恋模様



「毎日予習復習していれば、そう慌てることもないよ」


それはわかっていても、一体クラスで何人がそんな事を毎日やっているというのか。
大多数は1週間前から机に向かい、中には一夜漬けの者もいるだろう。
サトシがそのタイプだった。
学生ならば必ず通る関門、テスト。


「関門って、大げさだなぁ……」

「オレはシゲルみたいに頭よくないんだよ」

「だから、毎日やってれば特別テスト勉強なんてする必要ないんだよ?」

「学校で毎日やってるのに、何で家に帰ってからもしなきゃいけないんだ」


シゲルのように頭がよければ勉強も楽しいだろう。
だが、サトシにとっては眠くなるだけで楽しいことなど何もないのだ。
唯一の楽しみといえば、体育くらいだろう。
優秀なのも体育だけだし。


「まったく、僕みたいな幼なじみをもったこと、感謝してほしいよ」

「してるしてる! すげぇしてる! いつも助かってるからな」


テスト前は毎回シゲルのお世話になっている。
彼がテストの予想問題を出してくれたり、サトシでもわかるよう噛み砕いて教えてくれたり。
おかげで赤点になったことはないのだ。
本当、シゲル様々だ。


「調子のいいやつ……っと、だいぶ空が暗くなってきたな」

「だな。アイツ、何やってんだ?」

「別に先に帰ってくれても構わないよ、サ〜トシ君」

「ふざけんな! 二人っきりになんてさせてたまるか」


校門の前で睨みあう二人を、遅くまで残っていた生徒たちが奇異な目で見ながら通り過ぎていく。
サトシにとってシゲルは大切な幼なじみであり親友でもある一方、同じ女の子を好きになった恋敵でもある。
お互いそれを知っていて、知らぬは本人ばかりとよく言ったものだ。



「サトシー! シゲルー!」


鈴を転がしたようなソプラノ声に、ドキリとサトシの心臓が跳ねる。
短めのオレンジ髪を靡かせながら、パタパタと駆け寄ってくる様はとても愛らしい。


「ごめんね、二人とも。だいぶ待たせちゃった?」

「大丈夫だよ。じゃ、帰ろうか」

「まったく。あんま待たせてばかりだと置いてくからな、カスミ」

「何よサトシ、だったらアンタだけ先に帰ればいいじゃない!」


対称的なサトシとシゲルは、好きな子への接し方も違った。
シゲルのように優しければ、女の子も嬉しいだろう。
だが、カスミの場合は少しくらい突っかかっていった方がいいのだ。
彼女は勝ち気な性格ゆえ、いつもサトシの言葉に敏感に反応するからだ。
その証拠に、優しいシゲルよりもオレに構ってくるからな。
サトシは満足気にシゲルに笑みを向けた。


「ほら、じゃれあってないで、帰るよ」

「そうね、サトシなんか相手してる場合じゃないわ」

「なんか、って何だよ」


けれど、シゲルは悔しがる素振りは一切見せない。
余裕、だろうか。


「あ、そうだ。ねぇシゲル、わからない問題があるんだけど……」

「うん、夕飯の後にでも教えてあげるよ」

「ホント? ありがとう、シゲル」


さっきまで図書室で勉強していたというのに、まだ勉強の話とは二人とも頭の中はどうなっているのだろうか。
というか、夕飯の後とかさりげに約束つけるあたりが何ともシゲルらしい。
いくら家がお隣だからって……。


「オレもその勉強会、行くからな!」


オレだってお隣だ!
そうシゲルを睨めば、やれやれと呆れられた。
なんてムカつく態度だろうか。


「そういえばカスミ、用事って何だったんだい?」

「何言ってんだ、シゲル。水泳部のことで先生と話があったんだろ。な、カスミ?」


勉強を終え下校しようと図書室を出た時、カスミはそう言って、先に帰ってていいと二人を促した。
だが、暗い道を一人で歩かせるわけにいかない。
だから校門で待ってる。そう言うつもりが、先にシゲルに言われてしまった。
ムッと眉を寄せながらも、カスミの背中を見送ったのだ。


「君はもう少し女の子の変化ってものに気づくべきだよ」


どういう意味だコラ、と出かけた言葉はカスミの驚いたような表情のせいで喉の奥へと引っ込んでしまった。
ほんのりと頬も赤い気がする。


「え、何?」

「サトシ……。勉強はできなくても、毎日一緒にいるカスミの事は理解できるだろう? その周りのこともね」


意味深なシゲルの言葉に、サトシは首を捻った。
もちろんカスミの事は理解しているつもりだ。
だが、その周りとはどういう事か。


「シゲル……なんで、わかったの?」


顔を赤らめモジモジしている様は、いつものカスミからは想像できなくて。
思わずドキッとしてしまった自分が恨めしく思う。


「せっかく水泳部のことでって、誤魔化したのに……」

「な、何だよ。何の話だ?」

「鈍いね。カスミ、告白されたんだろう?」

「こ、告白!?」

「サトシ、うるさい」


大げさに耳を塞いでみせるシゲルに、サトシはなぜそんなに冷静なのかと問いたかった。
青春真っ只中の学生だ、そういう話もあるだろう。
現に、サトシもシゲルもそうなのだから。
ただ、カスミが告白されたなど、サトシにとってもシゲルにとっても大問題ではないか。


「隣のクラスのやつかい?」

「う、うん……」

「やっぱりね。彼がカスミを好きだってかなり噂になってたし、近々告白するっていうのも聞いていたからね」


図書室を出る時のカスミの態度でわかったよ。
シゲルはさも平然と言った。


「オレ、知らない……」

「サトシは噂とか興味ないからだろ?」


隣のクラスの誰だ。
そして、カスミはなんて返事をしたのだろうか。


「断った、んだろうな……?」

「うん……。あまりよく知らない人だったし……」


断った、という事実にホッと胸を撫で下ろした。
噂には興味はないが、カスミを好きなやつは自分たち以外にもいるだろうとは思っていた。
だが、カスミは常にサトシとシゲルと共に行動している。
告白はされないだろうとどこか安心していたが、どうやら甘いようだ。
これからは少し噂にも耳を傾けよう。カスミ限定の話題で。
サトシは心の中で誓った。


「っていうか、告白されるってわかってんなら、わざわざ行く必要ないじゃんか。どうせ断るならさ」

「バカ、サトシ。それは相手に失礼よ」

「結局傷つけるなら、同じだろ!」

「同じじゃないでしょ!」


本当はわかってる。
カスミならきちんと話をつけるだろう事は。
けれど、面白くないのだ。
シゲルだげでやきもきとしているのに、他の男でなど。
いっそのこと、カスミには手を出すなと全校生徒に触れ回るべきだろうか。


「お子ちゃまだね、サトシは」

「シゲル、うるさい」

「もしかしてサトシ……ヤキモチ?」

「ばっ……!」


ああ、そうだよ! そうですよ!
と、言えたらどれだけいいか。


「カスミを好きになる物好きなんていたのかって驚いただけだ! 寧ろその相手が可哀想に思うぜ!」

「何ですって!?」


素直になれないのは性格ゆえ仕方がない。
けれど、カスミとこんな風にケンカできるのはオレだけだと、優越感はあるから。
まあ、いいかな。



「僕は妬いたよ、カスミが誰かに告白されただなんて」



やっぱり、一番の注意人物は自分の近くのやつのようだ。
面白くなくて、ぽっと赤くなったカスミの頬を思いっきりつねってやった。



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書きたい場面があって書き始めた学パロ。
そこに至るまでが長くなってしまったので省いた、とか……。
悔しいので、続編か番外編か……とにかく同じ設定でまた書きたいと思います!
学生といえば甘酸っぱい青春。そんな雰囲気を出したいなぁ。
お付き合いくださり、ありがとうございました!

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