落とした感情

※どざえもんが銀さんの姿をしてます。ちっこくなったり、おっきくなったりします。


ふわふわ、銀色が揺れる。
見た目もその色も、間違いなく彼のもので。
パリン、と音が響いた。

「オイ、新八が割れたぞメガネ」
「メガネが割れたぞ新八、でしょ神楽ちゃん!いやいやいや!そうじゃなくて!!あれ何!?」
「何って……銀ちゃんがアネゴに膝枕してもらってるだけアル」
「だけって何だコルァァァアア!!」

新八は叫ぶと、むんずとそのふわふわ銀髪を掴んだ。

「いだだだだだだ!!!」
「テメー何やってんのかわかってんのか!ぶっ殺すぞ腐れ天パ!!」
「あぁ!?何だテメーいきなり!」
「あぁん!?」
「新八、新八」
「何だ!!」
「何かこの銀ちゃん……ちっこいアル」

神楽は顔ひきつらせ、指を差す。
え、と新八は自分が掴んでいるものを見た。
ふわふわくるくるの銀髪天パは、どこから見ても銀時のそれ。
しかし、背は小さく顔立ちも幼い。
どこからどう見ても、子どもである。
晴太と同じくらいだろうか。
新八はレンズのない眼鏡をくいと上げた。

「姐さん。何こいつら」

パシッと新八の手を払った銀時そっくりの子どもは、妙の腰に抱きついた。
ゴロゴロとすり寄るその様子に、新八と神楽は絶句。
フフフ、と妙は口元を押さえ笑った。

「新ちゃんも神楽ちゃんも知ってる人よ」
「え……?姉上、それどういう……」
「これやっぱり銀ちゃんアルか!?……あれ、でもさっき銀ちゃん厠行くって……」
「おーい、何か甘いもんとかねーの?何かやたらと甘いもん食いたい気分なんだけど……」

新八と神楽はバッと振り返った。
え、何。
びくりと身体を揺らす銀時。
新八の眼鏡にレンズがない事に気づいた銀時は、スッと指を向けた。
しかし、その指は新八ではなく、妙の腰に抱きついている銀髪天パに向けられた。
え、あれ、え。
意味のない言葉だけが口から出てくる。
冷や汗をダラダラと流しながら。

「お…………俺ェェェエエ!?」
「やっぱり銀ちゃんアルかこの子ども!!」

叫ぶ銀時。興奮する神楽。失神しそうな新八。
これ以上混乱が続くと面倒そうだと、妙は落ち着くよう三人に正座をさせた。

「……で、姉上……これは一体……」
「そうね。私も全部把握してるわけじゃないんだけど……結論を言えば、この子は銀さんって事になるかしら」
「おいおい、何言ってんの?銀さんは俺だよ」
「だから、この子はあなたの半身って事ですよ。まだ記憶に新しいはずですけど?」
「銀ちゃんの半身って、あの化け猫……どざえもんの事アルか」
「ああ、どざえもん…………え?」

銀時、新八、神楽の三人は顔を見合わせると、思いっきり叫んだ。
この銀時そっくりの子どもはどざえもん。
だから今、銀さんも半身でしかないのよ、と妙は笑う。
なぜそんな事になったのか。
銀時に覚えはまったくなかった。
どざえもんを見れば、じっと銀時を睨んでいる。
神楽がどざえもんの頬をぷにとつついた。

「さわり心地いいアル。何かムカつくネ」
「……お前、確か俺の玉取ったやつ……」
「え、わかるアルか?あの時、エリーの姿だったのに」
「ああ、何となく……そっちのメガネはメガネで、あのもじゃもじゃは……」
「誰がもじゃもじゃだ!お前もだろーが!」

どざえもんはムッと顔をしかめた。

「俺はお前が嫌になったから、お前の身体から抜けてきたんだ」
「は?」
「こんなぐーたらなニート侍じゃ、姐さんを護れねェからな」
「なるほど。銀ちゃんが嫌になったから分裂したアルか。気持ちはわかるヨ」
「何だよ分裂って。人間が分裂できるわけねーだろ」
「何か、猫の姿していた時と比べて、ちょっと生意気ですね」
「そこはやっぱり銀ちゃんだからアル。きっと銀ちゃんの子ども時代はこんなだったアルヨ」

新八と神楽は銀時にジトリと眼差しを向ける。
その間にどざえもんは、姐さん姐さんと妙に甘えるようにすり寄り、胸元に顔を埋めた。
会いたかった、と鼻をすすりながら。
妙はよしよしとその頭を撫でる。
嬉しそうに。
たとえ銀時の半身だったとしても、どざえもんは妙にとっては大事なペットだった。
銀時の子ども時代の姿をしているとはいえ、ペットのどざえもんに変わりないらしい。

「ん、お前の身体は何なの?猫じゃねーし……まさか人間の死体とか……」
「そんなわけないだろ。姐さんに会いたい一心で、魂の具現化に成功したんだ俺は」
「具現化って何だよ!何そのご都合主義!?」

ぎゅうぎゅうぎゅうと、妙に抱きつくどざえもん。
その光景に、銀時は口元をひきつらせた。
子ども時代の自分が妙に甘えている。
こんな奇妙な光景、どう受け止めろというのか。
まだ化け猫姿の方がマシというもの。
俺を睨むのやめてくんない新八君。
銀時の言葉に、新八はチッと舌打ちした。
どこからか取り出した新しい眼鏡をかけて。

「どざえもん。銀ちゃんの中には戻らないアルか?あんなんでも、お前の半身アル」
「嫌だ。俺は姐さんといる」
「嫌じゃねーよ。お前は俺なんだからさっさと戻ってこい。つか、俺大丈夫なの?魂半分なんだよね今。大丈夫なの!?」
「死ぬかもな」
「そうか、死ぬのか。じゃねーだろ!!死ぬの!?俺死ぬの!?」

俺は姐さんのそばにいる。
どざえもんはぴったりと妙にくっついたまま銀時たちを睨んだ。
困ったような表情で、新八は妙を見た。
妙は微笑む。
どざえもんに会えた事は嬉しいだろうが、このままにしておく事はないだろう。
その表情で新八は理解した。
妙が戻れと言えば、どざえもんは銀時の中に戻る。
ほんの少しでもいいから。
そんな妙の心情を読み取った新八は、もう何も言えなくなってしまった。
小さいとはいえ、銀時の姿をしている事には腸が煮えくり返るが。
ふと、どざえもんは切なげな顔をした。

「姐さん……」
「なぁに?」
「俺、出てくる時、アイツの中に大事なものを三分の一落としてきたんだ……」
「え、何?俺の中に何落としたって?」

どざえもんは銀時を見据えた。

「純情な感情だ」
「って何それ!?」
「ウソつくなヨ!銀ちゃんに純情な感情なんてあるわけないアル!」
「そうですよ!銀さんの中にあるのは荒んだ感情だけです!」
「お前ら俺を何だと思ってんだ!」

どざえもんは一度目を瞑ると、真っ直ぐに妙の瞳を見つめた。
恋い焦がれるかのような眼差しに、妙の目が僅かに大きくなる。
ボゥン。
そんな音とともに、どざえもんの身体が変化した。
妙の手を取るどざえもんの姿に、銀時と新八は白目をむき、神楽がおおうと声をあげた。
頬が染まる妙。

「姐さん。こんな中途半端な気持ちでも、俺の想いは本物です。アイツから全部持ち出すつもりだったんですが……すいやせん。ヤツの身体から抜け出る寸前で引っ張られやして……」

三分の一、落としてしまいやした。
どざえもんはぎゅっと妙の手を握りしめた。

「ってなんで白夜叉ぁぁぁぁあああ!?」
「やっぱりあれ、白夜叉時代の銀ちゃんアルか!」

子どもの姿から青年へ。
きりりとした白夜叉姿の銀時の態度は、化け猫姿だった時のそれと似ていた。

「アネゴ、顔赤いアルヨ」
「え!?だ、だって……目と眉が……」

近くて。
ますます赤くなる妙。
どざえもんはただ真っ直ぐに妙を見つめている。

「……あの、ちょっといいですか」

新八がくいと眼鏡をあげた。
その声は低く、黒いオーラを纏っていた。
どうしたネ新八。
神楽が怪訝そうに新八を見る。

「今のどざえもんさんは、三分の二の純情な感情でできてるって事ですか?」
「……そう思ってもらって構わない」
「それって、結局は銀さんの純情な感情なんですよね?」
「あ……そっか……。もとは銀ちゃんの純情な感情アルな」
「つまり。銀さんは姉上に対して、純情な感情を抱いていたって事ですよね」

新八と神楽の視線が銀時に向く。
足音を立てないよう、逃げ出そうとしていた銀時がびくりと身体を震わせた。

「い、いや、俺荒んだ感情しか持ち合わせてないから!」
「銀ちゃんの中にまだあるアル……三分の一の」
「純情な感情ォォォォォ!!」

新八が銀時に襲いかかった。
神楽も便乗する。
怒号と悲鳴が響き渡る中、妙は三人からどざえもんに視線を移した。
ただじっと。妙を真摯に見つめるどざえもん。

「ど、どざえもん、さん」
「はい」
「あの……三分の二で十分魅力的よ、あなたは……」
「ほ、本当ですか!」
「ええ」

ぱあ、とどざえもんは顔を輝かせた。
銀時では見れないその表情に、妙の胸が音を立てる。

「三分の一……なくて良かったわ……」

とてもじゃないけど、たえられない。
妙はそっとどざえもんの手を握り返した。


end


どざ妙。こじらせた感満載(笑)
本当は、どざえもんが成長するたびに、銀さんの身体が逆に小さくなってって、このままじゃ本体が入れ替わるよ、さあどうする!?
……という話にしようとしてました!
長くなるから止めました。
つか、これどざ妙って言っていいのかな?
お粗末様でした!

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