蝶の宣戦



※カス→サト←オリキャラ注意!
※名前などキャラとしての設定がついています!



「遅いな」

「遅いわね」


タケシとカスミは腕を組み、森の入口をじっと見つめていた。
この川沿いでランチにしようと、サトシに食料を探してくるよう頼んでから約一時間。
そろそろ戻ってきてもおかしくないのに。
はあ、と大きなため息をついたカスミは、辺りを見渡した。
ポケモンたちは皆モンスターボールの外に出している。
今サトシの手持ちはピカチュウだけ。
カスミは川に入ってはしゃぐサニーゴとコダックに留守番を頼み、タケシと森へと足を進めた。


「特に危険な森じゃなかったわよね」

「ああ。木の実も結構あるみたいだし、迷う道でもない……」

「バトルしてたりして」

「ははっ……ありえるな」


サトシのバトル優先度はかなりのもの。
常にバトルのことを考えている彼ならば、食料探しも忘れてバトルしていてもおかしくない。
カスミはやれやれと肩をすくめる。
刹那、空を裂くような音が響いた。
それが電撃と気づいたのは、二発目であろう稲妻が木々の間から見えたから。
ピカチュウの10万ボルトに違いない。
カスミとタケシは頷き、急いで稲妻が見えた方へと走った。


「サトシ!」

「ん?あれ、カスミにタケシ。どうしたんだ?」

「どうってお前……それはこっちの……いや、予想通りだな」

「もう、お子ちゃまなんだから」


カスミとタケシは盛大にため息をついた。
理解していないようで、サトシはきょとんとしている。
きっと食料を探していたことも忘れているだろう。
カスミは、もうと頬を膨らませながらサトシへ歩み寄った。
タケシが慌てたように手を伸ばす。


「カスミ……!」

「へ?……き、きゃああああ!!」

「あー……」


悲鳴を上げたカスミは、サトシの肩を勢いよく掴んだ。
だから呼び止めたのに、とタケシが額を手で覆う。
カスミはガタガタと震えながらぎゅっと目を瞑っている。


「どうしたの、その子」


不思議そうに首を傾げたのは、サトシと対峙していた女の子。
サトシのバトルの相手だ。
女の子が抱いているのは、目を回しているキャタピー。
カスミの苦手な虫ポケモンだった。


「ごめんな、こいつ虫タイプ苦手でさ」


サトシが女の子に謝る。


「へぇ……?」

「おい、カスミ……いい加減慣れろよな」

「む、ムリ!」

「カスミちゃん、っていうの?」

「え?」

「私はアゲハ。虫ポケ大好き少女よ」


虫ポケを強調させ、アゲハは笑った。
笑ったが、目は笑っていない。
大好きな虫ポケを嫌いと言われ、悲鳴など上げられたらムッとするのも当然だ。
カスミもそれはよくわかっている。
わかっているが、近づかないでほしいと言わんばかりに腰が引けている。


「こんなに可愛いのに……ね、キャタピー」

「うんうん。可愛いよな〜キャタピーって」

「え?サトシ君キャタピーの良さがわかるの!?」


不機嫌そうだったアゲハの表情がキラリと輝く。
アゲハがサトシの側に駆け寄るのと、カスミがサトシから離れタケシの後ろに隠れるのは同時だった。


「う〜……」

「大丈夫か、カスミ」


唸るカスミにタケシが問いかけた。
しかし、二人とも視線はサトシたちに向いている。
キャタピーの話で盛り上がっているのが聞こえてきた。
キャタピーはサトシが初めてゲットしたポケモン。
進化も、別れも。
新米だったサトシに色んな経験をさせてくれた大切な友達だ。
それもあってか、サトシたちの盛り上がりがカスミでなくとも引いてしまうレベルになっている。
現に、ピカチュウが呆れてカスミとタケシの側にやってきた。
やれやれと首を振っている。


「……何か……あの子……」


カスミは掴んでいたタケシの服を、さらに強く握りしめた。
アゲハの瞳はキラキラと輝き、頬は上気しどんどんサトシと間合いを詰めている。
大好きな虫ポケモンの話で興奮しているからだろうが、それにしては近すぎないか。


「……気になるか?」

「……き、気になんて……」


していない。
と、言いたいとこだが、先ほどから目が離せないでいた。
いつもケンカばかりのカスミと違い、アゲハは本当に楽しそうにサトシと話している。
ひとつのタイプにこだわっているのは同じなのに。
ただ見ていることしかできないのが悔しかった。


「おい、サトシ。いい加減腹も減ったんだが」

「あ!悪ぃ!忘れてた!」


気を利かせてくれたのか、ただ本当に空腹からか。
タケシが呼びかけると、サトシは思い出したように慌て始めた。


「アゲハも一緒にどうだ?」

「え、いいの?」

「おう。もっと色々話そうぜ!」


何を言ってくれちゃってんのか。
カスミは口をあんぐりと開ける。
唖然として拒否する言葉は出なかった。
タケシにポンと肩を叩かれ、余計にむなしい気持ちになる。
カスミが虫ポケモン苦手と知っているのに。
そんな気づかいができるサトシではないということなのだろうか。


「サトシのバカ……」

「ん?何だよカスミ」

「別に。あたしは離れて食べるからね」

「何でだよ。みんなで一緒に食べようぜ!」


カチン、と頭にきた。
いくらお子ちゃまとはいえ、今まで一緒に旅をしてきたのだから解るはずだろう。
カスミは虫タイプが苦手と、先ほど言ったのはサトシなのだから。


「あんたねぇ……」

「虫タイプのポケモンが苦手なだけで、アゲハが嫌なわけじゃないだろ?いくら苦手なタイプの使いだからって、彼女自身を否定してるみたいでよくないぞ」

「う……」


まさかサトシがそんな事言うなんて。
カスミは言葉を詰まらせた。
確かに、彼女を傷つける態度をとっている。
だから何も言い返せなかった。
それに。
サトシに興味があるようなあの態度。
アゲハが嫌なわけじゃないだろ、というサトシの言葉が胸に突き刺さる。


「同じひとつのタイプに特化した者同士だし、話聞いてたら虫タイプの見方が変わるかもしれないじゃん」

「え……」


サトシはニッと笑った。
もしかして、そこまで考えてのことなのか。
虫タイプの見方が変わるなんてことはないが、サトシがカスミを軽んじているわけではないのは充分に理解できた。
自分の浅はかさが嫌になる。


「私もカスミちゃんとお話したいな」

「え?」

「サトシ君たちとの旅の話、興味あるもの」


そうかー、なんてサトシは楽しげに笑うけれど。
つまりそれは、サトシの話を聞かせろということで。
バチッと火花が散った。


「あなた、悪趣味ね」

「そうかしら?恋はいつだって突然なものよ」


言っちゃったよ、というタケシのハラハラしたような声音はカスミには届いていない。
恋をコイキングあたりと勘違いしていそうなサトシの鈍感さに、今は感謝するのだった。



ーーーーー
本当はもっとオリキャラをカスミとバチバチさせる予定だったんですが、うまく書けなくてボツに。内容っていうか文章が……。
でもこれもひとつの話かと思ったのであげてみました。
一応バタフリーがパートナー設定。
お粗末様でした!

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -