興味本位の末



※背後注意な表現が含まれております。



気まぐれに買った雑誌に目を通していたサトシは、ベッドに座るカスミを盗み見た。
彼女もまた、雑誌をめくっている。
ここはサトシの部屋で、二人っきりで、恋人同士。
この状況、普通ならどう思うのだろう。
なんて、今まであまり気にしたことはなかった。
カスミがそばにいるだけで、サトシは十分幸せで、満足だったからだ。
その先がどうのだの、考えなかったわけではないが、必ずしも必要とは感じなかった。


「なあ、カスミ」

「ん? なに?」

「その雑誌、おもしろい?」

「ええ、まあ。サトシにはつまらないかもしれないけど」


カスミが読んでいるのは、今人気のファッション雑誌。
何がおもしろいのかは理解できないが、カスミはその雑誌を鼻唄混じりに読んでいる。
機嫌もよく、彼女もこの状況に不満など感じていないということだろう。
彼氏の部屋に二人っきりのこの状況を。
カスミが何かを求めているようにも見えない。


「これがウソばかりなのか、オレたちがお子ちゃまなのか……」

「何が?」


サトシは自分が読んでいた雑誌を放り投げ、カスミの隣に座った。
キシッ……とスプリングが小さく跳ねる。
不思議そうに首を傾げるカスミに、触れるだけの軽いキスをすると、その頬はほんのりと赤らんだ。


「な、なに? どうしたの、急に……」

「ん〜……ちょっと、な。カスミ、嫌だったら、ちゃんと言えよな?」

「え、何のはなし……」


言い終わる前に唇を塞いだ。
触れるだけの、可愛らしいもの。
キスとはそういうもので、それ以上もそれ以下もなかった。
今までは。
サトシはするりとカスミの腰に腕を回し引き寄せた。
その行為に驚いたのか、カスミが小さく声をもらす。
その瞬間、サトシはカスミの口内に舌をねじ込むように侵入させた。
ビクリと肩が揺れたが、サトシは怖がらせないよう優しくカスミの体を包み込むだけで、舌の動きは続けたまま。
やり方なんて知らない。
ただ、逃げるものを追うだけだ。


「……んぅっ、」


苦しそうな声がもれ、サトシはやっとカスミを解放した。
苦しげに小さく咳をするカスミの頬を撫で、ゆっくりと上に向ける。
潤んだ瞳とかちあい、ドキリと心臓が跳ねた。


「サトシ……? どう、したの……? こんな……急に…………」


まだ呼吸が整わないのだろう。
苦しそうに表情を歪めているというのに、サトシの中に沸き上がる感情は、彼女に対して容赦のないようなものに思えた。


「あぁ……これが扇情的ってやつ……?」

「え……?」


理性とは、この事なのかもしれない。
人間もやはり動物ということなのだろう。
知識はなくとも、本能が知っている。


「嫌なら、ちゃんと抵抗しろよ?」


戸惑う彼女に念を押した。
突然のことで、頭もついていっていないはず。
それで嫌なら抵抗しろなど、少し意地が悪いだろうか。
けれど、カスミを傷つけたいわけではないから。


「好きだぜ、カスミ……」


耳元でそっと囁いて、そのままベッドに押し倒した。
スプリングが一層強く跳ねる。
ここでやっと状況を理解したのか、カスミの顔はどんどん赤みを増していた。
だがそれは抵抗の意思表示ではない。
サトシはなるべく不安にさせないよう優しく微笑み、唇を重ね合わせた。
受け入れてくれたのか、カスミの口がほんの少し開かれる。
すんなり入った舌に遠慮がちに絡んでくるのは彼女のもの。
角度を変え何度も繰り返す行為にお互いの熱が溶け合っていくようだった。
先ほどよりも長いキスに意識を持っていかれそうになりながら、深く深く口づけあう。
新鮮な空気を吸うため名残惜しむように離れると、夢中になって絡めあっていた舌から行為の象徴のような銀糸が二人を繋いでいた。


「…………」


カスミが何か言いたそうだが、先ほどより長く濃厚なキスのせいで息をするのがやっとだ。
言葉がでるはずもない。
カスミより幾分か余裕のあるサトシは、親指で彼女の唇を拭い、まだ熱が残る舌を首筋に這わせた。
ぴくんと跳ねる彼女の身体を全身でやんわりと押さえつけながら、時より吸い付くようにゆっくりと下降させる。
するとカスミの口から今まで聞いたことのない甘く艶やかな声がもれ、一気に熱が全身へと回った。
これはマズイと思いながらも、カスミが拒まないのならいいかとも思えてくる。
だんだんと本能に体を支配され、彼女の頬に当てていた手がするりと柔らかな胸元を撫でた。
形のいいそれを確かめるように転がすと、待って、とカスミはサトシの肩を弱々しく押し返した。


「も、これ以上は…………」


訴えるような瞳に見つめられ、サトシはふと我に返ったような気分になった。
本能に支配されていた体は、今はサトシの意思で動かせる。


「嫌だったか?」

「ちが……! 違うの……! ただ、いきなりなんだもん……。心の準備だってできてない……」


カスミはギュッとサトシの服を掴んだ。
嫌じゃないからと涙声になるカスミが愛しくて、ふわりと抱きしめる。


「ごめんな」

「何で謝るのよ……」

「あぁー……その、だな……。オレ、最初はどんな感じか興味本位でやったから……」

「興味、ほん、い……」

「あ! 違うぞ! 言い方がまずかった」


これではカスミを弄んだようで聞こえが悪い。
彼女のことはもちろん大切に思っているし、これからもそのつもりだ。
ただ、今のような行為を特別求めたことがなかったということ。


「さっきオレが読んでた雑誌にさ、彼女と部屋に二人っきりなら、だいたいは今みたいな事になるって書いてあったんだ」


まるでそれが当然で、普通であるかのように。
ならば、サトシたちは普通ではないのだろうか。
それが、お子ちゃまという事になるのだろうか。


「したくないとは思ってなかったけど、そういう気分にはならなかったっていうか……。今も、どんな感じかとか、カスミの反応がどんなものかとか、そっちの方に頭がいってた」


恋人になったからといって、何か変わったことがあったわけではなかった。
昔からの付き合いのせいか、一緒にいることが当たり前になりすぎたのかもしれない。
だから特別何か求めることがなかった。


「でも、今のでよくわかった。体は正直だってな。だんだんと夢中になってたし」


ニッと笑うと、落ち着いていた熱を取り戻すようにカスミは再び頬に朱を散らせた。
一度知ってしまった快感は、もう拭うことはできない。
これも男の悲しい性だろうか。


「だからもう、求めずにはいられないと思う」

「……うん、サトシが望むなら……その、いいから……ね?」


口ごもるカスミが可愛くて、サトシは抱きしめる腕に力をこめた。
今がそうだったように、望めばカスミは受け入れてくれるのだろう。


「いいのか? 二人っきりになるたび、よこしまな事考えてるかもしれないぜ?」

「嫌なら抵抗していいんでしょ?」

「止めてやれないかも」

「あたしを傷つけるなんてこと、サトシはしないわ」


キッパリと言われ、サトシは吹き出してしまった。
それはもちろん、誰よりも大切にするつもりではいるけれど。


「カスミがそばにいてくれるだけで満たされる幸せは変わんないよ」


十分、満足はしているのだ。
それでも求めてしまうのは、なぜなのだろう。
そう思うと、知らない方がよかったような気がするが、きっとこれも大事なことだと思った。
愛しさがどんどん募って募って、どうしようもない想いを、こうして形にしているのかもしれない、と。
途方もないな。サトシは笑って、そんな愛しくて堪らない彼女に触れるだけの優しいキスを落とした。



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注意書きで期待した方、すみません。
してねーしって方、予想を裏切らずすみません。
エロ、グロといった裏表現は書けませんです。これが精一杯かな。
というか、これはどの程度なんだろう……。
一応キス以上なんで注意書きはしましたが……。
こんなんではありますが、読んでくださった方、ありがとうございました!

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