今日は隣で

それは何となくだった。
大した事はなくて安心したけれど、でも一歩間違えれば大怪我していたかもしれない。
いつも大切なものを護って負傷する腕に、しっかりと巻かれた包帯をじっと見つめた。

「あのさ……」

前を歩く男が立ち止まった。

「何で後ろ歩いてんの?」

振り返りながら問う彼の目は、どこか居心地悪そうに揺れている。
何となくよ、と答えれば眉が訝しげに歪んだ。

「……お前、後ろを歩くタイプだっけ?」
「あら、銀さんは亭主関白なんでしょう?」
「別に俺がどうこうは関係ねェだろ。お妙さんはいつから銀さんの奥さんになったんですか」
「なった覚えはないわねぇ……。プロポーズされても全力で断るわ」
「俺だってお前みたいなのにプロポーズなんかするかよ」

そうですか、と妙は笑った。
銀時はまだ居心地悪そうにしている。
後ろを歩いていたのは何となくだが、もしかしたら、無事に帰ってきた事を確かめたかったからかもしれない。
大きな背中を見ていると、とても安心するから。
だが、と妙は考える。
こうして銀時と二人で歩く事はそんなに多くはないが、その少ない中でいつも隣を歩いているわけではないはずだ。
今みたいに銀時の後ろをついていく形もあれば、逆に妙が前を歩くこともある。
もちろん、隣を歩くことも。
妙はふと足を止めた。
気配に気づいたのか、銀時も立ち止まり振り返る。

「どうした」
「いえ……」

妙はまた歩を進めると、今度は銀時の隣に並んだ。
行きましょうと声をかければ、銀時も歩き出す。

「これでしっくりきます?」
「……しっくりっつーか……俺はただ、お前が後ろ歩くタイプだったかって疑問に思っただけだから」
「どういう意味かしらね、それ」
「別に嫌み言ったわけじゃねーよ。時々、そういやお前は武家の娘なんだよなって思う事があるっていうか……」
「ふふっ。あまりだらしないと、後ろから刺しますよ」
「マジでやりそうな事言わないでくれる。俺もそう思ってたとこだから!」

ぶるり、銀時は身体を震わせる。
そんな銀時の横顔をちらりと見た妙は、眼前を見据えた。
いつもと変わらない江戸の景色。

「……ねぇ、銀さん」
「ん?」
「私は待ってることが多いから」
「…………」
「後ろにいれば、その背に背負うものが見えるでしょう?隣にいると、それは見えないわ。それに、後ろならその背を押してあげる事もできる」
「……お前はそういう立場でいたいの」
「いいえ。違うわ。だって、後ろにいたらその人の見ているものが何なのか見えないもの。隣に立てば同じ目線で物を見れるし、同じ景色を見れる」
「…………」
「だから、どちらがいいとか、どっちが正しくて間違ってるとかではないと思うの」

後ろにいても、あなたは振り返ってくれる。

「私が、というより、銀さんが前を歩いているか、スピード緩めて隣を歩くか、みんなを見渡せるように後ろを歩くか。とは考えないんですか?」
「……俺の歩幅は変わんねェし、スピードも変わらん」
「まあ、そういう事にしてあげますよ」

素直じゃない人。
妙はくすくすと笑った。
本当は、わざとゆっくり歩いていたのだ。
いつもより銀時の動作が緩慢であった事に気づいていて、わざと。
けれど、何となく銀時の後ろを歩いていたのも本当だ。
きっとそこにズレがあったから、銀時は居心地悪そうにしていたのだろう。
何となく後ろを歩きたかった私と、隣を歩きたかった貴方。

「前を歩いている人が振り返ってくれるのって、嬉しいのよね」
「そうなの?」
「そうなんです。ちょっとドキッとしちゃうわ」
「ほう……さっき俺にドキッとしたってこと?」
「ふふふ、ないわね」
「ソウデスカ」

相手を気遣うことができる位置。
その身を盾にして護る事ができ、その背を追うものが躓けば、手を差し伸べるだろう。
銀時はそういう位置にいる。
前を歩く銀時と、後ろを歩く妙。
けれど、それが常ではない。

「銀さんが隣に来いって言うから……」
「言ってない」
「あら、じゃあ前を歩けってことだったのかしら」
「…………そこでいい」
「そうですか」
「………ちっ」

銀時は小さく舌打ちすると、妙の手をぐいと引いた。

「手が届く範囲にいろってこと」
「フフ、わかりました」

前と後ろと、その間。

「あなたがそれを望むなら、今日はあなたの隣で」

貴方と一緒に歩んでゆくわ。


end


素直じゃない銀さんと、わかってますからなお妙さん。
実はこれ、小難しい事考えてる時に浮かんだネタだったりします。
内容的にはニュースで取り上げるような話なので割愛しますが、その時思った事感じた事も詰めたらこんな話になってしまった(苦笑)
わかりづらいですかね……!
お粗末さまでした!

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