コイノウワサ

※学パロ 先輩後輩設定


とても目立つから。
きっとこの学校で一番有名で、一番の人気者だろう。
ひとつ上の、先輩。
何かしていれば、自然と視界に入り、つい追っていた。

「それ、恋じゃない?」

友人たちは口を揃えて言う。
違うわ、と何度否定しても聞いてはくれない。
勝手にキャーキャー盛り上がって、志村妙はこの学校で一番人気の先輩に片想いしてるという噂が広がってしまった。
先輩には彼女がいるという噂もあるため、切ない片想いだとか。
今までそういう浮ついた話がなかっただけに、それらしい話に飛びつかれたと理解している。
好きな人いないの?作らないの?恋愛楽しいよ!
もううんざり。
恋なんて、自然とやってくるもの。
無理してするものじゃない。
どうして女の子って人の恋愛話が好きなのかしら。

「勝手に私の好きな人決めつけないでほしいわ」

いい迷惑。
だけど、別に勘違いされて困ることはない。
好きな人がいるわけではないからだ。
先輩はモテる。
だから、先輩を好きな人は多い。
そこに埋もれて、敵視される事もない。
噂が広まって、男子から告白される事も減った。
これはいい事。
先輩には悪いけれど、このまま利用してしまった方が楽な事に気づいて、今では否定する事をやめた。
どうせ向こうは私を知らないのだから。

「あ!志村さァァァァん!!!」

例外がいた。
ふたつ上の先輩、ゴリラ勲。

「あなたの彼氏、近藤です!どうですか、放課後デートいきませんか!」
「いつあなたは私の彼氏になったんですか?」
「嫌だな〜。出逢った時から僕たち恋人同士じゃないですか」

何度も告白してくるこのゴリラには、あの噂も意味がないらしい。

「先輩?」
「はい、何ですか志村さん!」
「私、あなたとお付き合いするつもりはありません」
「振り向かせてみせます!」
「ありえません」
「諦めませんよ、俺は!」
「だから……」
「好きです!」
「いい加減しつけーんだよゴリラァァァ!!」

我慢の限界。
ゴリラ顔に思いっきり拳をめり込ませ、ぶっ飛ばした。
勢い良く飛ぶゴリラ。
通りかかる人。

「あ!」

危ない、と叫ぼうとして、言葉は喉で止まった。

「うお!危ねっ!」

ギリギリで避けたその人。
坂田銀時。
学校で一番有名で、一番人気の先輩。
驚いた顔の先輩と目が合った。
ドゴォッ、と音をたてゴリラは気を失う。

「何だ、ゴリラかよ。何、これ君がぶっ飛ばしたの?」
「……ええ。あまりにうざかったので」
「ハハッ、確かにうざいよな、このゴリラ」

悪いヤツじゃねーけど。
先輩は笑った。
何だか罪悪感覚えるわ。
先輩の知らないところで、勝手に利用しているのだから。

「あの」
「ん?」
「すみませんでした。もう少しでゴリラぶつけてしまうところでした」
「ああ、いいよ別に。無事だったし」

本当に謝罪したいのは別の事だけど。
それは心の中で謝り、ペコリと先輩に頭を下げた。

「それでは失礼します」
「え、あ、ちょっと志村さん!」

名前を呼ばれて驚いた。
どうして私の名前を知っているのか。
先輩は察したのか、バツが悪そうに頭を掻いた。

「このゴリラがそう呼んでたから、ね」
「ああ……なるほど。無駄に声がデカいですもんね」
「そうそう、無駄にね」

先輩は笑う。

「…………」
「…………」

奇妙な沈黙。
何だろうか、この空気は。

「あのさァ……」
「え?」

先輩は言いづらそうに目を泳がせる。
何だろうか。
あー、そのー、と歯切れが悪い。
思わず眉間に皺を寄せた。
先輩は決心したようにこちらを見ると、一歩距離を詰めてきた。

「志村さんさ、俺のこと好きって本当?」
「え……」
「一年生で、ポニーテールの美人って……君のことだよな?」
「あ……もしかして、噂……?」

まさか先輩の耳に入っていたなんて。
一年生の間だけの噂だと思っていたのに。
先輩の耳に入ったとしても、数ある中の一人のはず。
もしかして。
一人一人にきちんと応えているのだろうか。
だったらずいぶん律儀な人だ。

「ごめんなさい!それ、ただの噂なんです!」
「う、わさ……」
「まさか先輩の耳に入るとは思わなくて、放っておいたんです……というか利用してたというか……。本当にごめんなさい」
「え!?い、いや、いいんだけど別に!」

アハハハ、と先輩は笑う。
やっぱりちゃんと否定すべきだった。
明日にでもきっぱり友人たちに伝えよう。

「そうか……ただの噂か……」
「?はい……」
「あ、じゃあ、他に好きな人が?」
「いいえ。私、恋愛ってよくわからなくて。今まで人を好きになった事ないんです。だからみんな面白がってこんな噂がたってしまったんです」

好きだの何だの、みんな勝手に盛り上がるもんね。
先輩の言葉に、そうなんです!と力いっぱい頷いた。
話してみれば、とても話しやすいいい人だ。
モテるのもわかる気がした。

「そういう事なので、安心してください。先輩の彼女にもそうお伝えくださいね」
「え?彼女って?」
「いないんですか?先輩モテるから、てっきり……」
「え、いないいない!彼女なんていないから!」
「そ、そうですか……。あの人、先輩の彼女かと」

あの人?と不思議そうな顔をする先輩の後ろを指差した。
さっきからチラチラとこっちの様子を窺ってる人。
先輩とよく話をしているのを見かけるし、あの人が噂の彼女だと思っていた。
でも、きっとあの人は先輩の事が好きなのだろう。

「アイツはただの友達で彼女じゃないから!」
「そんなに強く否定しなくても……」

私とは違って、きっと先輩のこと好きですよ?
わかってるのかなぁ。

「……しないの?」
「え?何がですか?」
「恋。しちゃえば?」

真剣な眼差しに、思わず身体が硬直した。
しちゃえば、と言われても。

「ふっ……ごめん、無理してするもんじゃないよな」
「あ……いえ……」
「志村さん。下の名前は?」
「え、あ、えと、妙……です」
「妙か。いい名前だな、ピッタリって感じ」

ニッと先輩は笑った。
真剣になったり笑ったり。不思議な人。

「じゃあ、またな」
「はい……え、また?」

ひらひら、先輩は手を振って行ってしまった。
またって何だろう。
会話したらもう友達。
そういう事?

「あ……先輩と話した事は内緒にした方がいいのかな?」

言えば、きっとまたみんな面白がる。
だからといって黙ってるのも変な気がするし……。
噂も否定しなきゃいけないのに。
まったく、これだから恋愛話って厄介よね。


end


銀→妙だけどお妙さん視点って楽し……!
学パロ楽しっ!!
銀さんの彼女と噂された人はとくに誰と決めてません。あの人でもその人でも架空の人でも。
お粗末さまでした!


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