ガサリと茂みが揺れた。
ポケモンか。シンジは身構える。
ガサガサ、揺れは大きくなった。

「ピ……カ……」

よいしょ、と出てきたのはピカチュウだった。
見覚えのあるピカチュウ。
シンジは眉間に皺を寄せた。
ピカチュウもシンジに気づいたようで、驚いたように目を見開く。
シンジは体の力を抜くと、ピカチュウに近づいた。

「お前、あいつのピカチュウか?あいつはどうした」
「ピカ……」

ピカチュウは耳を垂らし、シュンとした。
はぐれたのか。
シンジが訊くと、ピカチュウはコクンと頷く。
どうしたものかと考えていると、ふわり、ピカチュウの頭にアゲハントが止まった。
思わず目を見張る。

「ニャー……ふたりとも待ってほしいニャ……」

アゲハントに続くように、茂みから出てきたニャース。
だが、普通のニャースは人の言葉は喋らない。

「ニャ!?む、むっつりボー……」

イ、とニャースは言葉を引っ込めた。
シンジが鋭い睨みでニャースを刺したためだ。
だらだら、ニャースから汗が流れる。

「どういう事だ、これは」
「あ、えっと……いつものようにピカチュウゲット作戦に出ましたら、ニャんと、成功しましたニャ……。手違いでムサシとコジロウとはぐれましたですけどニャ……」

緊張から、言葉がおかしいニャースは正座しながらシンジの威圧感に耐えている。
シンジはチラリとピカチュウとアゲハントに視線を向けた。

「このアゲハントは何だ」
「それはジャリガールのアゲハントニャ。あ、今のジャリガールじゃなくて二代目ジャリガールのですニャ」
「お前の仲間か」

ニャースではなく、ピカチュウに問うシンジ。
ピカチュウは頷いた。
二代目だ何だはよく分からないが、つまりはロケット団に襲われはぐれたという事は理解した。
面倒だな、とシンジはため息を吐く。
ピカチュウもアゲハントも、ついでにニャースも。疲れているようで元気がない。
放っておくのは気が引けた。
……俺が?
自分の感情に戸惑いつつも、シンジは辺りを見回す。
人影はなかった。
どの木にも実はなっていない。

「仕方ない……。とりあえずポケモンセンターまで連れてってやる。ついてこい」

シンジはピカチュウとアゲハントに向かって言った。
歩き出すシンジに、ピカチュウとアゲハントは顔を輝かせついていく。
え、と狼狽えたのはニャースだ。

「あの!」
「何だ」
「わたくしはどうすれば……」
「お前は知らん」
「ええっ!?」

スタスタと歩いていくシンジを、ニャースは慌てて追いかけた。
何で自分にはそんな態度かと喚く。
が、うるさいとシンジの睨みひとつで黙った。
黙々と足を進める。
空気が重い。

「ピ……カ……」

ボスン、とピカチュウが突っ伏した。
振り返るシンジ。

「ピィカ〜……」
「しっかりするニャ、ピカチュウ」
「ピカチュ……」
「疲れた?ピカチュウは電気技たくさん使ったからニャ……」

倒れたピカチュウをニャースが揺する。

「ニャァ……これ以上歩かせるのは酷だニャ……。あの、むっつり……あ、いえ、シンジ君、ちょっと休憩を……」
「ピカチュウもアゲハントも、お前のせいで疲れてるんだろ」
「う、その通りニャ……」

しょぼん。
ニャースはうなだれる。
チッ、と舌打ちしたシンジは、ピカチュウを抱き上げた。
不思議そうにピカチュウは小首を傾げる。

「休憩するより、早くポケモンセンターに行った方がいい。アゲハント、お前も羽を休めろ」

アゲハントはホッとしたように頷き、シンジの背にくっついた。
あと少しだ、とシンジは再び歩き出す。

「え、あのシンジ君!?」
「今度は何だ」
「あの……わたくしも疲れたですニャ〜……ニャんて……」
「そうか」

スタスタ、シンジは先を行く。

「ニャ〜!鬼ニャ!鬼畜ニャ!」

ニャースは泣きながら、ヤケクソのようにシンジに飛びついた。


****


「あ、ピカチュウ!良かった!って、シンジ!?何でシンジが……」
「ピカピ」

ポケモンセンターが目の前というところで、サトシはシンジとピカチュウの姿を見つけた。
シンジの腕の中で嬉しそうに鳴くピカチュウの側に駆け寄る。


「アゲハント〜!」

嬉し涙を浮かべながら、ハルカも走ってきた。

「よかったかもー!アゲハン……ブフォ!」
「ハルカ!?」

突然ハルカが崩れ落ちた。
肩が小刻みに震えている。
どうした、とサトシが慌てるが、どうやら笑いを堪えているようだった。

「サトシ、ハルカ!だいじょ……ん、シンジ?何でシンジがピカチュウとニャースとアゲハ……ぶふぅっ!」
「ヒカリまでどうした!?」

後から駆けてきたヒカリが、ハルカと同じように崩れ落ちる。
何で二人して笑っているのか。

「ずいぶんファンシーな感じだな、シンジのやつ」
「あ、タケシ……」
「さ、サトシ……こっち……この角度から見てほしいかも……!」
「ファンシー……ぶふっ!フェ、フェアリー……!」
「は?」

サトシは訝るように、ハルカとヒカリの言う角度に立った。
シンジがマスコット系を抱いているだけでも奇妙だというのに。
シンジの頭に意地でしがみついているニャースもさることながら、極めつけがシンジの背中でうとうとしているアゲハントだった。
まるでシンジに羽が生えたようで。
サトシは盛大に吹き出したのだった。

「早くポケモンセンターに連れていけ。お前らのポケモンだろ」

イラッとしながら当然のことを言うシンジに、サトシたちは慌ててピカチュウたちを受け取った。
しかし、やはり堪えられず。
笑い声は大きく響いた。


end


ポケたちに囲まれるシンジ君が書きたくて。

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