疑問の先

こういう事には気をつけろと、幾度と言われてはいたけれど。

「だからって……だからって……!」

ちらり、後ろを振り返る。

「マキちゃぁぁぁん!!」
「ギャァァァァ!!ついてくんな!!」

中には過激なファンもいるのは重々承知だ。
実際、これまでも怖い目にもあった事がある。
大好きな人に迷惑をかけて、よく愛だのと言えるものだ。
と、そう言ったら。愛とは勝手なもので、少なからず迷惑をかけるものだと反論してきやがった。
程度ってものがあるだろうに。
しかし、これに気づかないから、これだけの事をするのだろう。
だから、何を言っても無駄。

「もうやだ……!アイドルなんて……!」

そもそも、アイドルって何だ。
路線がブレブレだったり、変な衣装着せられたり、おかしな歌を歌ったり、金魚草大使にされたり。
思い描いていたものとはだいぶ違う。

「マキちゃん!愛してるよー!!」
「ああ、もう!何なのアイツの体力!!しかも速ぇ!!」

このままでは追いつかれる。
ゾッと寒気を感じた。
前にこんな事あった時はどうしてたっけ?
というか、今どこ走ってんだろう?
無我夢中で、ここがどこかが分からない。

「誰か……!」

助けを呼ばなければ。
そう思った瞬間、目に飛び込んできた人影。

「ん?」

振り返るその人。いや、その鬼?
何でもいい。とにかく、この時ばかりは救世主に見えた。

「鬼灯様ぁぁぁぁぁ!!」

飛び込むように抱きついた。

「た、たたた助けてください鬼灯様!!」

がっしり掴んで、揺さぶって、懇願。
切れ長の目がぱちぱちと瞬く。
ああ、そういえば。前も鬼灯様に助けてもらったんだ。
ただし、金魚草大使辞めると言ったからだが。
あ、条件つけなきゃ今回も助けてくれないかも……!?
口を開いたと同時に、逞しい腕が顔の横を過ぎた。

「マキちゃん!アイドルが男に抱きつくなんブギィァッ!!」

吹っ飛んでいく迷惑男。
その様子がスローモーションで見えるほど、思わず呆気にとられた。

「大丈夫ですか、マキさん」

ハッとして見上げれば、結構近い位置に顔があって。
抱きついたままだったと気づき、慌てて離れた。

「ご、ごごごめんなさい!そ、それと、あ、ありがとうございます!」
「いえ。相変わらず大変そうですね」

また助けてもらっちゃった。
助けてと言ったのはこちらだけど。
今度は普通に助けてくれた。
全力疾走と恐怖で、ドクンドクンと脈打つ鼓動に手を添える。
少しだけ膝も震えていて、思った以上に怖かったんだと実感した。

「マキさん。本当に大丈夫ですか?」
「え?あ、はい!大丈夫です!鬼灯様がいてくださって助かりました。でも何でこんな所に?」
「え、何でって……ここ、閻魔殿ですから」
「へ?」

辺りを見渡す。

「気づいてなかったんだね、マキちゃん」
「閻魔様!?」
「あれ、ワシの事も気づかなかった?」

こんなに存在感あるのに。
鬼灯様より先に目に入るのが普通なのに……!?
それに、さっきから廊下を通る獄卒も少なからずいる。
つまり、ここに辿り着くまでに何人もの獄卒とすれ違っていた事になる。
そういえば「あ、マキちゃんだ」という声を何回か聞いた気がした。
にもかかわらず、どうして気づかなかったのだろう。
変な汗が噴き出した。

「よっぽど怖かったんだね、マキちゃん……」
「え?」
「アイドルのファンにああいう輩がいるのはマキさんも知ってるでしょう。というか、マキさんならあの程度どうにかできたんでは」

すでに別の事に恐怖していたのだが、それは言えない。
恐怖というか、何でか恥ずかしい。
何でだろ?

「あの〜、閻魔様、鬼灯さん。白澤様ここに来てません?」
「あ、桃太郎くん。いらっしゃい」
「白豚さんなら、そこの男の下敷きになってますよ」
「え!?あ、本当だ!ちょ、大丈夫ですか白澤様!」
「白澤君……いたんだ……気づかなかった……。君、よく気づいたね」
「ええ。そこにちょうどあの男が一直線上に並んだのでつい」

…………。
助けてくれたわけじゃないのか。
思わずため息。
結果的に助けられた形になっただけで、別に助けようと思ったわけじゃない。
何かちょっとショック。

「ん?ショック?」

結果的にでも、助かったのだからいいはず。
なのに、ショックって。

「マキさん、顔が赤いですけど。やっぱり大丈夫じゃないのでは?」
「い、いえ!大丈夫です!」
「そうですか?ならいいのですが、無理はしない方がいいですよ」
「……はい……」

無意識に、ここに来てしまったのだとしたら。
最初から助けを求めてここに来てしまったのだとしたら。

「だとしたら……何……?」

自分に問いかけてみても、よくわからない。

「マキさん。あの男のことは通報しておきましたから安心してください」
「あ、はい。ありがとうございます……」
「鬼灯君、マキちゃん送ってあげなよ。きっと不安だろうし」
「そうですね。歩けますか?」
「……はい」
「では行きましょう」
「あ、鬼灯さん!白澤様踏んでます!」

優しいのか、そうでないのか。
気遣う言葉も本心なのか、上辺だけなのか。
そんな事考えるだけで胸のあたりが変に突っかかる。
ため息がこぼれた。

「アイドルは大変ですし、色んな目で見られる職業ですけど」
「え?」
「嫌な人がいる以上に、あなたに憧れ、あなたを純粋に追いかけるファンも多いと思いますよ」
「…………!あ、ありがとうございます……!そうだといいな、って思いたいです……。アイドルやめようかな、なんて思ってたので……今の言葉嬉しいです」
「え!?」
「え?」
「アイドルをやめる?それはいけません!マキさん、あなた人気者って自覚あるんですか!」
「ええっ!?なぜここで説教じみた口調!?」

何のスイッチが入ったんだ。
鬼灯様は本当によくわからない。
結構関わりあるのに、まったくわからない。
というか、理解できる日なんて来るのだろうか。

「あ、金魚草大使の心配してます?」
「その通り!!」
「力いっぱい言われると傷つく!」

鬼灯様にとって、金魚草大使としての価値しかないのかなぁ……。
アイドルって……何なんだろう……。

「まあ……確かにそれは大きいですけど。私はマキさんのファンですから」
「…………え?」
「このままアイドル業頑張ってほしいですね」

顔色ひとつ変えず言い放った言葉。
本心なのか、そうでないのか。
鬼灯様の言うこと、考えていることは全然わからない。
でも。

「アイドルも金魚草大使も頑張ります!」

嬉しいと思った。


end


鬼(←)マキな感じになりましたが、最初はただの鬼+マキで、いかん!何かそれっぽい描写いれねば!と思いできた話。
鬼マキ可愛い……!
お粗末さまでした!

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