肩に腕を回した。
アレを見ろ、と耳打ちをする。
「お、男鹿……?」
目を開き驚くが、やがて頬を染め視線を泳がせた。
しかし、気になるのかチラチラと目を向けている。
「おっ」
姫川が声を上げた。
濃厚なキスから、男鹿の唇は徐々に下へと向かう。
顎、首筋、胸元。
制服から覗く谷間に到達すると、ヒルダがピクリと反応を示す。
瞳は潤み、頬は赤く、いつもの気丈な彼女と違い弱々しく見えた。
いつも蔑むような瞳ばかり向けられる男共にとって、そんなヒルダの姿はいい気味であった。ただ、そんな表情をさせているのが自分でないのが非常に残念なところではあるのだが。
「や、やっぱり、こういうのは……!」
三木が異を唱えようとしたその時。
ヒルダの反撃が始まった。
男鹿の顔を押し返し、その唇に自身のを軽く押しつける。
驚く男鹿に妖艶な笑みを浮かべ、ヒルダは鎖骨に吸い付いた。
男鹿の顔が焦りと戸惑いに赤くなる。
どうやら、ヒルダから何かをされるのは初めての事だったらしい。
ゴクリ、唾を飲み込んだのは誰だったか。
「男鹿ちゃん、あんな顔できるんだね〜」
軽い口調で笑う夏目の言葉に、城山以外の男共がどきりと反応する。
羞恥なんてないだろう男鹿のあの反応。
それは、古市も見たことなどなく、ヒルダだからこそ引き出せる表情だろう。
正直、色っぽい。と思った。
「古市……何やってんだお前」
「いえ、せっかくなんで撮っておこうかと」
「ふ、古市君、さすがにそれは……」
「三木……いいのか? あんな男鹿、二度と見れないかもよ?」
「おいおい、ヨメじゃなくて男鹿の方かよ」
「……ぶっちゃけ、先輩方もドキッとくらいはしたんじゃないですか?」
「…………」
無言。
それは、肯定したも同じだった。
「オレはしました。なので、あの男鹿の表情は収めるべきかと」
「お前……女好きは嘘か?」
「嘘じゃありませんよ。ヒルダさん大好きっス。すでに写メってありますし」
そう言って、古市は携帯を見せた。
バッチリ写ったヒルダの表情はひどく煽情的で、それを収めた古市はさすがだろう。一体いつの間に。
「お前、そういうとこ抜け目ねーな」
「や、やっぱりマズイって……!」
顔を真っ赤にさせた三木が、がばりと身体を起こした。
そのせいで古市はバランスを崩し、そしてさらに、腰を曲げ覗いていた神崎、姫川を巻き込み倒れた。
「うぅわっ!」
「〜〜〜ってぇ……」
「何してんだこのアホ!」
にらみ合っていると、刺すような視線を感じた。
「お前ら……」
しまった、と思ってももう遅い。
男鹿とヒルダが驚愕のあまり固まっている。
「ちっ、しゃーねーな……。よぉ、お二人さん」
「こんな所で濡れ場突入はいただけないぜ?」
度胸だけはある神崎と姫川。
すくっと立ち上がり、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる。
そして、スチャと携帯を二人に向けた。
「何、やってんだお前ら……」
「いや、撮っておこうと思ってな」
ほう、と男鹿は低い声を上げ、上着をヒルダの肩にかけた。
「てめえらに見せるもんなんてねーよ、失せろ。っつか、何で古市と三木までいんだ」
「あ、いや、違うよ男鹿! 僕は……その、えっと……」
「オレは偶然だぞ男鹿。何も見てない何も知らない」
しらばっくれているのはバレバレであった。
男鹿のこめかみがピクリと震える。
ヒルダを庇うように前に出て、ポキッと指を鳴らした。
パシャリ。
シャッター音が響く。
神崎の携帯からのようだ。
しかし、ヒルダは男鹿の陰にいる。ならば今何を撮ったのか。男鹿の眉が寄った。
「あ、神崎先輩ずるいっスよ! オレもまだ撮ってないのに!」
「なら撮りゃいいだろ。今がシャッターチャンスだぜ」
何を撮ったんだ、と男鹿の頭に疑問符が並ぶ。
あいた胸元から見える鎖骨に、先ほどヒルダがつけた赤い印があることに、男鹿はまだ気がついていない。
「貴様ら……!」
何かを感づいたように。
ヒルダが男鹿の前に出る。
「コイツは私のだ。その携帯とやらを寄越せ」
はらり、ヒルダの肩にかけられていた上着が落ちた。
乱れた制服。
全員の視線が、ヒルダの胸に注がれた。
パシャリ。
今度は姫川の携帯からシャッター音。
男鹿は慌ててヒルダを抱き寄せた。
「バ……! おま、 んな姿さらすな!」
「何をとんちんかんな事を言っておる! 危険なのは貴様だ!」
「はあ!? バカかお前! バカなんだろお前!」
ギャーギャー言い争う男鹿とヒルダ。
その姿を古市が撮る。
「あ、てめ、古市! そのヒルダどうするつもりだコラ!」
「古市! 貴様といえど男鹿をそんな目で見るのは許さんぞ!」
カオスだな、と城山が呟き、三木は気恥ずかしそうに俯いた。
夏目は校舎の壁に手を当て必死に笑いを堪えている。
依然、ベル坊だけが場違いにすやすやと寝息をたてていた。
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再びやっちまった☆
ここまで読んで下さった方……夫婦受け、許せるってことですか……!
もちろん男鹿ヒルが大前提です。
男鹿もヒルダもどちらかといえば攻めだと思いますが、私は受けだと思ってます。
受け同士イチャイチャしたって受けは受け!(何言ってんの)
しかし思いついた表現がこれって……学校で何してんだお前らっ。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!
そして、全力ですみません!
でも後悔はしていない!(オイ)