遅咲きの初恋

※現パロ


気づいたらいつも一緒にいるような仲だった。
小さな頃から当たり前のように側にいて、小学校、中学校、高校、そして大学。
当たり前のように、一緒だった。
周りから聞かれる事といえば「付き合ってなかったの?」だ。
カップルだと思われるくらいいつも一緒だったから仕方ない事だが、付き合っている事実はなかった。
お互いにそんな感情を抱いていなかったのだから。
お互いに、他に恋人を作った時もあった。二人とも長続きはしなかったけれど。
大人になって周りから聞かれる事といえば「いつ結婚するの?」だ。
付き合った事もないのに、どうしてそう聞かれるのだろか。

「お別れ、だね。サトシ」
「だな。まあ、会おうと思えばいつでも会えるし。元気でやれよ、カスミ」

初めて、遠く離れた。
ずっと一緒なんて無理なのはわかりきった事。
だからこの別れも当然のように受け入れた。
夢を追いかけるカスミとのさよならは、笑顔で交わした。


****


「あー……疲れた……」
「お疲れ。ここんとこ忙しかったみたいだな」
「急ぎの仕事が入ってきたからな……。でもそれも終わったし、余裕できそうだ」

乾杯、とグラスを合わせた相手は昔からの友達のタケシ。
時々こうして居酒屋で酒を飲み交わしては、近況や昔話なんかで盛り上がる事を楽しみにしている。

「そういやサトシ。俺、この間カスミに会ったよ」
「え?本当か!?」
「ああ……って、何だ。聞いてないのか?」
「最近は忙しくて連絡とってなかったんだよ。あいつ、元気にしてた?」
「元気だったよ。色々と頑張ってるみたいだしな」
「そっか……」
「カスミがここを離れてちょうど一年だな」
「ああ。当たり前だけど、普通に日々は過ぎていくんだよなぁ……」

最初こそカスミのいない日々は違和感があったが、そのうち慣れてしまった。
あれだけ一緒にいたのに。なかなかの薄情っぷりだ。
けれどそれは、カスミの夢を心から応援しているから。純粋に背中を押しているから。

「そのカスミなんだが、仕事先の都合で何回かお見合いしてるらしい」
「ああ、それは少しだけ聞いたな」
「どれもダメだったみたいだけど」

タケシはハハッと笑う。
まだ若いが、結婚を考えてもおかしくはない。
カスミは仕事の方を優先させたいから結婚はまだ考えたくないと言っていたけれど。
やがては誰かと結婚をするのだろう。
それはきっと、サトシも。

「で」
「ん?」
「サトシは誰かいないのか?」
「今はいないなー。長続きした事ねーし……」
「何がいけないのかわかってんのか?」
「んー、まあ、それはカスミだろうな」
「カスミもサトシが原因で長続きしないって言ってたぞ」
「ハハッ。だろうな」

仲がいいから。
相手を嫉妬させてしまうし、ついつい比べてしまう。
カスミならこうするのに、こう言うのに。どうしてもそう考えてしまうのだ。
きっとそれはカスミも同じ。
ここまで気が合う友人がいるというのは、幸せなような、困るような。
けれど、一度だって否定した事はない。
カスミがそばにいてくれたから、今までを楽しく過ごせてきたのだから。

「別れは当然だったけどさ……」
「ん?」
「できることなら、ずっと一緒にいられたらいいのにって思うよ」
「…………お前たちは家族も同然の仲だもんな」
「ああ」

でも、家族とは違う。
家族に対して感じる愛情とは確かに違うとわかる。不思議だと思った。

「サトシ」
「え?」
「電話、鳴ってるみたいだぞ」
「ん、あ、本当だ……カスミからだ」
「久しぶりの会話だな。ゆっくり話してきて構わないよ」
「ああ、サンキュー」

席を立ち、小走りで店の外に出る。
画面に映し出されたカスミの名前に、自然と笑みがこぼれる。

「もしもし、カスミか?」
「久しぶり、サトシ。今大丈夫?」
「ああ。タケシと飲んでたとこだ。ゆっくり話してこいって」
「ふふ、そうなの。この間タケシに会ったんだけど、聞いた?」
「ああ。元気そうだったって聞いて安心したよ」

久しぶりのカスミの声。
変わらない声音に嬉しく思う。
自然と心が弾み、それはカスミも同じなようで会話も弾んだ。
長い時を共に過ごしても話題は尽きなかった。
そして今、しばらくぶりに話しても気まずいなんて事もなくいつも通りだ。

「なあ、カスミ」
「ん?」
「休みの日とか一日だけでも戻ってこいよ。やっぱりさ、顔見て話したいし」
「そうね……一年は帰ってないものね……」
「本当か?なら、次の休みは?」
「せっかちね〜。えっと、ちょっと待って……次の休みは……と……」

気持ちが逸る。
会えるとわかった時に高鳴った鼓動。
仕事で忙しい日々の中、久しぶりに嬉しいと思えた。

「あー……」
「どうした?何かあったか?」
「うーん……お見合い……」
「お見合い?ああ、そういえばそんな事……」
「…………」
「それじゃ仕方ないよな。またその次の休みに……」
「サトシ」
「んん?」
「お見合いは断るわ」
「……えぇ!?」

それは、大丈夫なのか。
一度すると決めたのなら、途中で断るなんて失礼なのでは。
会えるのなら会いたいけれど、大切な用事を断ってまで会う事はないはず。
ぐるぐる考えていると、カスミがくすりと笑った。

「サトシと会うほうが大事」
「あのなぁ……そりゃすぐにでも合って話したいくらいだけど、お見合いだろ?カスミの将来に関わるかもしれないじゃん」
「いいの。もともと結婚どころか恋愛する気もないのに、お見合いなんてしても、ね……。それに、サトシと電話で話したら余計に会いたくなっちゃったし」
「……カスミがいいなら、いいけどさ……」

相手方は怒るだろうなぁ、と何となく罪悪感。
けれど、カスミと久しぶりに会える嬉しさの方がやっぱり勝る。
会えない日々にはすぐに慣れたのに、不思議な事に会えるとわかるとバカみたいに嬉しいのだ。

「じゃあ、サトシ……。会いにいくから」
「ああ!楽しみにしてる」
「うん……!」

その時にたくさん話そう。最後にそう約束して電話を切った。

「一年ぶりに会えるんだな……」

話したい事はたくさんある。
きっと、次から次へととめどなく出てくるのだろう。一日じゃ足りないかもしれない。
ふと、何かが胸の内にこみ上げてきた。
不思議に思いながら、サトシは再び店の中へと戻りタケシの肩を叩く。

「もういいのか?」
「ああ。次の休みにこっちに戻ってくるって」
「本当か!?良かったじゃないか、サトシ」
「ああ……」
「ん?なんだ、嬉しくないのか?」
「嬉しいに決まってるだろ。ただ……」

この関係って、何なんだろうか?
友達だ。大切な大切な幼なじみ。いつも一緒にいるのが当たり前な関係。
でも、それはいつまで続くのだろう。
どちらかに恋人できるまで?いや、恋人ができても関係は変わらなかった。だから長続きしなかった。
ならば、結婚するまで?お互い結婚をしたら関係は変わるのだろうか?
それは。

「何か嫌かも……」
「え?何が嫌だって?」
「いや……もし、俺とカスミのどっちかが結婚したらさ、この関係は今と変わるのかなって。だとしたら嫌だなって思ったんだ」
「ああ……誰だってそうさ。気軽に会えなくなるのは寂しいもんだよ」
「だよな……」
「あのさ、サトシ」
「ん?」
「サトシはカスミと結婚したいと思わないのか?」
「え?」

「いつ結婚するの?」と聞かれれば、付き合ってないのに何でそんな事聞くのかと思っていた。
「結婚したいと思わないのか?」と聞かれ、戸惑った。
そんな風には考えた事はなかったから。
だって、そういうんじゃない。
カスミに対して恋愛感情なんてなかったし、カスミもそうだから。
じゃあ、何を恋愛感情というのだろう?

「……?」
「サトシ?大丈夫か?」
「あ、ああ……何か……あれ……」
「悪い、変な事言ったか」
「いや……そうじゃなくて……俺……カスミの事どう思ってるのかわからなくなって……」

友達。大切な大切な幼なじみ。
けれど、それは何が違うのだろうか。友達を大事に思う気持ちと、誰か一人を愛する気持ちと。
カスミと結婚したいと思わないのか?
結婚。それは、一生カスミと共に生きるという事。
サトシにとって理想的な形。

「あれ……?」
「お、おいサトシ……本当に大丈夫か?」
「……もしかして」
「もしかして?」
「……これ、が……好きって事……?」

この、小さな頃からカスミを想っていたこの気持ちが、好きだという感情なのだとしたら。
当たり前すぎて、わからなかっただけなんだとしたら。
カスミが好き。それは当たり前の事。

「ずっと……カスミが好きだったってことか……?」
「サトシ……」
「な、なあタケシ、どう思う!?」
「さあな……俺はサトシじゃないから分からん。でも、だとしたら、とんでもない事だな」
「まったくだ……遠回り過ぎるだろ……」

カスミに彼氏ができた時も、お見合いすると言った時も、応援した気持ちは本物だったのに。
好きだから、幸せになってほしいとは常に思っていた。だからだろうか。

「初恋、ってやつなのかなぁ……これ……」
「本当にとんでもないな。このまま気づかなかったらどうするつもりだ」
「それはそれでいいよ。カスミが幸せになれるなら、誰と結婚しても構わない。気づいた今でもそう思うしな」
「ほう……それはまた凄い……好きな人の幸せを願うのは当然だが、辛いものでもあるのにな」

カスミに対して抱いていたものが恋愛感情だったなんてな。サトシは笑う。
今まで彼女ができてもうまくいかないわけだ。
カスミに会える次の休み。
何かこの関係は変わるだろうか。

「そういえば、何でタケシはカスミと結婚したいと思わないのかなんて聞いたんだ?」
「……それは……恋愛感情は置いといて、そうした方がサトシもカスミも幸せになれるんじゃないかと思ったから……かな」

タケシは微笑んだ。

「告白は?」
「ん、する。小さな頃からカスミを想ってきた気持ちだからな」
「そうか……」
「……この気持ちはカスミも同じだと思うんだ。だから、きっと……」
「じゃあ、カスミの気持ちも何なのか気づかせなきゃいけないな」
「ああ」

小さな頃から当たり前だった。大人になっても変わらない想い。
だいぶ時間はかかってしまったけれど、今まで築いてきたものすべてが二人の関係だから。

「告白ってか……プロポーズかな」

これからは、別の形で。


end


少し違った感じの話が書きたくて書き始めたのですが……支離滅裂になってしまった……!
普通ならきっと有り得ないような事ですが、この二人ならあってもいいかななんて(笑)
ここまで鈍い!というより、大切だから幸せになってほしい気持ちが強くて、自分の気持ちに気づかなかった……という話のつもりです。
大人な二人は難しい!
お粗末様でございました!!

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