妖精と碧の調べ



人の数だけ出会いもあって、その方法も様々。
そのたくさんある出会いの中で、運命的だと感じるのはどのくらいあるのだろう。
今まさに、その運命的な出会いだと確信めいた思いがあった。


「バッジって、雫をモチーフにしたものかな?」

「そう! それです! よかった〜……無くしたかと……」


やはり、あのバッジは彼女のものだったようだ。
またこうして出会えたのも、彼女がここにバッジを落としたおかげ。
と、いう言い方はよくはないかもしれないけれど。


「おいで、マリル」

「リル!」


ひょこりと木の陰から顔をだしたポケモン。
やっぱり珍しくて、思わずしゃがんでまじまじと見つめた。


「このポケモンはイッシュにはいないんだ。君は違う地方から?」

「ええ、カントーから」

「カントー……」


やはり、か。
脳内に先ほどのサトシが浮かんだ。
マリルとバッジと、人魚。


「あの、それでバッジは……?」

「え? あ、あぁ……ごめん。さっき僕の仲間が持っていってしまって、今ここにないんだ」

「え!?」

「大丈夫。盗むとか、そういう事はないから」


君を探しに行ってしまったんだと思うよ。
という言葉は、そっと心内にしまった。
確認したいことがあるからだ。


「君のマリル、よく育てられているね」

「ありがとう。この子、つい先日進化したばかりなの」

「へぇ!」


嬉しそうに笑う彼女に答えるよう、マリルも元気いっぱいに鳴いた。
その頭を撫で、再び彼女に視線を戻した。
眠っていた時は、触れてしまうのが怖いくらいキラキラしていたのに、今はどうだろう。
同じキラキラとした輝きでも、とても親しみやすく近い存在に思えてくる。
これが彼女の本質なのだろう。
それは心地よく、妖精と比喩したのは間違いではなかったほどの安らぎも感じた。
オレンジは快活、緑は癒し安らぎの色。
それを併せ持つ彼女は、やはり妖精だ。


「何かあたしの顔についてる?」

「いや、髪と瞳の色がとても綺麗だと思って」

「え、そ、そう……?」

「ははっ。君、名前は?」

「あたしはカスミ。あなたは?」

「カスミ、か……。いい名だね。僕はデント。ポケモンソムリエだよ」

「ソムリエ! わあ、あたし初めて会ったわ!」


さすがイッシュ地方! とカスミは嬉しそうに笑った。
そんなカスミと握手して、彼女が眠っていた木の幹に腰をおろす。
ここで待っていればサトシもアイリスも戻ってくるだろう。


「ごめんね。僕の仲間だけど、そのうち戻ってくると思うから……」

「大丈夫よ。盗むつもりはないんでしょ?」

「それは保証するよ」

「ありがとう」


ふふ、と軽やかに笑う彼女に、何かを感じた。
ポケモンとトレーナーを見てきたソムリエとしての勘というやつかもしれない。


「カスミはイッシュに知り合いとかはいるかい?」

「いいえ、いないわ。でも……」

「でも?」

「……友達が、今イッシュを旅してるの」


その友達を思い出しているのだろう。
表情が柔らかくなり、嬉しそうだけれど、どこか寂しさも感じられた。
とても、会いたいと思っているのかもしれない。


「会えるといいね」

「……ええ、そうね」


にこり、微笑むと遠くで声が聞こえた。
デントが振り返ると、アイリスがこちらに走って来ている。
しかし、サトシの姿は見えない。


「あ、マリル」


ぴょん、とカスミの膝から降りたマリルが突如走り出した。
カスミがそれを慌てて追う。
突然のことに戸惑ったのはデントだ。
向こうからはアイリスが、こちらではカスミがマリルを追って行ってしまった。


「デント!」

「……アイリス……」

「ん? どうしたの、変な顔して」

「……いや。それよりサトシは?」

「それが見失っちゃったのよ。サトシってばすごい足速くて」


一体何なのよ、とアイリスは首を振った。
デントは迷った。
ここで待っていれば、サトシには必ず会える。
移動してしまうと、お互い所在がわからなくなってしまうが、カスミを追わなければ、という気持ちもあった。
本来なら、ここでサトシを待つべきなのだけど。


「行こう、アイリス」

「へ? どこに?」

「カスミを追わないと」

「カスミ? カスミってだれ……あ、ちょっとデント!待ってよー!」


誰かが来た途端姿を隠してしまうなんて、本当に妖精みたいだ。
そう思うと、あんなにも実感できたお喋りも幻だったかのように感じる。
それが不思議でならなかった。
キョロキョロと周りを気にしながら走っていると、風になびくオレンジ髪を見つけた。


「カスミ……!」

「……デント……」

「よかった、まだ近くにいて……」


エメラルドの瞳と合って、ホッと息を吐いた。
幻のように思えた感覚が徐々に現実のものへと変わっていく。


「ねえ、デント……その子もしかして……」

「あ、ああ……アイリス……。さっき話した――」

「あなたが妖精ね!」


キラキラと目を輝かせ、アイリスはカスミの手を握った。
うんうんと嬉しそうに笑っている。


「はじめまして! あたしはアイリス!」

「はじめまして、あたしはカスミよ。ところで、妖精って……?」

「それはデントが――ふごっ」


慌ててアイリスの口を塞ぎ、デントはカスミに向けてニコリと笑んだ。
何でもないよ、と言うがカスミは怪訝そうにしている。
何とか誤魔化さなければと考えたところで、マリルの姿が見えないことに気づいた。
まさか、見失ってしまったのだろうか。


「カスミ……マリルは……?」

「すごい勢いで行っちゃったみたい」

「え!? 行っちゃったって、それ大丈夫なの!?」

「心配だけど、あの子賢いから。きっと何か見つけたんだと思うわ」

「追わなくていいのかい?」

「ええ……。ここにいればマリルもあたしを見つけやすいと思う……。心配してくれてありがとう、デント、アイリス」


にこりとカスミは微笑んだ。
だいぶ信頼しているのだろう。
トレーナーの元を離れて行動できるなんて、やはりあのマリルの能力はかなり高いようだ。
デントが関心していると、パチリとカスミの目と合った。
剃らすことなく、じっと見つめられる。


「……何だい?」

「さっき、あたしの髪と瞳の色ほめてくれたけど、あなたも綺麗な緑ね、って思って」

「あ、ホント! 二人とも綺麗な緑色の瞳」


アイリスが無邪気に笑った。
まさか、そんな風に言われるなんて。
デントは一瞬キョトンと瞳を瞬かせ、ぷ、とふきだした。
カスミとアイリスが不思議そうな表情をするが、なぜだか笑いは止まらない。
彼女のような妖精さんと共通点だなんて、光栄だと思った。



「あーーーー!!」

「うわっ! 何!?」


突如、大きな声が響いた。
びくりと身体を揺らすデントとカスミが振り向くより速く、アイリスがそれに反応する。
続くように後ろを振り返ると、ぜーはーと息を切らしたサトシがマリルを抱えていた。


「サトシ! どこ行って――」

「か……か、カスミ!?」


アイリスの言葉を遮り、サトシはまたも目一杯叫んだ。


「さ、サトシ……?」


彼とは裏腹に、カスミはポツリと呟く。
サトシの名を呼んだことに、ああやっぱり、と密かにデントは思った。



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ま、まだ続きます……!
次で終われる……かな……?
サートシ君の出番が少なくてすみません!
ありがとうございました!

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