円らな……

心地良い風が吹き抜けた。

「この辺りでいいか……」

シンジは歩みを止め、周りを見渡す。
澄んだ空気、生い茂る緑、川のせせらぎ。
遠くで滝の音も聞こえた。
ぴちょん、と何かが跳ねる。
よく見えなかったが、ポケモンである事は間違いない。
シンジは釣竿を取り出すと、ルアーを取り付け川に放った。
丁度いい岩に腰を下ろし、流れる水をじっと眺める。
のそり、何かが視界の端で動いた気がして視線を向けた。

「…………」
「…………」

バッチリと目が合った。
逸らされない、目。
吸い込まれそうな瞳を持ったヤドンがじっとこちらを見つめていた。

「…………」
「…………」

耐えきれず、逸らしたのはシンジ。
ヤドンはまだこちらを凝視している。
シンジは一応図鑑を開いたが、すぐに閉じた。
あれは……ない……。
ヤドンの視線を感じながら、再び水面を見つめる。
ルアーのすぐ近くで、コイキングとヒンバスが同時に跳ねた。

「…………」

なぜか二匹とも顔がこちらを向いていたため、バッチリ目が合った。
ヤドンの視線もまだある。
シンジはすくっと立ち上がると、急いでルアーを回収した。
もう少し上流へ。
そのためには、ヤドンの側を通る必要がある。
シンジは極力見ないように、釣竿を握りヤドンのいる方向へと向かった。
体は川を向いているのに、顔だけこちらに向けているヤドン。

「……ヤ」

びくりと、情けないことに驚いてしまった。
シンジはヤドンを見る。
小さく鳴いたヤドンは、先ほどとは少し顔つきが違う気がした。
もうシンジを見ていない。
ヤドンの見ている先を、シンジも追った。

「リール!」
「マリル……?」

いつからいたのか、向こう岸で踊るようにくるくる回っているマリル。
ぴちょん、コイキングとヒンバスが跳ねる。
それを待っていたかのように、マリルは二匹を足場にしてこちらに渡ってきた。
ヤドンがゆっくりと口を開ける。

「リル!」

どすん。
マリルはヤドンの頭の上に着地した。

「…………」
「リル?」

マリルがシンジを見上げた。
じっと見つめてくるマリルに、シンジは訝るように見つめ返す。
何だ、と問おうとした瞬間。

「リルリル!」

ぴょんとマリルがシンジの胸に飛び込んできた。
思わず抱き止めると、甘えた声を出しながらすり寄ってくる。
懐かれた、のだろうか。
ふと、シンジは視線をヤドンに向けた。
思わず唸ってしまいたくなるほど、ヤドンはじっとこちらを見ている。
何を考えているのかわからない顔をしているはずが、怒っているような気がした。

「…………」

気のせい、だろうか。
シンジは視線を逸らした。
先ほど以上に、あの目を直視できない。
まさか、このマリルを……?
相変わらずすり寄ってくるマリル。
とりあえず。シンジはレベルと使える技をチェックする。
能力的にはさぼと高くはない。
仮に、このマリルの能力が高かったとして。
水タイプをゲットしに来た自分は、このマリルをゲットできただろうか。
感じるヤドンの視線が痛かった。


end

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