「それで」の後は



それでね、の後に続くのは決まって彼の名前。


「ねぇ、聞いてる?」

「聞いてるよ」

「本当に? グチ聞いてやるって言ったの、シゲルなんだからね!」


聞いてるよ。聞いてるけど、もうそれはグチには聞こえない。
何だかんだ言って、大好きって気持ちが伝わってくるからね。
コロコロ表情を変えるのは君の可愛いところだと思っているから、苦になったことはないけれど。
むしろ微笑ましく思っているのだけれど。


「カスミは……サトシが大好きだよなぁ」

「は……え、ええ!? な、何言い出してんの!? 話やっぱ聞いてなかったでしょ! あたしはサトシに対してグチを言ってるのよ!」

「うん」


ケンカするほど仲が良いって、多分サトシとカスミのためにある言葉だと思う。
いつもいつも口げんかして、意地を張って、気づけば仲直り。
いつまでそれを繰り返すのかって、言いたいけどまだ言わない。
それは何故か。
それは、二人が両想いだからだ。
気づいてないのは本人たちだけ、だから楽しくて仕方ない、というわけだ。
どう進展するのか、それは本人たち次第であり、僕は一切何も関わらない。
こうやって話を聞いてあげるだけだ。


「その方が面白そうだしね」

「は……? なに、あたしがサトシを好きなら面白いって言うの!?」

「はははは」

高みの見物。
悪趣味かもしれないけど、その方が面白いんだよね。
ま、話聞いてあげてるわけだから、高みとは違うかもしれないけど。


「だいたい、何であたしがサトシなんか……!」

「ふーん……? じゃ、僕と付き合うかい?」

「何でそうなるのよ!」

「はははは」


カスミの話を聞くのは何故か僕の役目。
それは単に、僕がサトシの相談役にはなれそうにないからだ。
サトシが僕に素直になれるはずないからな。
だから、彼には同情するよ。


「向こうは何を話してるんだろうね」

「知らないわよ」


つーん、なんてそっぽを向く彼女はやはり可愛くて、僕は何度目かの笑い声を響かせた。
その時、サトシと目が合ったのだけれど、ムッとした顔で逸らされてしまった。
代わりにタケシと目が合って、お互いくすりと苦笑い。
大変だな、なんて。


****


それでさ、の後に続くのは決まって彼女の名前。


「あ〜! 腹立つ〜!」

「誰に対して?」

「カスミに決まってんだろ!」


いや〜、それはシゲルに対してだろ。
そう思っても、言ったりはしない。
何たって、サトシはものすごく意地っ張りだ。
俺はサトシより年上だから、頷いてやるのが一番いいだろう。
もしこれが同い年、それもライバルであるシゲルだったら、頷きは余計に腹立たせてしまうのだろう。
俺なら、上手くサトシをなだめることもできるから。
だからサトシの相手をする役目はいつも俺。
そうすると、カスミの相手はシゲルということになるわけだ。


「あっちは楽しそうだな(シゲルだけ)」

「……何だよ、カスミのやつ……。いつもいつも、シゲル、シゲルって……」

「すねるなよ」

「すねてない!」


仕方ないだろう。
シゲルはサトシとカスミと同い年だけど、ずっと大人だ。
女の子の気持ちもわかってやれるしな。


「シゲルは優しいからな。カスミもつい頼っちゃうんだろ」

「何だよ……それ……」


二人がなかなか進展しない理由のひとつとして、やはりシゲルの存在だろう。
カスミは何かとシゲルを頼る。
それは悪いことじゃない。
そのことでサトシが嫉妬しているなど、思ってもいないのだから。
だからシゲルも余計なことは一切言わない。
二人の間に入ってくっつけようだとか、引き離そうだとか、そんなことしようとも思っていない。
カスミの相談を拒まずただ聞いてやるだけで。
面白いから、などと言っていたけれど。


「シゲルは大人だな」

「タケシ……。それ、オレがお子ちゃまだって言いたいわけ?」

「違うって。サトシは俺によく相談しに来るだろう? それと同じで、カスミはシゲルってだけだよ」

「何でよりによってシゲルなんだよ……」


カスミのことで怒っていたくせに、最終的にいつもシゲルへの文句になっている。
そんなシゲルに同情するのも当然だ。
サトシが一層ムッとしたから、何かと思えばシゲルがこちらを見ていたようだ。
目が合って、お互いくすりと苦笑い。
大変だな、なんて。


それで、の後に続くのは、決まって気になるあの子の名前。
それで、それでとグチや文句を言って、最後は必ず困ったように眉尻をさげるのだ。


(それで?)

(うん……どうやって仲直りしたらいい?)



−−−−
サト→←カスの他視点は楽しいです……!
「それでね、サトシのバカが〜」
「それでさ、カスミのヤツが〜」
なんて言ってたら可愛いなあと。
で、シゲルとタケシの「それで?」のあとにしゅんとしちゃったりね……!
仲直りしたいサトカス……!
可愛いなあ!(あれ、私気持ち悪い?)
読んでくださった方、ありがとうございました!

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