運命の神様に抗議文を叩きつけろ!
※シンジのキャラが微妙に違うので注意!
偶然は起こるもので、それは必然だという人もいる。
もし、これが偶然ではなく必然だというのなら、一体どんな意味があるだろうか。
「あら? あれってシンジじゃない? って……え、ウソ! シンジが女の子といるー!」
きゃぁ、なんてヒカリが嬉々と叫んだ。
何がそんなに楽しいのだろうか。
「シンジが?」
確かに、あのシンジが、という驚きはする。
ヒカリが指を差す方にタケシが向いて、それに続くようにサトシも目を向けた。
そこには仏頂面のシンジと、女の子。
話しているせいか、こちらには気づいていない。
というか、あの女の子の後ろ姿……
「シンジー!」
認識する前に、ヒカリが大声で彼の名を呼んだ。
目をキラキラと輝かせ、ウズウズと体を揺すっている。
タケシはというと、眉尻を上げ見定めるような目でシンジと女の子を見ていた。
何となく、サトシはそれで確信したような気がした。
「またお前らか」
ヒカリの後を追うように駆け寄れば、シンジがうんざりしたように眉間に皺を寄せる。
そこではじめて、女の子が振り向き顔を合わせた。
ヒカリは相変わらず目をキラキラさせ、タケシは驚いたようにのけ反った。
サトシはというと。
―ああ、やっぱりな。
オレンジの髪を靡かせる女の子なんて、彼女しか浮かばないのだから。
カスミ、そう小さく呟いた。
「サトシにタケシじゃない! わ、ピカチュウも!」
「ピカチュピ!」
「え、サトシとタケシの知り合い?」
「あ、ああ。前に話しただろ? ハナダのジムリーダーで以前俺たちと旅をしていたカスミだ」
ええ、うそ偶然!
ヒカリがカスミの手を取り、ブンブンと音が鳴るほど強く振った。
女の子同士、ちゃっかり自己紹介をはじめている。
サトシはまるで他人事のようにその光景を見ていた。
ヒカリは偶然と言っていたけれど。
もし偶然ではなく必然だとしたら、運命の神様はどうしてこんな出会いにしたのだろうか。
呆然としているサトシに気づいたカスミが、不思議そうに首を横に傾げた。
「サトシ?」
「ああ、うん、久しぶりだな」
「ホントにね。会えるなんて思わなかったわ」
「連絡してくれればよかったのに」
「あまり長居するつもりなくて……。でも偶然シンジに会ったわけだし、一泊くらいはしようかななんて」
ちょっと待て。
サトシはカスミに向かって手を突き出した。
まず再開を喜んだはいいが、他のことはまだ混乱中だ。
何でシンジと、何で知り合いなのか、何で仲良さげで、何でシンジと一泊?
「シンジと一泊ってのはちょっと違うんじゃないか?」
タケシが呆れたように言う。
声に出したつもりはなかったが、ブツブツと呟いていたらしい。
ヒカリが面白そうに、カスミはキョトンとしていた。
シンジは……今は見ることはできなさそうだ。
「で、何で?」
サトシの代わりにヒカリが尋ねる。
興奮気味なのか、鼻息が少し荒い。何か期待しているのだろう。
そんなヒカリの態度が、サトシの不安を煽るようで気が気じゃなかった。
「えっと、シンジとはカントーで会ったの」
「カントーで?」
「俺は以前カントーを旅していたからな」
今まで黙っていたシンジが口を挟んだ。
という事は、シンジとカスミはだいぶ前に会っていたという事だ。
そんな話、聞いたこともなかった。
シンジもカスミも、サトシたちと知り合いだなんて思わなかったからだろう。
例え知っていても、シンジは話さなかったかもしれないが。
「それでバトルしたり色々話したりして仲良くなったってわけ」
「なかよく……?」
タケシがすっとシンジに視線を移した。
すると、シンジは珍しく慌てたように一歩後ずさった。
仲良く、と言われ何も言い返さないとは。
それは否定する必要がないからなのだろうか。
「シンジ……ちょっと」
サトシがちょいちょいと手招きをした。
その目は据わっている。
シンジは口をひきつらせ、ゆっくりとサトシのもとへ歩み寄った。
「……なんだ」
「シンジ……。カスミはダメだ。絶対、ダメ!」
「…………」
「何だよその沈黙は! ダメっつったらダメなんだよ!」
「いや……別に俺は……」
「ダメダメ! カスミはオレのもん……になる予定、だからだ!」
バトルの話ではなかったのか。
シンジが呆れたようにため息をついた。
バトルはどっちが勝ったのか、ジムバッチを賭けてのものだったのか、サトシならそう訊くはずだ。
だが今のサトシはそれどころではない。
シンジとカスミの仲を疑うあまり、冷静な判断力も失っている。
「カスミとは本当に偶然会っただけだ。お前が思うようなことは何も……」
「カスミ!? 今、カスミって言ったか!?」
「何なんだお前は!」
シンジがカスミの名を呼んだことに戸惑いを隠せないようだ。
サトシは両手を頭に当て項垂れてしまった。
「…………」
くるりと、シンジはサトシに背中を向けた。
付き合いきれない。
そう言い残し早足でカスミたちのもとへ戻ると、
「行くぞ」
少々乱暴にカスミの腕を引き、その場を離れようとした。
これにはサトシも口をあんぐり開け、思わず見送ってしまいそうになる。
「きゃー! 逃避行ならぬ、愛避行!?」
「ラヴ避行!?」
「ヒカリもタケシも何言ってんだ! 追うぞ!」
面白そうに目を輝かせる二人の首根っこを掴み、サトシは急いでシンジとカスミの後を追った。
すでにパンクしそうな脳内を懸命に働かせ、状況を整理しようとする。
シンジとカスミは知り合いで、それなりに仲も良いらしい。
シンオウで偶然再会し、偶然サトシたちも居合わせた。
そして、今シンジはカスミを連れてさっさとどこかに向かってしまった、と。
「だあ〜!! わけわかんねー!!」
「うるさい!」
ゴン、と鈍い衝撃が頭に振ってきた。
いつの間にか追いついていたらしく、カスミが眉を吊り上げ拳を握り立っている。
懐かしい感覚に涙が出そうになった。痛いから、というのもあるが。
「お前、少し……いや、かなり気色が悪いぞ」
心底嫌そうにシンジが顔をしかめた。
しかし、サトシにとっては二人の仲の方が気になるわけで。
「どこ、行くつもりなんだよ……」
「バトルしに決まってるだろう。お前たちが来る前からそういう話だったんだ」
「何だ、愛避行じゃないのか〜」
「ヒカリ、お前はちょっと黙ってろ」
サトシがヒカリを軽く睨むように振り返ると、ヒカリは何かに気づいたように小さな声をあげた。
タケシもそれに続くように、あ、と短い音をもらす。
何だ、そうサトシが問う前に、カスミの叫び声が木霊した。
「いやー! 虫ぃぃぃ!!」
あろうことか、カスミはシンジに抱きついてしまった。
きゃーきゃーわーわー、意地でも離さないというように、しっかりシンジの腕に抱きついている。
「お、おい……」
「ぎゃー! 来ないでバカバカ! バカサトシ〜!!」
サトシが近づこうとすればするほど、カスミとシンジの距離も縮まっていく。
これにはサトシも顔面蒼白だ。
だいたい、どこに虫ポケモンがいるというのか。
そこでふと、足元に目を落とした。
「……ピ?」
ピカチュウが不思議そうにこちらを見上げている。
あれ? サトシは首を傾げた。
ピカチュウはずっとそこに居たのだろうか。
それなら、この肩の重みはなんなのか。
視界に入れれば、当たり前だが黄色い相棒ではなく、何やら赤くてもそもそした……
「ケムッソ?」
「なつかれたな、サトシ」
タケシが微笑ましげに言う。
ハルカとマサトと旅をしていた頃はよく見かけたが、ずいぶん懐かしい気がした。
ハルカのケムッソはわりと早く進化したもんな。
ふわり、その頃の記憶が頭を巡り頬が緩む。
「……って! 和んでる場合じゃねーだろ!」
自分につっこみ、慌ててケムッソを肩から離した。
何? と言いたげな目はとても可愛らしいのだが、シンジとカスミの距離が縮んだことを思うと何だか憎い。
この時シンジは、呆れたような、疲れたような、とにかく遠い目をしていたのだけど。
いっぱいいっぱいのサトシには、勝ち誇ったような顔をしているようにしか見えなかった。
カスミがしっかりと絡めている腕を見せつけるかのように。
「……は、ははっ……」
「サトシ……?」
「ついに壊れたか?」
「ピカ?」
仲間たちの声も最早聞こえていない。
何かを感じとったらしいカスミが、するりとシンジから距離を置く。
何だ? そうシンジが眉を潜めた刹那、
「ほうらケムッソ! あの目付きの悪いお兄ちゃんは実は超優しいんだ、ぜ!」
びたーん。
シンジの顔にケムッソがはりついた。
ポケモンを投げるなど、サトシらしくない扱い方だが、当のケムッソは気にしていないらしい。
というより、寧ろ喜んでいる。
「……そこはオレのポジションだ」
サトシの呟きは、シンジー! と叫ぶタケシとヒカリの声でかき消されてしまった。
ピカチュウが恐る恐るサトシを見上げる。
「ピカピ……?」
「神様って意地悪だよな、ピカチュウ。偶然ケムッソが落ちてくるならシンジの肩にしてくれればいいのに」
その後何だかんだで、結局カスミは固まったまま倒れたシンジを心配して駆け寄って行ってしまった。
モヤモヤとした気持ちはまだまだ続くらしい。
(自業自得だぞ、サトシ)
(為るべくしてなった、必然かもね)
(偶然だ!)
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何か……すみません……。
サトシとシンジの温度差がありすぎて、いっそギャグにしてしまえ!
と思ったのですが……シンジのキャラを崩すって何!? な感じに陥り、結果中途半端なものが出来上がってしまいました。
それにしても私は虫ポケネタを使いすぎな気がする。
ケムッソが可愛い。ハルカのもムサシのも可愛かった……!
長々とお付き合いくださり、ありがとうございました!