想い、秋桜色

※愛されお妙さん


歩き慣れてしまった街、かぶき町。
月詠はふと立ち止まった。

「こんな季節に……桜……?」

もう秋になるというのに、一体どこから降ってきているのか。
桜の花弁がひらひらと宙を舞っている。
月詠は首を巡らせた。

「あり、ツッキー?何してるアルか、こんな所で」

後ろから声をかけられ、月詠は振り返る。
きょとんと首を傾げている少女の名を呼ぼうとしたが、言葉は出てこなかった。
頭の両サイドにあるはずのお団子がない。
代わりに、きらきらと輝く簪が目に留まった。
金色の花が囲む蒼玉。
それは少女の顔立ちには少し大人めな装飾だが、桃色の髪によく映えていた。

「神楽、その簪どうしたんじゃ」
「これアルか?エヘヘ……アネゴに貰ったネ」

神楽は嬉しそうに頬を染めて笑った。

「こういうのが似合う女になりたいって言ったら、神楽ちゃんならすぐになれるわ、ってコレをくれたアル。似合うアルか?」
「ああ、よく似合ってるでありんす」
「ありがと、ツッキー!」

なるほどと月詠はこっそり頷いた。
時々、この少女は背伸びをする事がある。
それはとても可愛らしいもので、服装だったり、髪飾りだったり、振る舞いだったり。
その陰には、いつも少女がアネゴと慕う女性がいた。
きっと、神楽にとって見本となる存在なのだろう。
こういうのが似合う女になりたい。
つまり、アネゴのような女になりたい、という事。
まるで姉妹のようで微笑ましい。

「ツッキー」
「なんじゃ」
「これからアネゴとお花見するアル。ツッキーも一緒に行こうヨ」
「お花見……」
「ウン。すぐそこの団子屋でお花見ネ!行こう、ツッキー!」

無邪気な笑顔で手を引かれる。
一緒してもいいのか。どうして秋に桜が舞っているのか。この桜は何なのか。
聞きそびれてしまった。
こっち、と神楽が角を曲がる。
店先には、見慣れたポニーテールが揺れていた。

「アネゴ!」
「あら、神楽ちゃん。月詠さんも、こんにちは」
「そこでバッタリ会ったからお花見誘ったアル」
「……邪魔でなければ、一緒して構わぬか」
「ええ、もちろん。みんなで一緒に見た方が楽しいものね。あとで九ちゃんも来るし」

妙はにこりと笑った。

「神楽ちゃん、その簪つけてきてくれたのね。とっても可愛いわ」
「ありがとアル……!」

照れたように指を回す神楽は本当に可愛かった。
憧れの女性からのほめ言葉だ。
嬉しいのは当然。
微笑む月詠に、妙は視線を向けた。

「この桜のこと、ききました?」
「いや……。季節じゃないのも、街中で舞ってるのも不思議に思っていたが……」
「ふふ。何でも、辺境の星に咲いてる花だそうよ。ちょうど夏の終わりに満開になるみたい」
「珍しい花なんじゃな……」
「ええ。しかも、本来ならその星でしか咲かないらしいの」

え、と月詠は瞠目した。
微笑む妙が手のひらを上に向けると、ひらり、花びらが乗る。
よく見れば、桜の花びらにしては少し大きい。色も濃いめだ。

「それを一生懸命育てた人がいるんですよ」

ほら、と妙は月詠の後ろを指を差した。
振り返る。
小さな路地の先に、満開の桜の木が立っていた。
それもかなりの巨木だ。
天に向かって伸びる幹、大きく広げられた枝。
神楽の感嘆する声が聞こえた。

「立派な木だ。誰があれを……」
「ヘドロアル」
「ヘドロ?」
「顔がごっさこわいお花屋さんアル」

月詠は首を傾げたが、そうかと頷くしかなかった。
フフフ、妙が笑う。

「お顔がね、ちょっと恐い方なんです。天人なんですけど……本当にお花が好きな心優しい方ですよ」
「そうなのか……」

月詠は頬をゆるめた。
その星でしか咲かない花を咲かせた。
それも、あんなに立派に。
花に愛情がなければ、きっと咲かす事などできないのだろう。

「アネゴ、お団子買ってきていいアルか?」
「ええ。神楽ちゃんの好きなもの買っていいわよ」
「やったアル!」

妙から財布を受け取り、神楽は店の中へと駆けていく。

「名前……」
「え?」
「あの木の名前じゃ」
「ああ、秋桜っていうらしいですよ」
「秋桜?」
「その星では、地球にも咲いてる桜を春桜と呼んでいるそうですから」
「秋桜……」
「見た目もね、コスモスのまんまなんですよ」

遠目じゃわからないですけど。
くすりと笑う妙。
秋桜はコスモスの異称。
地に咲くコスモスが、木の花として咲いている。
不思議な感じだ。

「わっちは好きじゃ。この花」
「……私もです」

顔を見合わせて、笑った。

「妙ちゃん」
「九ちゃん!遅かったのね」
「ああ、稽古が長引いて……」

ちらり、九兵衛は月詠を見る。
その目からは、疑念のような、焦りのようなものを感じた。
何だろうかと、月詠は眉を少し寄せる。
九兵衛はごくりと喉を鳴らし、月詠に一歩近づいた。

「今、何の話をしていた?」
「ん?」
「好きとか、どうとか……」
「ああ……」

月詠は思わず吹き出した。
なるほど。まさかそんな勘違いをされるとは。
クスクスと笑う月詠に、九兵衛は何がおかしいと焦ったように問う。

「すまぬ。心配せずとも、そういう事ではない。わっちが好きと言うたのはこの秋桜じゃ」
「桜……?」

九兵衛はハッとしたように空中を舞う秋桜を見つめ、顔を赤らめた。

「す、すまない。勘違いした」
「気にするな」

九兵衛が頭を下げたと同時に、もうひとつ聞き慣れた声が降ってきた。
屋根の上から飛び降り、スタン、と軽やかに着地する。

「ちょっと!どうして私を誘ってくれないのよ!お妙さん、あなたがこの女子会開いたのよね!?どうして私ひとり仲間外れなのよ!」
「別に仲間外れにしたつもりはありませんよ」
「ウソ!あれでしょ、女子会開いて女子力アップさせて銀さんに近づくつもりね!私がいたら困るものね!」
「違います」

どこからか聞きつけてきたのだろうか。
あやめが妙に食ってかかる。
慌ててあやめを止めに入る九兵衛、団子を大量に抱えて店から出てきた神楽。
一気に騒がしくなったと、月詠は呆れながら呟いた。
だが、嫌ではない。
月詠はふと、妙の髪に秋桜の花びらがついているのが目に入った。
流れる美しい黒髪に、鮮やかな秋桜。
神楽や九兵衛が惹かれるのもよくわかる。
見た目も、中身も、桜のように人を惹きつける。
月詠は妙の髪についた花びらを取ろうと、手を伸ばした。

「…………」

両手を広げ、立ちふさがる九兵衛。
やっぱりそうじゃないのか。
そう目で訴えてくる。

「ちょっとお妙さん。あなた、髪に花びらがついてるじゃない」

ひょい、とあやめが取ってしまった。
あ!と九兵衛が叫び、あやめと何か言い争う。

「はい、月詠さん。お団子どうぞ」
「おいしいアルヨ」

行き場のなくなった手に、妙から団子を渡される。
月詠はそれを口に含んだ。
桜色のたれがかかった、桜味の団子。
うまい、と呟けば、妙は良かったと花のように笑った。


end


月+妙中心の銀魂ガールズでした!月妙いいよ可愛いよ!
お妙さんのイメージといえばやはり桜。もうすぐ秋だな〜と思ってできたお話です。
お粗末様でした!

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