ラブレター

鞄から取り出した教科書を、机に半分入れたところで違和感に気づいた。
一旦教科書を置き中を覗く。
――手紙……?
取り出してみれば、白い封筒に『灰原さんへ』とだけ書かれていた。
広げると、一生懸命書いた事が伝わる文字が並んでいる。
ほう、と思わず息を吐いた。

「なんだ、それ。ラブレターか?」
「……人の手紙勝手に覗かないでくれる?」
「悪い、つい探偵としての性が……」

ハハハ、と笑うコナン。
慌てて自分の席に座る様子を睨むように眺め、手紙を丁寧にしまうと鞄に入れた。

「返事は書くのか?」
「いいえ。ただ可愛らしい想いが綴られていただけだもの。返事が欲しいと書いてあるならともかくね」
「ふーん……。今のガキはませてんな……」
「あら、あなたもガキでしょ。それに」
「それに?」
「あなたも本当の小学一年生の頃は絶対マセたガキだったと思うわ。絶対」

絶対って二回も言うなよ。
ほんのり朱を散らすコナンにくすりと笑い、教科書を机の中に入れた。
おはよー、と。
静かだった教室が段々騒がしくなってきた。
今は男女関係なく仲良く一緒に遊びまわっているが、やがてその関係性も変わってくる。
手紙をくれた子の想いのように、ただ可愛らしい想いではなく、もっとずっと深い想い。
小さな子どもに恋心は理解できないとは言わない。
ただ、その気持ちがどれだけ重いかは、きっとわからないだろう。

「ふふ……私は子ども以下なのかしら……」
「え?何がだ?」
「別に。私、恋愛ってよくわからないから」
「何だよ急に……」

深くて重い分、大人の方が実は恋心をわかっていないのかもしれない。
こんな純粋な想いを、忘れてしまうのだから。

「灰原?」
「ねえ、江戸川君」
「え?」
「私があなたに抱いてる感情は何なのかしらね?」

深くて、重い。
大切に想う人も、想ってくれる人も沢山できた。
けれど、彼は特別。
どれだけの人に出会っても、その特別は変わらない。
組織に作らされた薬で人生を狂わせてしまった。
厄介な事に巻き込んでしまった。
どんな言葉を並べても、どんな事をしても償いきれない。
それなのに、頼っている。護られている。
罪の意識と感謝。
大人でも持て余すこの気持ち。
子どものように純粋に彼を想った時、それはどんな感情なのだろうか。

「お前、何か変なもんでも食ったのか?」
「今日はコーヒーだけよ」
「ちゃんと朝食はとれよ。小学生がコーヒーだけって……いや、そうじゃなくて」

コナンはガシガシと頭を掻いた。

「まーた何か思いつめてんじゃねーだろーな」
「違うわ。ラブレターなんて、久しぶりにもらったから。ちゃんと恋愛らしい恋愛をしてなかったなって思っただけよ」
「…………」

相手を何よりも大事に。
顔を見るたびにドキドキと高鳴る鼓動。
一緒に、そばにいたいと願う心。
そんなキラキラした恋愛は経験がない。
組織に自由なんてなかったのだから、仕方がないといえば、仕方がないのかもしれないけれど。

「奴らの悪事は必ず暴く。そんでお前も、必ず自由にしてやるから」
「え?」
「そうしたら、お前も何の気兼ねもなく恋愛できるだろ?」

本来なら年頃なんだし。
そう笑う彼に、ただ相槌を打つ事しかできなかった。
組織から解放されても、罪が消えるわけじゃない。
感謝の想いは一層強くなって、きっと今よりわからなくなってしまうだろう。
彼に対して抱いてる感情が何なのか。
恋心は、許されない。
それは抱いてはいけない感情。
このわからない感情を恋心にしてはいけないのだ。
だから、名前が欲しいと思う。
恋にしたくないから、違うのだというための名を。
――心まで子どもに戻らなくて良かったわ……。
もし、純粋に想ってしまったら。

「コナンくーん、哀ちゃーん!おはよー!」
「おはようございます。二人とも今日は早いんですね」
「あ、そういえば灰原。昨日隣のクラスのやつが灰原の机に何か入れてたの見たけど、何だったんだ?」
「えー!哀ちゃんの机に!?まさか事件!?」
「違うわ。ただのラブレターよ」
「ら、らぶれたぁ!?は、灰原さん!誰からもらったんですか!?」

キャー、と騒ぎ始めた大切な友人たちに微笑む。
彼らのように、純粋に想う事はないのだから、もし、なんて必要ない。
名前のわからないこの感情はうやむやのまま。
心の奥底に押し込めて。
今日も知らないフリ。


end


哀ちゃんはとても複雑な立ち位置にいて切ない!
自分のせいでって絶対責めるだろうし、でもたくさんの人に護られてて、頼るしかなくて……。
幸せになってほしいです本当に……。
お粗末さまでした!

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