星を掴みに行こう

星が瞬いていた。
きらきらと輝いて、時よりスッと流れ落ちていく。
三回願い事をすれば叶うとか何とか、そんな話もあったなとサトシはフッと笑った。

「キレイだな、ピカチュウ」
「ピィカ」

いつ見ても綺麗な星空。
きっと飽きることなどないのではないだろうか。
それほど魅了する何かがあるのは、凄いことだと思った。
小さくあくびをするピカチュウを優しく撫でながら、ただじっと空を仰ぐ。
手を伸ばしてみるけれど、当然届くはずはない。

「サトシ、何してんの?」
「カスミ」
「ピカチュウ眠そうだけど、サトシは寝ないの?」
「ああ、ちょっとな。星が綺麗だなって思ってさ」

サトシにつられるように、カスミも空を仰ぐ。

「……そうね。今日はとくによく見えるわ」
「だろ?何度も見上げてはいるはずだけどさ、ふとした時、凄いなって改めて思うんだよな」
「…………」

カスミはサトシの隣に腰をおろした。
うとうとしていたピカチュウがスッと丸くなり、小さな寝息をたてる。
起こさないようにそっと撫でると、カスミはまた空を見上げた。
ぽつり、零すようにサトシが呟く。

「タケシが言ってたんだけどさ」
「ん?」
「オレたちが見てる星は、実はとっくに爆発しててもう存在しないかもしれないんだって。今見えてるのは過去の光で、途方もないほどオレたちとの距離があるから、ここに光が届くのに時間差があるんだって言ってた」
「へぇ……。存在してない、か……。今こうして見えてるのにね」
「うん。いくら手を伸ばしたって、届くわけないんだよな」

もうそこに存在していないのなら、伸ばす意味もないのかもしれない。
あんなに輝いているのに。

「サトシらしくないわね」
「そうか?……まあ、そうかもな」
「悩みごと?」
「いや……悩みとかじゃなくてさ。オレ、ポケモンマスターになるのが夢だけど、本当になれるのかなって思って」

不安になったわけでもない。
絶対なると思っているし、信じてもいる。
ただ、ポケモンマスターへの道のりは長く、今までたくさんのバトルやポケモンたちとの触れ合って、色んな経験をしてきているのに、近づいてる気はまったくしない。
だから、この途方もない道を進んで、果たして辿り着けるのかって思うのだ。
黙って聞いていたカスミが、そうねと囁くように笑った。

「星を掴むなんて、簡単よ?」
「え……?」
「スピードスターをくらえばいいのよ」
「…………」
「冗談よ」

くすくすと小さく笑うカスミは、サトシの額を軽く指で弾いた。

「確かに遠くて、手を伸ばしてと届かないわ。でも、例えば、すっごい宇宙船を作って、爆発してなくなる前の星まで行こうって思えば不可能ではないと思うわ。途方もない話だけど、絶対できない話ではないんじゃないかしら」
「…………すっごい宇宙船、か……」
「たとえ話よ?」
「わかってる」

サトシが頷くと、カスミは両手を空に伸ばした。
星がきらりと瞬く。

「あたしの可愛さに見惚れて、お星様の方から落ちてきてくれるかもしれないしね」
「何だそりゃ」

呆れたようにサトシは肩をすくめた。
カスミは両手をおろし、サトシの顔を見つめる。
むにゅり。
頬を引っ張られ、サトシは眉を寄せた。

「遠ければ遠いほど、燃えるんじゃない?」

ニッとカスミは口角を上げた。
思わず、うっと小さく呻いてしまう。
別に悩んでいたわけではないし、不安に思っていたわけでもない。諦めるとか全く考えていなかったし、絶対なるんだという気持ちは変わらず強い。
それなのに、こんな事をカスミに零してしまったのはなぜか。
もしかしたら、自分では気づかないほどの小さな想いがあって、それに負けないよう背中を押して欲しい気分だったのかもしれない。
未だ頬を引っ張ってくるカスミの手首を掴んだサトシは、ふう、と深呼吸をした。

「落ちてくる星なんて意味がない。オレは必ず自分の手で掴み取ってやる!」
「……うん!」

へへっ、と笑う。
やっぱりカスミの存在は、自分にとって都合がいいのかもしれない。
なぜ、カスミの言葉はいつも力になるのだろう。
そばにいてくれるだけでも、それだけで元気も勇気も湧いてくる。
サトシはカスミを見つめ、優しく目を細めた。

「君たち、夜更かしはいかんぞ」
「うわっ!?」
「た、タケシ……!」

ぬっ、と暗闇から出てきたタケシに、サトシとカスミは大きく肩を揺らせ驚いた。
眠っているピカチュウの事に気づき、二人は慌てて口を手で塞ぐ。
幸い、ピカチュウは耳を少し動かしただけで起きる気配はなく、ホッと息をついた。
ニヤニヤ、タケシが不思議な笑みを浮かべた。
ん?とサトシは訝るが、タケシは何でもないと首を左右に振る。

「綺麗な星空だからな。確かに寝るのはもったいないよな」
「ああ、そうなんだよ」
「今日は一段と綺麗だしね」
「でも、夜風に当たりすぎるのはよくないぞ。ほら、ホットミルクだ。これ飲んだら寝るように」

湯気が立つマグカップを受け取り、ありがとうとそれに口をつけた。
温かさがじんわりと滲み、結構冷えていたことに気づいた。
タケシのこういうとこ、本当に凄いと思う。
カスミとタケシがいてくれたら、ポケモンマスターも夢じゃないような、そんな風に思えた。
見上げた星空は変わらず輝いていて。
サトシはふと微笑むと、マグカップをくいと傾けた。


end


サト(→←)カス風味な無印組。
サトシ君は自分の気持ちには気づいてない感じで!
久しぶりに私好みのお話が書けた気がします。
お粗末さまでした!

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