熱帯夜

※現パロ

静かで蒸し暑い夜だった。
銀時は顔をしかめる。
扇風機ではとてもこの暑さは凌げない。
じわりと汗を吸ったシーツの感触が不快で寝返りを打つと、目を閉じているはずなのに人影が見えた気がした。
今見えたものは一体。そんなまさか。
恐る恐る、薄目を開ける。
ぼおっと浮き上がる、人の形。

「ギャアアア!!」

悲鳴を上げ、枕を抱きながら飛び起きた。

「あばばば……ば、ババアァァ……!ちょ、助け……!」

震える拳を床に叩きつけ、クーラーのおかげで快適に眠っているだろう下の階に住むお登勢に助けを求めるが、うるせーと怒鳴り声が返ってくるだけ。
いつもは聞きたくもないその怒鳴り声でも、聞こえてきた事に安堵してしまうほど今の状況が恐怖でしかなかった。

「寝込み襲われても死ぬまで気づかないかもな」

人影が発した声は聞き覚えのある声だった。
銀時はゆっくりと振り返る。

「え……もしかして、高杉くんデスカ……?」
「…………」

そっと伸ばした手が、枕元に置いていたスマートフォンを探す。
指先が触れて、瞬時に掴んで光を照らした。
そこには眩しさに目を細める高杉がいて、銀時は思いっきり跳び蹴りをかました。

「で。何してんだテメーは。何?まさか寝込み襲いにきたの?暑さで頭おかしくなっちゃった?」
「何で俺がお前の寝込み襲わなきゃいけねーんだよ」
「お前さっき自分で言ったろーが」
「強盗に入られてナイフ腹に突き立てられて内臓的なもの引っ張り出されても気づかねーっつったんだよ俺は」
「内臓的なもの!?何恐いこと言ってんの!?」
「ああ、強盗が入るような金目のもんなんてねーか。だから不用心に玄関の鍵開けたまま寝てたってことか」
「マジで。さっき神楽が遊びにきてたからな……そのままだったの忘れてたわ……」
「……ロリコ」
「ロリコンじゃねーよ!夏休みだから昼飯の面倒見てやっただけだ!」

このクソ暑い中なぜ怒鳴らなければならないのか。
どっと疲れが増した気がして、銀時は肩を落とした。
今何時だとスマートフォンの画面を見れば、時刻は午前二時。
高杉はただじっと座っているだけで、何も言わない何もしない。
本当に何をしに来たのだろうか。

「……帰んないの」
「……帰る気があるなら最初から来ねェよ」
「え、何それ。帰んないってこと?用事でもあんの?内臓的なものはやらねーよ?」
「いるかそんなもん」
「じゃあ何」
「…………」

高杉はふいと目を逸らした。

「……会いに来ちゃ悪ィかよ」
「…………え、俺に会いに来たわけ?こんな夜中に?あらら、寂しくなっちゃったのかな高杉君たら」
「だったらお前はどうすんだ」
「…………」

からかったつもりが、真面目に返され言葉が詰まった。
ポリポリ、銀時は頭を掻く。
子どもの頃からの付き合いというのも考え物だと思った。
ほんの僅かな声のトーンの違いやしぐさで何となくわかってしまう。
時々、本当に時々だが高杉は何かから逃げてくる時がある。
それが何なのかは知らない。
昔、一度だけ突き放したことがあった。
むしゃくしゃして、色んなことが煩わしくて、突き放した。
その時の高杉は尋常じゃないほどその何かに脅えているように見えて、とても放っておける様子ではなかった。
子どもならではの恐怖感かと思っていたが、回数は減ったものの今も続いている。高杉にとってはよほどの事なのかもしれない。
今はただ、高杉が自分から去るまで側に置いているのだが。

「…………まあ、いい。明日アイス奢れよ」
「…………」

銀時は高杉に背を向けゴロンと寝転んだ。
子どもの頃からの付き合い。けれど、よく知らない。
桂と坂本に聞いても首を左右に振るだけ。銀時よりも高杉と付き合いの長い桂も知らないとなると、きっと知る者はいないだろう。
高杉は何も語らない。
言ってくれればしてやれる事もあるかもしれないのに。
むくり、銀時は上半身を起こし高杉を見る。
ただその場で座っているだけのその姿は、迷い込んできた猫のようで。

「そこでじっと座られても気が散って寝れねーんだよ。お前もさっさと横になれ」

ほら、と隣を叩く。

「……そんな汗臭いふとんにか」
「文句あるならバスタオルでも敷いて寝ろ。うちに来客用のふとんなんてねーんだからな」

顔をしかめた高杉は、一瞬の戸惑いのあと遠慮がちに銀時の隣に来ると、横にはならずなぜかその場で動きを止めた。
ハア、とため息をついた銀時は高杉の頭を掴む。
僅かに開かれた目を見ながら、そのまま押し倒した。

「…………」
「…………」

寝ろ、と低い声を出すと、また高杉に背を向け寝転がる。
高杉も寝返りを打ち銀時に背を向けたのを感じた。
扇風機の音だけが静かに響く。

「…………別に、追い出したりしねェよ。だから遠慮すんな。気持ち悪ィから」

銀時は呟いた。
どうしても、突き放してしまったあの時を思い出す。
しまったと後悔しても遅いのだと、あの時ほど痛感したことはない。
けれどもう、子どもの頃のように手を差し伸べる事はできない。
簡単だったことが大人になるとできなくなるように。

「……銀時」
「何だよ」
「……狭い」
「一人用なんだから当たり前だろーが!文句言うやつは蹴り飛ばす!」
「追い出さねぇって言っただろ」
「ふとんからとは言ってねェ」

銀時は舌打ちすると、少しだけ身体を端の方へずらし高杉のために場所を空ける。
背中に感じる体温は遠くなり、また近づいた。さらに端へずれ、しかしまた近づく。
このままでは、ふとんから追い出されるのは自分の方だと、銀時はずらした身体を元の位置に戻した。
当然、背中同士はぶつかる。
今夜はじっとしていても汗が流れ落ちる熱帯夜だ。
こんなにも暑いというのに。
背中の体温をどうにかする気にはなれなかった。
むしろ。
銀時は眉間に皺を寄せる。
こんなにも暑いのに、不快にならない事が不快だった。
安心、と言えてしまう何かがあって。

「…………高杉」
「あ?」
「いや、ちょっと……」
「何だよ」
「アレだよ。ちょっと確認?」
「確認って何の確認だ」
「だから……確認だよ」
「………………」
「…………あー!もういいから!ちょっとおとなしくしててくれる!?」
「は……」

ぐるりと身体の向きを変え、銀時は高杉に抱きついた。
あつい。という感覚は一瞬忘れたように思う。

「何すんだテメーは」
「グゲッ」

蹴り飛ばされたのは銀時だった。
ふとんから転がり出て壁に激突する。

「おま、おとなしくしてって…………痛……」
「いきなり意味わかんねェんだよお前は」
「だから確認って言っただろーが」
「だから何の」
「だから……そ、存在?」
「お前俺が幽霊か何かにでも見えてんのか」
「あ、ちょっと。ゆう……ほにゃららとか言わないでくれる?本当に出てきたらどーすんだ」

高杉は軽蔑するような顔をした後、もういい寝ると再び銀時に背を向けた。ふとんの半分を空けて。
ポリポリと頭を掻いた銀時もふとんに戻り高杉に背を向け寝転がる。
背中の隙間はほぼない。
目を閉じれば余計にその体温を感じて暑苦しいと思うのに。
ほんの僅か、高杉が寄り添ってきたような気がした事にどこかで安心した。
それを認めるのは癪だが、この暑さではおかしくなっても仕方ないと言い聞かせる事で何とか自分を保つ。
ずっと、頼られているものだと思っていた。
自分が安心感を与えてやれているのだと。
けれど本当は、救われていたのはこちらなのかもしれない。高杉という存在に。
そんなバカな。銀時は否定すると、考える事を止め夢の中に身をゆだねた。

end


ゆいちさんお誕生日おめでとうございます!
今回は色んな事情もありましたので、だいぶ遅くなってしまいましたが……!
いつもプラスの雰囲気にしかならないので甘めに頑張ってみました!が、甘い……かこれ……?
やっぱりプラスかなぁ?でもイチャイチャさせるのは違うとも思ったし……難しくてわからないぞBL……!奥が深い!
でも重要なのは、ゆいちさんから見てどう見えるかという事ですのでね!どうですかね!?
雰囲気だけならそれっぽくした……つもりですが……!
こんなんで大丈夫でしょうか……。
愛は込めましたよ!銀さんと高杉と、そしてゆいちさんへの愛!
気に入ってもらえると嬉しいですけど……!
また来年もお祝いできる事を願って!おめでとうでした!

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