旅立ちまで



「カースミー!!」


バァン! と勢いよく開かれた扉。
騒がしい声で目が覚めたカスミは、重たげに身体を起こし目を擦る。
ふぁ、とあくびが漏れた。


「おいおい、いつまで寝てるんだよ」

「…………まだ五時じゃない…………」


時計を見て、カスミは嫌そうに表情を変えた。
だがサトシはニコニコと笑っている。
それもすごく嬉しそうに。


「ピ〜カ〜?」

「ピカチュウ……いないと思ったらカスミのベッドで一緒に寝てたのか……。そこは俺の場所だぞ」

「チャァ〜」


ピカチュウが大きなあくびをした。
カスミと同じように目を擦り耳を掻く。


「ほら、早く起きて準備しろって」

「準備……?」

「旅支度に決まってるだろ!」

「……おやすみ」

「おいカスミ!」


ごろんと再び横になり、カスミは目を閉じる。
サトシは慌ててカスミに駆け寄った。
バンバンと布団を叩くと、カスミは面倒そうに少しだけ目を開ける。
ギロリ、睨み付けてもサトシはやはり嬉しそうだ。


「起きろって」

「嫌よ。疲れてるし。昨日は挑戦者も多くて大変だったんだから」

「臨時のジムリーダーだろ……」

「疲れるのに臨時は関係ないわ」


枕を抱き寄せ顔を埋める。
嬉しそうだったサトシに、ムッとした表情が浮かんだ。
しかし、カスミは知らないフリをする。
疲れているのは本当で、まだ眠いのも確かなのだ。


「ハナダのジムも今じゃ後継者がいるんだし、旅に出たって何も問題ねーじゃん」

「問題はないわよ、別に……でも今は……眠いのよ……」

「何だよ、旅に出たくないのか」

「そうじゃないけど……休むくらいさせてよ……」

「のんびりしてるとお前置いてっちゃうぞ!」

「うん……いってらっしゃい……」

「おい!!」


ぺちぺちぺちぺち。
サトシはカスミの頬を叩いた。
それを気だるげに振り払い、カスミはごろりと寝返りをうつ。


「本当に行っちゃうぞ!」

「どうぞ。アンタが旅に出るのはいつものことだし。ポケモンマスターになったのに、落ち着かないことで」


夢を叶えるために旅に出て、憧れ見ていた夢から目標に変わった。
そして掴みとったポケモンマスターの称号。
夢は叶ってしまった。ならその先は?
サトシは迷うことなく旅を続けている。
まだまだ知らない事はたくさんあるはずだと、サトシはずっと旅をしている。
彼の世界はポケモンでできているからだ。


「むぅ……寂しくないのかよ」

「ええ。全然寂しくないわ」

「お前ちょっと意地悪になったんじゃないか? 昔は連絡よこせだの、たまには帰ってこいだの言ってたのに」

「……昔よりずいぶんと頻繁に帰ってくるじゃない」

「それは……! カスミが寂しいだろうから、たまに抱きしめてやりにだな……」


カスミは小さく笑った。
ついこの間旅に出たばかりなのに、もう帰ってきた。という事は少なくない。
ほとんどがポケモンだった世界に、カスミが入ってしまったからだ。


「寂しくはないわ。本当に」

「………………」

「だって、信じてるもの。必ず帰ってくるって。だから、寂しさは感じないわ」

「カスミ……! お前……そこまで俺のこと……!」

「そのテンション、そろそろウザいんだけど」


ただ浮かれているのか、本当は朝早くて寝ぼけているのか。
カスミは二度寝に入っていたピカチュウを抱きしめた。
こうしていると、温もりが心地よくてすぐに眠ってしまいそうになる。
その狭間で、別の温もりを感じた。


「サトシ?」

「寝る」

「あら、旅はいいの?」

「言ったろ。お前も一緒だってな」

「……ふふ、今回は連れてってくれるのね」

「ん。起きたらいないなんて事ないから、安心して眠っていいぞ」

「最初から心配してないわ」


温もりに包まれる。
いきなり帰ってきて、いつもこうして抱きしめて、そして朝目が覚めたら旅立ったあと。
寂しくはないが、それに慣れてしまった事に対しての淋しさはある。


「おやすみ、サトシ」

「……ん」

「今度は一緒に行こうね」


寄り添って、目を閉じる。
あの頃の懐かしい夢を見れそうな気がした。



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久しぶりに大人サトカス!
幸せ〜な気持ちが伝わっていると嬉しいです!
こういう日常を切り取ったような、何気なくもほんわかした話を書く時が一番幸せです。
ただ、話に抑揚がないから難しく、読む側も退屈かと思いますが……!
お粗末様でした!伝われ、幸せ!

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