耐え難い真実
「どうしてこうなった」
「…………」
タケシが真顔で言い、その前に正座していたサトシとシンジはガックリと項垂れた。
事のはじまりは、ちょっとした言い争いだった。
考え方が違うふたり。衝突はいつもの事だった。
しかし、バトルを重ね、会話をし、お互いにお互いを認めあうようになっていった。
いいライバルといえる関係。
そのため、タケシもサトシとシンジのケンカを止める事もなかった。
「よそ見してる間にこんなことになるとはな」
「……ぶっ」
「だ、だめよヒカリ! 笑っちゃ……ぷぷっ!」
「あー……ハルカにヒカリ。ちょっと向こう行ってろ」
「えー! いいじゃない! こんな面白い光景滅多にないわよ!」
「ぶふぅっ! わたし、もうだめ!」
ついに堪えきれなくなり、ハルカとヒカリはお腹を抱えた。
その姿に、サトシとシンジの眉がピクピクと震える。
そんな二人の前を、ピカチュウが耳を下げてうろうろしていた。
いつもの定位置はどちらになるのか悩んでいるのだろう。
「みんな、何してるの?」
「あ、カスミ……」
正座するサトシとシンジ。その前をうろつくピカチュウと、仁王立ちのタケシ。そして、お腹を抱え震えるハルカとヒカリ。
奇妙な光景に、カスミは首を傾げた。
「カスミ! きいてくれ!!」
「きゃっ! え、え!? し、シンジ?」
ガッとシンジがカスミの肩を掴んだ。
切羽詰まったような表情でカスミに顔を近づける。
いつもと違うシンジの様子に、カスミの頬が赤くなった。
「やめろ、バカが」
バンッ、とシンジの頭が叩かれる。
叩いたのはサトシだ。
イライラと眉を思いっきり寄せている。
「大丈夫か」
「え、え……? さ、サトシ……? な、なんか雰囲気が……」
やけにクールだ。
叩かれたシンジは突っ伏したまま起き上がらないし、一体何が起きているのか。
「し、シンジ……大丈夫……? サトシ、あんた強く叩きすぎたんじゃ……」
「気にするな。というか無視しろ」
「え、えっと……サトシ……?」
チッ、と忌々しげに舌打ちするサトシに、カスミは冷や汗を浮かべた。
この態度、どこかで見覚えがある。
というより。
カスミはそろりと突っ伏したままのシンジに目を向けた。
「ま、まさか……サトシとシンジ……」
「言うな。それ以上は」
サトシは心底嫌そうな顔をしながら、シンジを睨んだ。
「カスミ」
「あ、た、タケシ……」
「理解したか?」
「う、うん……えと、でも……」
「真実だぞ。今目の前のサトシはシンジで、そこに倒れてるシンジは実はサトシなんだ」
カスミは唖然とした。
実際にタケシから言葉を聞いても、頭が受け付けようとしない。
わかっているけれど、疑いたい。
「最悪だ。よりによってこんなヤツと……」
「サトシ……じゃない……シンジなのね?」
「ああ、そうだ」
サトシは頷いた。
いや、サトシの体だが、中身はシンジなのだ。
なんともややこしい。
「ピカチュピ……」
「あ、ピカチュウ……。そうね、困るわよね……おいで」
「ピカ」
耳を下げたピカチュウが胸に飛び込んできた。
カスミは優しく抱き止め、その頭を撫でる。
「うっ……」
「あ、シンジ……じゃなくて、サトシ。大丈夫?」
小さく身をよじり、シンジの体をしたサトシがむくりと起き上がる。
何が起きたのかと辺りを見渡し、サトシは自分の体に入ったシンジを見た瞬間、カッと目を見開いた。
「シンジ……! お前! 自分の体だろ!? 思いっきり殴りやがって!」
「ふん、ぬるいな。俺の体だろうが今はお前なんだ。遠慮はしない」
「なにー!?」
カスミは顔をひきつらせた。
体が入れ替わってしまっているせいで、気色悪い言い争いになっていた。
あのサトシが人を見下したような表情で、あのシンジが表情をコロコロ変えている。
「カスミ! お前も何か言ってやれ!」
「わー! やめてサトシ! シンジのイメージが〜!」
「は!? お前、一大事にシンジのイメージがどうとか言ってる場合じゃないだろ!」
「だって! こんな……こんな……! こんなカッコいいサトシと、こんなアホっぽいシンジなんて……!」
「あ、アホっぽい……」
カスミの言葉にショックを受けたように、シンジが一歩後退する。
自分の顔があんな風に変わっているのだ。シンジからしたら耐え難いことであり、何よりカスミにズバッと言われたことが重くのしかかったのだろう。
自分の体を叩くことはできても、カスミの言葉には傷ついたらしい。
タケシは苦笑した。
「あ、アホっぽいシンジ……! ぷ……、あはははははは!」
「やだもー! アホっぽいシンジ最高すぎる……! ふ、あははははははは!」
ついに地面を転がるように笑い出してしまったハルカとヒカリ。
それに釣られるように、カスミも思わず吹き出した。
「ね、サトシ……! いつもみたいにハイタッチしようよ! シンジとハイタッチなんて貴重だわ!」
「そうそう! ね、笑ってよ、ニカッて感じで! 写真撮るから!」
「お前ら、俺の体で遊ぶな!」
「……ちょっと見てみたい」
カスミの呟きにシンジは、え!? と声をあげた。
これは惜しい、シンジの顔で見たかったな、とタケシまでもが笑いだす。
「くっ……! おい!」
シンジはサトシの腕を掴み強く引っ張った。
そして思いっきり頭突きをした。
「……ちっ、ダメか……」
「何? 急にどうしたの?」
「これで戻れるかと思ったんだが……」
「ベタだな」
「ぶふぅっ!」
額を押さえるサトシがあまりに間抜けな感じで、カスミもついにお腹を抱えてしまった。
サトシの体はともかく、シンジの体でサトシの言動は笑いしか誘わない。
タケシは口元を押さえながら、シンジに顔を向ける。
「頭ぶつけて入れ替わったのか?」
「ああ」
「何でそんな状況になったのよ」
「聞くな」
ピシャリと言い放ち、シンジはもう一度だとサトシの胸ぐらを掴んだ。
自分の顔と向き合うのはどういう気持ちなのだろうか。
自分に睨まれるという奇妙な感覚に、サトシの方が耐え難かったらしい。
シンジの手を振り払い、カスミの背に回った。
「サトシ?」
「なんかやだ、きもちわるい」
「だからこうして戻ろうとしてるんだろ! さっさと来い!」
「やだ、むり」
サトシはカスミの肩にしがみつくようにして首を左右に振った。
「ふざけるな! このままでいいのかお前は!」
「嫌だけど無理!」
「ぐっ……!」
「まあまあ、シンジ。いいじゃない。シンジがあたしの後ろに隠れるなんて……なんか可愛い」
「それは俺じゃない!」
段々慣れてきたのか、カスミはふふふと見守るような瞳で笑う。
ハルカとヒカリも同様のようで、爆笑から微笑みに変わっていた。
タケシがポンとシンジの肩を叩く。
「落ち着けって。ちゃんと戻れるさ」
「そうそう。だからサトシも……落ち着いて」
「カスミ……ありがとう!」
ガバリ、サトシはカスミに抱きついた。
「……カスミ、顔赤いぞ」
「サトシに? それともシンジにかしら?」
「シンジがカスミに抱きつきました。ってことでコレも記念に一枚……っと」
「離れろ! それは俺の体だってわかってんのかお前!」
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一度は書きたい入れ替わりネタ。
え、中途半端?
ギャグだからいいんです←
先に言ってしまうとネタバレになるし……と今回注意書きしませんでしたが、大丈夫……かな……?
毎度ハルカとヒカリには感謝ですね。こういう役回りばかりさせてますが、助かっております。
しかし楽しかった(笑)
サトカスシンでいちゃいちゃとかアリだと思うんですが、私だけかしら。
お付き合いくださり、ありがとうございました!