団欒はシチューの匂い



もうすぐ出来上がるシチューをかき回していると、ほんの一瞬視界が暗くなった。
鳥ポケモンが上空を飛んでいったのだろうか。
デントは味見のための小皿にシチューをよそい、口をつける。


「ぶっ!!」


思いっきり吹き出し小皿を落とす。
ヤナップが割れる前に何とかキャッチし、ホッと安堵し胸を撫でおろした。
どうしたのかとデントを見上げる。


「ヤナ……?」


デントは口をパクパクさせ、目をいっぱいに見開いていた。


「デント、どうした?」

「何驚いてんの?」


サトシとアイリスが異変に気づき駆け寄ってきた。
デントは震える手で、空を指差す。


「あ、あれ……」

「あれ?」


デントの見ている先をサトシとアイリスも追う。
すると、二人もデントと同様に驚いたように目を丸くさせた。
特にサトシの驚き方が一番大きく、驚き以外の感情も同時にわいたようだった。


「ピカァ!!」


ピカチュウが目をキラキラと輝かせた。


「り……リザードン!?」


空を悠々と飛んでいたのは、イッシュ地方にはいないはずのリザードンだった。
リザードンはぐるりと旋回し、サトシたちの前に降り立った。
視線が交差する。


「リザードン……お前なのか……?」


いるはずのないリザードン。
それも、強くなるためにサトシと別れた、あのリザードンだ。


「ふぅ、やっと着いたのね」

「え?」

「ピカチュピー!」


ひょこり、リザードンの背中から顔をのぞかせた見知った人物。
ピカチュウが嬉しそうに飛びついた。


「か……カスミ……!? え、なん……どういう……!?」


いるはずのないリザードン。
そして、カスミ。


「久しぶりね、サトシ。ピカチュウも」

「ピカピーカ!」


混乱するサトシは、先ほどのデントと同じように口をパクパクとさせた。
カスミがおかしそうに、コイキングみたいと笑う。
サトシはコイキング懐かしいなと頭の隅で思いながら、頬を引っ張った。
痛い。夢ではないらしい。


「カスミ……リザードン……何でここに……」

「きゃーーーー!!」


突然アイリスが叫んだ。
何事かと振り返ると、アイリスは拳を握り体ごと震わせている。


「すごい! リザードンよ! リザードン!!」


嬉しそうに頬を染めリザードンに抱きつく。


「カッコイイ! やっぱりドラゴン最高〜!」

「え、アイリス……。リザードンはほのおタイプとひこうタイプだぜ?」

「へ?」


きょとん、とアイリスは目を瞬かせる。
リザードンを見上げ、その顔をじっと見つめた。


「…………ドラゴンじゃないの?」

「違う」

「え……だって、どう見てもドラゴンじゃない! りゅうのいかりだって覚えられるでしょ!?」

「そ、それはまあ……」

「じゃあやっぱりドラゴンだわ! きゃー! カッコイイ!!」


アイリスは再びリザードンに抱きついた。
キバゴも羨望の眼差しでリザードンを見つめている。


「ははっ、確かにトカゲ系だから間違ってるわけじゃないかもね」

「デントまで……」

「それより、だよ。初めましてでいいかな。カスミ」

「ええ、初めまして。電話で会っているけどね」


デントとヤナップはカスミと握手を交わした。
ほんの数日前、久しぶりにハナコに電話をしたらカスミが出て、今度遊びに行くという話になった。
しかし、日程はまた改めて相談する事になったはずだ。


「まさかリザードンに乗って登場するなんて、思っていたよりずっと刺激的な出会いだね」

「そうだ! 何でカスミがリザードンと!?」

「うん……この前の電話のあと、オーキド博士とケンジに会いにいったんだけど……。そしたらね、リザードンが帰ってきてたのよ」

「帰ってきてた……?」

「お休みをもらったみたい。サトシに会いにきたのにサトシは遠い遠いイッシュ地方……。リザードン、落ち込んでたわよ?」


ちらり、カスミはリザードンに目を向ける。
空に向かって火炎放射を放ち、アイリスに強さをアピールしているみたいだった。


「じゃあ、君はリザードンのために……?」

「ええ。まあ、あたしもみんなに会いたかったしね」

「……カスミ…………」


カスミはにこりと笑いモンスターボールを取り出すと、サトシの手のひらに置いた。
ぴかぴかに磨かれたモンスターボール。
リザードンのだ。


「船で来たんだけど、港に着いた途端リザードンが飛び出してね。あたし背負ってここまで飛んできたのよ。よっぽどサトシに会いたかったんじゃないかしら?」

「リザードン……」


サトシはゆっくりとリザードンに近づいた。
じっと真っ直ぐに見つめ合う。


「リザードン……ごめんな、来てくれてありが――」


言い終える前に、リザードンはフイと顔を背けた。
ドスンドスンと足音を立て、カスミの後ろに回る。


「お、おいリザードン……」


困惑するサトシにチラリと目を向けたリザードンは、意地悪げな笑みを浮かべた。
あ、とカスミが思うよりも早く。
火炎放射が見事にサトシの顔を焦がしていた。
アイリスとデントが驚きで体をのけ反らせる。


「ふふ、リザードンの挨拶よね?」


カスミがくすくすと笑う。
サトシに火炎放射を放ったリザードンの表情は楽しそうで、嬉しそうでもあった。
久しぶりに会って照れているのだろう。


「り、リザードン……」


バタリ、サトシが倒れる。
リザードンは満足そうに鳴くと、くるりと背を向けその場に伏せた。
カスミを尾で囲い、そのまま眠りへと落ちていく。


「あらら、疲れちゃったのね」

「港からここまで結構距離があるからね。当然だよ」

「いいなぁカスミ……。リザードンのしっぽ……」


スースーと寝息をたてるリザードンを、カスミはそっと撫でた。


「しばらくは起きそうにないわね」

「なら、ランチにしよう! ちょうどシチューを作っていたところだったから。ヤナップ、カスミのお皿も用意してくれるかい」

「ヤナ!」

「リザードンが起きたらバトル見せてね! カスミ!」

「おいアイリス! リザードンはオレのポケモンだ!」

「ピカ〜」


わいわいと騒ぐ中、リザードンは静かに眠っている。
シチューの香りに、ほんの少し尻尾を振りながら。




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リザードンが尻尾でカスミを囲ってるところを書きたいがための話。
一応サトカス書くつもりでいたのに、リザードン好きすぎてサトカスにならんかったよ(笑)
リザカスやっふー!リザサトもやっふぅ!
あ、アイリスのドラゴン好きはこんなだったら可愛いかなぁと。
カスミのギャラドスにも反応したりとか!
それも考えてたけど、長くなるんで……。
しかし……リザードンはなぜひこうタイプでドラゴンじゃないんだと嘆いた小さかった頃の私……。その気持ちを思い出しました(苦笑)
お付き合いくださり、ありがとうございました!

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