片隅にとどめる



野生のメブキジカが、ゆったりと木の実を食べていた。
その優雅な美しさに、思わずカメラを向ける。
フラッシュにも驚くことなく、メブキジカは木の実を食べ終えると、森の奥へと消えていった。
ふと、視界に黄色いものが入り込んだ。


「……! このポケモンは……!?」


何でこんな所に。
まさか野生のポケモンかと、モンスターボールを構える。


「あー! 待って待って! その子あたしのなのー!」


さっと割って入ってきた少女は、息を切らせながらそのポケモンを庇った。
やはり野生なわけがないか、とモンスターボールをしまう。


「こらコダック! あんたはまた勝手な事して!」


勢いよく怒鳴りつける少女を見つめていたコダックは、たっぷり五秒は間をあけ、首を傾げた。
ずいぶん間抜けな顔だ。
少女はがっくり項垂れた。


「そのコダック……君の?」

「えぇ、ごめんなさいね。この子ちょっと抜けてて……」

「コダックはイッシュにいないポケモンだ。って事は君は……」

「ええ。カントーから来たの。友達に会いにね」


少女はにこりと笑った。
カントー。
無意識に眉が寄った。
カントーから来たトレーナー。しかも黄色いポケモンだからか、あまり思い出したくない相手が浮かんでしまった。


「やっぱりカントーなんて田舎じゃ、人間もポケモンも間抜けなのばかりか……」


ぴくり、少女の肩が反応する。
彼女に対しての言葉のつもりはなかったが、口に出してしまった以上はただの言い訳。
それに、このコダックを見る限りあながち間違ってはいないだろう。


「……あんた、そういうので物事判断するタイプ?」

「……そう受け取ってもらって構わない」

「……ふーん」


少女はコダックの頭を撫でる。
怒っているのは雰囲気で分かった。
だから何という事はない。
これ以上ここにいても意味がないだろうと、足を少女とは反対方向へと向けた。
その瞬間。


「コダック!?」


少女が焦ったような声をあげた。
思わず振り返ると、なぜかコダックの頭にヤブクロンが噛みついていた。
見たことのないポケモンに興味を示したのだろう。
歯形が残るのではないかというくらいに、ヤブクロンはしっかりと噛みついている。
しかし、当のコダックは自分の置かれている状況を理解していないのか、首を傾げるだけ。
まさか痛みを感じないのか。


「クワッ!?」


コダックは泣きじゃくりながら駆け回った。
どうやら、痛みに気づくのが遅かっただけらしい。
鈍感というレベルではない。
あまりの事に、唖然としてしまった。


「コダック、取ってあげるから落ち着きなさい」


少女が手を伸ばすも、コダックは止まらない。
本当に、カントーのトレーナーはどうかしているとしか思えない。
再び身体の向きを変えようとすると、ピタリとコダックの動きが止まった。
何か様子がおかしい。


「あらら……まあ、仕方ないか……」


少女は額に手を当てた。
ぶるり、肌が粟立つ。
この感覚は一体何なのか。


「うーん……性格は変わらないくせに、何でか技は威力が増してるのよねぇ……」


少女が一歩後退したその時。
コダックの目がカッと見開いた。


「な……!?」


ガジガジとコダックの頭に噛みついていたヤブクロンが宙に浮いた。
そしてそのまま、グルグルと勢いよく回り出す。


「まさか……念力……!?」


だとすれば、かなり強力だ。
この手の技は相手の行動に干渉する。
だからといって相手の抵抗はあるし、レベルが高ければ破られる事だってある。
だが、これは通常では考えられない動きだ。


「コダック、もう放してあげなさい」


少女が呆れたように言うと、ヤブクロンはグルグルと回ったまま空に放り投げられた。
きらり、星になる。


「まったく……。どうしてそれが普通に使えないのかしらね……」


歯形のついたコダックの頭を少女は撫でる。
コダックは元に戻ったかのように、間抜けな顔で首を傾げた。
あまりの出来事に呆然としていると、少女がくるりとこちらを振り向いた。


「何よ」

「…………」


言葉は出なかった。
何も思い浮かばなかった。
それが悔しい気がして、思わず舌を打つ。


「……あんた、トレーナーでしょ? バッジ集めてるの?」

「……そうだけど」

「そう……」


少女はゆっくりと目を逸らした。


「コダックの力を使いこなせていないあたしが言うことじゃないけど……」

「…………?」

「あなたの強さは知らない。でも、その一方的な考え方じゃ、この先ジム戦はキツイかもね」

「何……」

「バトルでの柔軟性は、普段の考え方からも影響するものよ。ジムリーダーからの忠告」


じゃあね、と少女は手を振りコダックと共に歩き出した。
ジムリーダーからの忠告?
反芻し、意味を理解した。
彼女はカントーのジムリーダー。
コダックを連れているという事は水タイプの使い手か、もしくはあの技の威力からエスパータイプの使い手という可能性もある。
勝負を挑むべきかと思ったが、止めておいた。
そのためには、彼女の言う忠告とやらの意味をしっかり理解しなければならないと感じたからだ。


「これだから田舎は……」


カントーの人間というのは、あんなのばかりなのか。
苛つき、顔を背ける。


「…………」


カメラを少女に向けた。
パシャリ、写った少女とコダックの後ろ姿。
カントーに行く事があるかは分からないが、覚えておこうと、そう思った。



----------
シューティーとカスミ。
シンジとの話を書くのと同様、楽しかった……!
カップリング話ではありませんが、出会いって良いですよね。険悪な感じだけど!カスミのが先輩だしジムリーダーで偉いからこれでいいのだ!と、開き直ります……。
お粗末さまでした!

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -