満天の星(4)

今日が特別変なのか、それともこれが日常なのか。
姉弟二人しか住んでいない志村邸に、次々と訪れる珍客たち。
あのあとすぐに来たのは、たまと源外だった。
特に何かというわけでなく、ただの世間話をしにやって来たようだが、どことなく気遣いのようなものが見えた。
もともと源外の作ったモノが原因だからか、一応は気にしてたらしい。
いや俺にも気をつかえよジジイ。
ちなみに、たまなら猫の姿でも気づいてくれるかもと思ったが、全然気づかれなかった。
元の姿に戻る方法わかるかもと思ったのだが……。
そのあと来たのは、妙の同僚であるおりょう。と、何故か坂本だった。
ここに来る途中捕まってしまったのだと、遠い目をしていたおりょうちゃん……可哀想に。毛玉に好かれるなんて。いや、俺は毛玉じゃないから。今は毛だるまだけど。
そして、それから将軍と松平がお忍びで来た。
今も侍魂を語り継いでる場所うんぬんと言っていたがそれよりも、オイ毛玉が転がってんぞォ、と銃で撃たれて危うく死ぬとこだった事の方が問題だ。
何なのあのオヤジ、毛玉を撃つってどういうこと?

「にゃう……」

ぶるりと、今思い出しても身震いする。
他にも、新四天王がどうとかで西郷とアゴ美、ついでに勝男まで来た。
パー子はどこ行ったと騒いでいたが、ここにいるから俺。
仕事の途中だとかで志村邸の屋根を走り抜けた全蔵、九兵衛のことで変態的な相談をしに来た東城(妙に殴り飛ばされた)などなど……。
とにかく濃かった。
きれいな夕焼けオレンジ色の空を眺め、銀時は大きくため息をついた。
もうぐったりだ。

「今日はお客さん多い日だったわね」

そう言って、楽しそうに笑う妙はずっと銀時を撫でている。
まったりと時間が流れた。
もう来ないよな……と思うが、まだ来ていないやつがいる。
これだけの来客があって、ヤツが来ないのは逆におかしい。
銀時はチラリと視線を動かした。

「あら、土方さん?」
「……よォ」

やっぱり。
気まずそうな土方が、紙袋を揺らした。

「どうされたんです?近藤さんならいませんよ」
「知ってる」
「じゃあ、何しにここへ?」
「……桂がこの辺りにいるって情報があったんでな……まあ、確認がてらというか……」

何が確認がてらだ無能警察が!
あんなバカよりよっぽど危ねーヤツがうろついてたぞ!
お前ら高杉捕まえる気あんのか!?

「どうしたの、どざちゃん。そんなに毛を逆立てて……」
「ど……」

土方は口を押さえた。
何とも言い難い表情をしている。
それもそのはず。できることなら忘れたい事だろうから。
土方の口からため息がこぼれた。

「これ、あんたに」
「まあ……羊羹?私ここの羊羹好きなんですよ」
「知ってる」
「……土方さんにお話したことあったかしら?」
「いや……近藤さんが言ってたからな。知りたくなくても、あんたの好みなんかはだいたい知ってる」
「何か気持ち悪いですね」
「俺だってそう思うよ。文句なら延々とお妙さんがどうだこうだと語る近藤さんに言ってくれ」

げんなりした様子の土方。
ゴリラの言うこと記憶に留めてここで活用してくるとはコイツ。
銀時はじとりと土方を睨んだ。

「ふふ……あなたが私に何かくれるとは思いませんでしたよ」
「この間の詫びだ。深い意味なんざねーよ」
「詫び……ね……。私にとっては楽しい思い出でしたから、何だか変な感じだわ」

銀時の半身と知ってなお、楽しい思い出としてくれている。
それだけ、妙の中でどざえもんという存在が大きかったという事だろう。
銀時は俯いた。
罪悪感に、チクリと胸が痛む。

「で、猫拾ってきたのか。ヤツと重なったか?」
「……そうね……否定はしないわ」

ね、どざちゃん。
妙は銀時を抱きしめた。
あー、ちくしょう。
またあの匂いに包まれて心地よくなる。
銀時はゴロゴロと喉を鳴らした。

「まあ、いいが……そいつ、まさかあのバカじゃねーよな……何か見たことある気がするし……」

ドキッ。
身体が揺れる。

「ふふ、そのバカが私に甘えるわけないでしょ」
「それもそうか……いや、でも記憶なくしてるならわかんねーぞ」
「知らないんですか?記憶をなくした銀さんって、結構カッコイイんですよ」

土方は目を丸くさせた。

「なんてね」

妙は笑い、銀時をおろすと立ち上がった。
冗談?と土方は顔をしかめ、煙草の煙を吐く。

「そろそろ夕飯の準備しないと」
「そうか、悪かったな。邪魔して」
「いいえ。今日は土方さん以外にも、たくさんの方が来てくださったんですよ」
「そりゃまあ、愛されてることで」

俺は違ェぞ。
わかってますよ。
そんな土方と妙のやりとりを聞いていた銀時は、そうかと口元に笑みを浮かべた。
去っていく土方と、大人しくしていてねと台所へ向かう妙を見送った銀時は、夕陽が輝く空を見上げた。
すでに濃紺に染まりつつある空に、小さな星がきらり、光る。

「はっくしゅん!」

ん?と銀時は眉を寄せた。
くしゃみが聞こえた方へと視線を向ける。

「少々冷えてきたな」
「……づ、ヅラァァァアアア!?」
「ヅラじゃない、桂だ!」

木と木の間。
枝を頭に差し、両手にも持っていた桂がよっこいしょと出てくる。
ぱくぱく、銀時の口が開いては閉じるを繰り返すも、言葉は出てこない。

「フハハハハ!俺は見ていたぞ銀時!貴様また祟られたのか知らんが、猫になってお妙殿ににゃんにゃん甘えていたのをな!」
「…………っ!」
「笑いを堪えるのに必死になってしまったわ!貴様がお妙殿ににゃんにゃんすり寄っては嬉しそうに尻尾を揺らし、あまつさえお妙殿の――」
「大声で言うんじゃねーよバカヤロー!お妙に聞こえんだろ!!!つかお前いつからいやがった!!」
「お前たちがここに来る前からスタンバっていたに決まってる。フラグなら立っていたではないか」
「いや、予想はしてたけど!でも、おま……!」

最初から見ていたというのか。
あんな事やこんな事、そんな事まで。
銀時の顔に熱が集まった。
あれは猫だからだ、と言いたくても、そんなのは言い訳にしかならない。

「ん?ずっといた……!?おま、高す……!」
「ずっとではない。途中、用を足しに行ったのでな。なに、案ずるな。大ではなく、小の方だ」
「どうでもいいんだよんなこたァ!!」

つまり、高杉がここに来たことは知らないわけか。
まあ、あの場にいたらコイツすぐ出てくるはずだよな……。
間がいいのか、悪いのか。
銀時はくしゃりと髪を掻き上げた。

「何騒いでるんです?」

思わず出そうになった悲鳴を飲み込んだ銀時は、慌てて振り返る。
怪訝な表情の妙。

「銀さん、あなたいつからいたんです?それに桂さんまで……」
「え!?」

銀時はここでようやく気がついた。
人の姿に戻っていることに。
握ったり開いたり。両手を見つめる。
そういえばヅラと普通に会話してたな……。
なぜ戻れたのか。
さっぱりわからないが、ホッと安堵の息を吐いた。

「あら、どざちゃん……?」

しまった。
ぶわりと汗が噴き出る。
元に戻ったということは、どざちゃんは今どこにもいないということ。
きょろきょろと辺りを見渡す妙の顔がだんだんと不安を帯びていく。

「銀さん、どざちゃん……白い猫いませんでしたか?」
「え!?あ……いや……えっと……」
「見たんですか?」
「あ、あのあれ、家の中白い毛玉が走り回ってんの見たかな!あれ猫だったんだ!?」
「家の中を……そう……」

妙は胸の前で手を合わせると、だっと駆け出した。
いくら探したって、無駄。
けれど、本当の事など言えるはずもない。

「……ヅラ……どうしたらいいと思う?」
「知らん。だいたい貴様は何で猫になっていたのだ」
「わかんねェ……ただ……ホウイチが……」
「ホウイチ殿?」
「ああ、そうだ……思い出した。あいつに、エサ持ってくんの止めさせてくれって頼まれて……」
「…………」

それが猫になった理由ではないだろうが、この依頼をこなさねば元に戻れないと勝手にそう思った。
だが、実際はそんな事もなく。

「……ホウイチ殿の時と、同じなのではないか?」
「あ?同じって?」
「猫になった理由だ」
「どういう意味だよ」

桂はハアと大げさにため息をつく。

「お前自身が、そうさせたのかもな」

それだけ言って、桂はくるりと背を向けた。
もう真選組の追っ手もいないだろう、とわざわざ塀をよじ登る。

「銀時、お妙殿によろしく」

さらばァァ!と笑い声を響かせながら、すっかり日が落ち暗くなった中に溶け込んでいった。
静かになった庭に、ポツン。
銀時は空を見上げた。
雲一つない空。輝く星がひとつ、流れた。


to be continued


ようやく次で終われそうです!

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