距離はゼロ

※土→銀←妙前提。腐要素注意



思わず、なんて。
とんでもない事をしてしまった。

「私のバカ……死にたい……!」

両手で覆った顔は、真っ赤だった。

「どうしよう……もう……顔合わせられない……!」

どうして、あんな事をしてしまったのか。
悔いてももう、どうしようもない。
何もかも、なかった事になんてできない。
そっと唇に触れる。
残る、甘さ。

「……いちご、牛乳……」

よりによって、いつまでも残るような。

「最低だわ……私……」

ぽろり、涙が零れた。
ずるずると壁伝いに崩れ落ちる。
背後で聞こえる喧騒が別世界のようで、目を瞑った。
いや、別世界はこちらか。
大通りから少し薄暗い路地に入ったここは、空気もひんやりして、明るい世界から取り残されたような感覚だった。

「おい、あんた何してんだ」

ビクリ、心臓が跳ねた。

「ん、誰かと思えば……」
「土方さん……」

眉を顰める土方にハッとして、慌てて涙を拭った。
見られただろうか。
暗さで見えなかったらいいのだけど。

「……さっき」

前に回られる。
しゃがんで、顔を覗き込まれた。

「万事屋に会った」

ドキッと、痛む。
鼓動がうるさい。

「あんたのこと、捜してたぜ」
「……わ、私を……?」
「ああ。バカなこと考える前に見つけねーと、ってよ」

どういう意味か。
あの人は、あの行動をどう思ったのだろう。
怖くて、とても聞けない。
その前に顔を合わせられないけれど。
土方の空気が、ふと変わった。

「……お前、野郎と何があった?」
「あなたには、言えません」
「何でだ?」
「私……今とても立ち直れそうにないんです。だから、あなたには言えません。私と同じ想いを抱く、あなたには……」
「……へぇ」

ぎゅっと拳を握る。
私と同じ想い。
だから、とても言えない。
卑怯な私。

「……っ!?」

肩を掴まれ、壁に押しつけられた。
女性に対する優しさはない。
あるのは、静かな怒り。

「同じ想いを抱く……ねえ……。なら、なおさら言うべきだろ。アイツに、何をした?」
「…………」

鋭い双眸。
この人は警察。
卑怯なマネはきっと許さない。

「……キス、しました。無理やり。どうしようもなく、あの人が好きで……抑えられなかったんです。後悔してますよ……バカなことしたって」
「…………」

抑えられなかった想い。
いつもフラフラしていて、そのままどこかへ行ってしまいそうで怖くて、繋ぎ止めたくて。
バカなこと考える前に。
これ以上のバカなことって、何があるのだろう。

「……なら、もっとバカなことするか?」
「え?」

ぐっと、土方と距離が縮まった。
ずっと纏わりついていたいちご牛乳の甘い香りが、煙草の嫌な臭いで消されていく。

「土方、さん……?」
「俺もお前も、似たもん同士なんだよ」
「そう、ですね……。お互い、相手にされないところも」
「俺は諦めたつもりはねェ」
「なら、私とこんなことしても意味はないんじゃないですか?」
「意味ならあるさ。同じ人を想うもの同士だからな」

距離はゼロ。
甘い香りも味も、もうない。
あるのは、ただ苦く、苦しいものだけ。
これは自分の気持ちを勝手に押しつけた罰だろうか。

「……はっ、甘ェ……」
「……あなたは苦いわ」

土方の肩に頭を置く。

「……もしかしたら、あなたと一緒になった方が幸せかもしれないわ……」
「……似たもん同士だからな。俺は諦めねーが、あんたのことは受け入れてやるよ」
「それはどうも」

煙草の臭いの中、あの甘い香りを探す自分が滑稽で、拭ったはずの涙が黒服に落ちた。


end


唐突に書きたくなったふたり。
基本ハッピーエンド主義ですが、時々救われない話とかも挑戦したくなる……。
お粗末さまでした!!


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