道の先へ

※学パロ

「ここは……えーと……これでいいのかな?」
「いや、ちょっと待て。これはこっちの応用で……」
「あ、そうか。ありがとうオルガ」

新品で使い始めだった消しゴムが、たった三日でもう半分以下の大きさになっていた。
机の上には教科書とノート。開いたページの上には大量の消しカスで文字が見えないほどだ。
休み時間だというのに、クラスのほとんどが机に向かってシャーペンを走らせている。
今までの遅れを取り戻すため皆必死だった。

「あ、ねえ、オルガ……ここは……」
「あー、ちょっと待ってろミカ。俺も今ここの問題が……」
「それは問題の言葉に惑わされているだけです。落ち着いて見れば答えが見えると思いますよ」

すらりとした白い指がオルガのプリントの文字をなぞった。
思わず見上げると、ニコリと笑うクーデリアと目が合う。

「そうか、なるほど。助かったよ」
「いいえ。団長さんならこれくらいの問題ならすぐ解るようになると思います」
「クーデリア、俺は?」
「三日月は……」

クーデリアが三日月のノートを覗き込む。

「あ、ここの問題で躓いているのですか?」
「うん」
「これは以前学んだことの応用ですから、ノートを見直してみると良いかもしれません」
「そっか。ありがとう、見直してみるよ」

消しカスをさっと払いページを戻してみる。
ぐちゃぐちゃに書き込まれた文字。教師の話もすべて記していたせいだ。
あとで、教師の話は大事な所だけ書けばいいのだと教えてもらったため、後半はわりとスッキリしている。

『オルガ!オルガ・イツカ!!今すぐに職員室に来ーい!!』

突然響いた放送。
ポーンの音なかったね、と三日月が冷静に言うのに対し、クーデリアはとても驚いたようで心臓に手を当てていた。

「オルガ、何したの?」
「別に。大したことじゃないが……エリートクラス様にちょっとな……。まあ、マルバの小言は今に始まった事じゃない」
「こ、小言ですか……」
「しょーがねぇ、ちょっと行ってくる」
「いってらっしゃい」

オルガが教室を出て行くと、三日月はぐっと背を伸ばした。
ずっと文字を書き続けるのも疲れるらしい。初めて知ったと、手を見つめた。

「……座れば?」
「え?」
「ん」

三日月はポンポンとオルガが使っていた机を叩く。
クーデリアは少し躊躇ったが、では、と腰をおろした。

「俺、クーデリアには感謝してる」
「三日月……」
「クーデリアのおかげで、ちゃんと勉強できるから」
「私は……ただ現状を変えたいと思っただけです」

クーデリアは悲しそうに眉尻をさげた。
三日月たちのいた学校は教育環境が悪く、学力も底辺で、どこにもいけない子どもたちの行き着く場所だった。
教師の態度は生徒に対するものとはほど遠く、加えてその教師が金銭面で色々とやらかし、閉校まで追い詰められる始末。
それを統合という形で救ったのは、この学校の理事長である蒔苗だ。
しかし、もともと金持ちで学力の高い生徒が集まる学校であるため、反発は大きく旧校舎に隔離されたような状態だった。
その現状を変えてくれたのがクーデリアだ。

「クーデリアがいなかったら、授業してもらえたかも分からなかった。だから、みんなクーデリアに感謝してる」
「そんな……だってあんなの……おかしいもの」

このエリート学校の中でもトップクラスのクーデリアが、生徒や教師に訴えかけてくれた。
よくは分からないが、クーデリアの存在はこの学校でも特別らしい。クーデリアが言うには親の権力が大きいかららしいが。

「でも、まだまだです……。皆さんが本当の意味でここの生徒だと胸を張れるよう頑張ります」
「クーデリア……すごいね、本当」
「その崇高さ、あの石頭たちに見習ってほしいものだね」
「え?」

いつからいたのか。
当たり前のように少し離れた席に座っていたのは仮面を被った怪しい人……ではなく。この学校の生徒会長であるモンタークだ。
誰も素顔を見たことがないとか。どこのクラスにいるのかも知られていないというから驚きだ。
そして、半ば無理やりクーデリアを副会長にした人物でもある。

「生徒会長……」
「君が声を上げた事、私は嬉しく思っているんだよ。君はきっと、この腐った教育方針を変えてくれる人物だとね」
「それでクーデリアを副会長にしたの?あんた、俺たちの味方?」
「味方、か……それは、君たちにとって我々エリートは敵であるという事かな」
「うん。今だってオルガが呼び出された。クーデリアだけだよ、俺たちを平等に扱ってくれるのは。あ、あと理事長」
「そうか……」

フッとモンタークは笑った。

「邪魔をしたな、勉強頑張りたまえ。では、副会長。また生徒会会議の時に」
「はい」

一体何をしにきたのか。
モンタークが教室を出ると、空気が軽くなったのを感じた。
三日月はちらりとクーデリアを見る。
拳を握りしめ、緊張しているようだった。

「クーデリア」
「あ、は、はい?」
「大丈夫?アイツに何かされたの?」
「い、いえ……そういうわけでは……。ただ、会長が何を考えているのか分からなくて……。私の提案したこと、あっさり承諾してくれるものですから、ちょっと不気味だなと」
「ふーん……俺らが今こうして勉強できるの、アイツが承諾してくれたからでもあるんだな……。悪いヤツじゃないのかもしれない……でも……」
「三日月?」

クーデリアの心配そうな顔が近づく。
モンタークを敵とか味方とか、そういったものに当てはめていいのか分からない。
ただ、何となく。
クーデリアが三日月たちの居場所を作れたのは生徒会だからでもある。
その生徒会は会長のモンタークと、副会長のクーデリアだけ。書記や会計はいない。

「二人っきりって、やっぱり特別な空気があると思うんだよね」
「特別?どういう事ですか?」
「相手にもよるけど、その場に二人しかいない」
「ん……?」
「あの人、信用していいかよく分からないからさ。そんなヤツとクーデリアを二人っきりにするのは心配だなって」
「別に何もありませんよ?普通に業務をこなすだけですし……」
「それでも」

三日月はクーデリアに身体を寄せた。
驚いたようにクーデリアは身を引くが、三日月が腕を掴んでそれを阻止する。

「感謝してる。でも、クーデリアが頑張って、それで遠くに行っちゃうのは嫌だから」
「遠く……?私はどこにも行きませんよ?」
「うん。近くにいてくれるんだろ?」
「えっと……み、皆さんの近くにいたいとは思いますが……あの……」
「俺の近くにもいて」

息が触れ合う位置。クーデリアの身体が強張った。

「何してんだ、お前ら」
「わっ!だ、団長さん……!」
「早かったね、オルガ」
「悪かったな、早くて」
「そう思うならもう少しゆっくりしてくれたら良かったのに」
「そういうわけにいかねぇだろ。だいたい、二人っきりじゃないの忘れてないよな?ここで勉強してんの他にもいるって。なあ、お嬢さん?」
「わ、わ……!」
「クーデリア顔真っ赤。あれ、みんなも赤い?」

本当なら、会話すらできないほど遠い存在。
だから応えたいと思う。
クーデリアが作ってくれたこの道の先。進めば自分のためになる大事な道。
進んだ先で、きっと待っていてくれるだろうから。
三日月は笑うと、またシャーペンを走らせた。


end

何だこの設定って書きながら思うも進めた話。
原作ネタを学パロにしたかったんですが……暗殺教室っぽいなと(笑)
ミカクーが書きたいのに設定の方ばっかし考えしまうな……もっと純粋にミカクー書きたいのに……!
そして二人っきりじゃないの忘れていたのは私です。そういやクラスのみんないたよ!シノあたりは騒いでもおかしくないよ!
反省点が多い……。
お粗末さまでした!

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