不覚にも


ピリッとした空気を肌で感じた。
自分の部屋なのに、居心地がものすごく悪い。


「……おい」


堪らず声をかけた。
だが返事はない。
変わりに、これまでにないくらいの勢いで睨まれた。
視線で人を殺せそうだ。古市なら確実に死んでるな。うん。


「……何イラついてんだよお前」

「……うるさい喋るな。出てけ」

「てめーが出てけよ」

「……そうする」


ん? やけに素直だな……。
だがこれで重い空気は消えるだろう。
何となくふらついてるような気がするヒルダの背中を見送り、ふぅ、と息を吐いた。


『あら、ヒルダちゃん。大丈夫?』



姉きの声。
ドアの向こうでヒルダと話しているらしい。
別にどうでもいいが、大丈夫? という言葉が少し、ホントにすこーしだけ気になった。
ふらついてた気がしたのは、気のせいじゃないかもしれないのだ。
ドアにそっと耳を当てる。


『すみません……。明日には少し楽になっていると思うのですが……』

『無理しちゃダメよ? 薬あるけど、飲んだ方がいいんじゃない?』

『いえ、相性が悪いといけないので』

『そう? 辛かったら言いなさいね。女の子の日の苦しみは本当に嫌よねー』



「…………」


なるほど。
確かにそりゃオレにはわからんわ。
悪魔にもそーゆーのあるのか……。


****


「なあ」

「……何だ」

「女の子の日って、そんなに辛いもんなのか?」

「なっ……!」


みぞおちに一発。古市なら確実に死んだな。うん。
何すんだという怒りは、顔を真っ赤にさせたヒルダのせいでどこか行ってしまった。
恥ずかしいのか、目にうっすらと膜が張っている。
ヒルダが羞恥でそんな顔するなんてあり得ない。
でも事実なわけで、不覚にも可愛いとか思ってしまった。



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期間中拍手下さった方、ありがとうございました!

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