セブンデイズ

キラキラとした朝の光が射しこんでいた。
うっすらと目を開けたが、視界はぼんやり。目を擦ろうと腕を動かす。しかし、ふと昨夜のことを思い出し、探ろうとその腕を伸ばした。
ほっそりとした滑らかな感触。思わず口もとがゆるむ。
すべすべとした、ずっと撫でていたいそのさわり心地をもっと味わいたくて抱き寄せた。

「……ん?」

何かが違う。
いつもより小さいような、おかしな感覚がしてパチッと目を開けた。

「うおっ!?」

驚いて、起き上がって、仰け反って。
ベッドから落ち背中を打った。
ちゃんと痛い。天井を見つめ、寝起きの頭で今の状況を呑み込もうとする。

「…………」

サトシはゆっくりとベッドの上に目を向けた。

「…………か……カスミ……」

ベッドで眠っているのは間違いなくカスミだ。
昨夜一緒にベッドに入った、恋人。
けれどその姿は。
サトシは全身から汗を噴き出した。

「おい、カスミ……!」
「んー……」
「カスミ!起きろって!」
「うぅー……ん……なによ……」
「おま、大変なことになってるんだけど!!」
「たいへん?」

寝ぼけ眼のまま、カスミは上体を起こした。
だらだらと汗を流すサトシを、パチパチと目を瞬かせながら見つめる。
サトシは顔を引きつらせ、そっと手鏡を持ってくるとカスミにその姿を見せた。

「…………」
「…………」
「マジックミラー?」
「いや、普通の鏡」

カスミからも汗が噴き出した。
震える手で自分の頬に触れ、腕に触れ、胸に触れる。

「ちょっと!どういうこと!?」
「知るわけないだろ!」

すっかり逞しく成長した青年と、可愛らしい容姿の少女。
爽やかな朝の空気を切り裂くように、二人の悲鳴が響き渡った。

****

「……胸が小さくなったのは正直ショック受けたわ……」
「そこかよ」

今起きていることが理解できず、わあわあと騒いでいたサトシとカスミ。
それでもお腹はすくもので。
とりあえず食事にしようとコーヒーとパンを用意した。

「……にがっ!」
「え、苦かった?そのくらいなら飲めるよな?」
「これいつもと同じ?ちょ、ミルクミルク!あと砂糖!」
「ん」
「ありがと」

カスミはコーヒーにミルクと砂糖をどばっと入れる。

「……カスミ、味覚も子どもになった?」
「……あ……」

ハッとして、カスミはコーヒーを混ぜていたスプーンを落とした。
そう。今のカスミは子どもの姿をしている。
姉たちに見劣りしないほど美しく成長したはずの彼女は、今はサトシと出会った頃の姿をしているのだ。
朝起きたら、そんなことになっていた。誰が信じるのだろうこんなこと。
しかし、実際サトシの前にいるのは子どもの頃のカスミだった。
サトシがカスミを好きになった、あの頃の。

「……懐かしいな」
「受け入れないでよ」
「いやいや、受け入れるわけないだろ。今のカスミを抱きしめたりしたらロリコンになる。捕まる」
「ぶっ!!」
「笑うな」

恋人の昔の姿。
どんな姿だろうがカスミはカスミのようだが、一緒に甘い時間を過ごしたいと思っていたサトシにとってまさに青天の霹靂。あり得なさすぎて笑えてくる。
だが笑っている場合ではないのだ。どうしてこんなことになったのか。どうすれば元の姿に戻れるのか。それを探さなければならない。

「なあ、何か心当たりないのか?」
「あるわけないでしょ。昨日はいつも通りに過ごしてたんだもの」
「だよな……寝るまでは何ともなかったんだし、寝ている間に何かあったってことだけど……」

カスミがふっと不安げな顔をする。
このまま戻れなかったらどうしよう。そんな顔だ。
サトシはどうしてかそんなカスミの姿が愛しく思え、そっと手を伸ばし頭に触れた。

「絶対何とかするから」
「……どうやって?」
「それは分かんないけど。でもさ、カスミはちゃんと覚えてるじゃん。記憶まで子どもになってないだけ良かったよ」
「そう、ね……そうなのかも……」

安心したようにカスミは微笑んだ。
昔から見ていたその笑顔。
子どもの姿でなければ唇を奪っていただろう。悔やまれる。
サトシは深呼吸すると、コーヒーを一気に飲み干し立ち上がった。

「とりあえず、オーキド博士かな」
「そうね……博士が何か知ってるといいんだけど……」

電話してみるかと思ったと同時に、ピンポーンと音が鳴り響いた。
こんな時に誰だ。サトシはため息をつくと、玄関へと向かった。

「や!」
「……シゲル……?」

やたらとご機嫌なシゲルだった。
何でここに。ここはカスミの家だ。

「サートシ君、昨夜はよく眠れたかい?」
「何のようだよ」
「君に用はないさ。カスミは?」
「カスミは……」
「……シゲル?」

声が聞こえたのだろう。カスミが小走りで駆けてくる。
今の姿じゃまずいのでは。そう思ったが、シゲルは表情を変えない。
すっと腰をかがめ、カスミと目線を合わせる。

「いや〜、ホントにそんな姿になるもんなんだね」
「え?」
「は!?」
「ハハハッ、昔は生意気だと思ったけど今見ると可愛いじゃないか」

シゲルが笑いながらカスミの頭を撫でる。
親戚のおっさんか。
じゃなくて。

「シゲル、どういうことだ……?」
「おいおい、何怒ってるんだいサートシ君。昔なつかしの彼女の姿だろ?」
「どういうことだ」
「うぐ、ちょ、放してくれるかい?」

胸ぐらを掴んで締め上げれば、シゲルはギブだとサトシの腕を叩く。

「研究に行き詰まってさ、ちょっと気分転換に作ってみたものがね。それでさ」
「それってなんだ」
「だから……若返り……みたいな?」
「それ、ちょっと気分転換に作るようなものなの?」

ごめん、とシゲルは謝罪にならないような軽さで両手を合わせた。
どうやら、カスミが小さくなったのはシゲルのせいらしい。
原因がわかったのはいいが、面白くない。カスミで実験したようなものだ。

「一体いつカスミにそんなことしたんだ」
「もちろん昨日さ。君がここに泊まりに来るのを知ってね。君が狼にでもなったらカスミも大変だろうと思ってさ。ちょうどいいかなって。だってこれなら手を出せないだろ?」
「バッ!何言ってんだシゲル!」
「そういえば昨日、サトシのママさんからもらった差し入れの中に、女の子が好みそうなお酒が……まさかそれが……?」
「ああ、それだよ。僕が渡すと警戒すると思って」

サトシとカスミは肩を落とした。

「それで、どうやったら戻るの?」
「一週間くらいしたら自然と戻るけど」
「一週間!?」
「ハハ、せいぜい我慢するといいよサートシ君」
「やめろ!」
「あ、もうひとつ方法はあるよ」
「それは?」
「もちろん、呪いを解くには王子様のキスに決まってるだろう」
「お前ー!手出せないってわかってて!!」
「君が一週間我慢するか、ロリコンになるかの話さ」
「カスミは幼女じゃ、ねぇ……!」
「じゃあキスすれば」
「〜〜っ!!」

あたしはどっちでもいいけど。と、カスミが照れながら言うものだから、サトシはさらに頭を悩ませることになったとか。


end

たまには趣向を変えて。
と思ってできたお話。ですが、設定ぶん投げにもほどがある(笑)
ポケモン世界なのか、現パロ的なものかも決めてませんからね。シゲルさん何でそんなもん作れるとか、色々無視してますからね。都合のいい話ですよ。
二十歳サトカス+シゲルって事くらいしか決めてませんので、ご自由に想像して頂ければ……ホントぶん投げですみません。
ちょーっとでも楽しんでもらえたら嬉しいです。
お粗末さまでした!

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