one way
旅の途中で出会った少女は、生まれたばかりだというポケモンを大事そうに抱えていた。
少女は育て屋の娘で、その子を立派に成長させると張り切っていた。
その育て屋で少しお世話になって、毎度のようにロケット団が来て撃退して。
お礼を言って旅立ってから少し。
「また空を眺めてるね」
ヒカリが呟くように言った。
視線の先には何となく元気がないように見えるピカチュウ。
彼の相棒のサトシは、その背中をじっと見つめるだけで何も言おうとしない。
最近のピカチュウはずっとあんな感じなのに。
それが不思議でヒカリは首を傾げた。
「ねえ、いいの?」
「ああ……。あれは多分、会いたいのかもしれない」
「会いたいって?」
「トゲピーに」
ほんの少し寂しそうな目をするサトシに、ヒカリは眉を寄せた。
この間の育て屋の少女を思い出す。
彼女が抱えていたのはトゲピーだった。
確かにピカチュウはトゲピーによく構っていて、トゲピーもピカチュウにとてもなついていた。
兄貴肌のピカチュウだけれど、トゲピーに対しては他の子と違う接し方だったような気がする。
ヒカリがあれこれ考えていると、サトシは考えを読んだように笑った。
「あのトゲピーじゃないよ」
「……じゃあ、どのトゲピー?」
本当は少しだけ見当がついている。
だけど、詳しく知っているわけではないし、色々と聞けるチャンスだと思ったからヒカリはサトシの言葉を待った。
興味が先に立っているせいで、隣で狼狽えているミミロルには気づいてあげられなかった。
「前も話したことあったと思うけど、カスミがトゲピー持ってて、ピカチュウがよく面倒見てたんだ」
純粋無垢で好奇心旺盛なトゲピーだったため、意図せず周りを振り回すことがあった。
そのためどこかへ行ってしまったり、危険に巻き込まれたり。
そんなトゲピーに何かあればすぐに駆けつけ守っていたのがピカチュウだ。
トゲピーもピカチュウを兄のように慕い、頼りにしていて本当の兄弟のようだった。
「えっと、今はトゲチックに進化して、異世界、だっけ? を守ってるのよね?」
「うん……。立派になったよ、すごくな……」
「そっか……。嬉しいけど寂しい、って感じなのかしら」
そうなのかな。サトシは空を見上げ呟いた。
「ピカピ」
「お、もういいのか? ピカチュウ」
トテトテと近寄ってきたピカチュウの頭をサトシが優しく撫でる。
いつもと変わらない様子に、ヒカリもほっと胸を撫で下ろした。
元気がないわけではないようで、本当に良かった。
「……ねえ、ピカチュウ。トゲピー……トゲチックに会いたい?」
ヒカリが優しく問うと、ピカチュウは笑いながら大きく頷いた。
「大好きだったのね」
「ピッカ」
「……あ、おい、あれ。見てみろよ!」
突然大きな声で叫ぶサトシを睨むように見れば、彼は嬉しそうに空を指さしていた。その先を追うように見上げると、
「ピピピー!」
偶然にも、トゲピーのような形をした雲。けれど、風のせいですぐにその形は変わってしまった。
残念ね。ヒカリはピカチュウに目を向けたが、ピカチュウはまだ目を輝かせたまま雲を見つめている。
きっと、彼にはまだ見えているのだろう。
「……あら、ミミロル……?」
しゅんと頭を下げているミミロルが視界に入り、ヒカリはしまったと内心焦った。
こんなに近くにいたのに、どうして気づいてあげられなかったのか。
ピカチュウのそれは、ミミロルが彼に抱いているものとは違う。
それはミミロルもわかっているのだろう。
それでも。
「ごめんね……?」
ミミロルはゆっくりと首を横に振った。
どんな感情であれ、今のピカチュウの心にいるのはトゲピーだ。
トレーナーならまだしも、遠く離れたトゲピーを強く想っている。
それは、恋する乙女には少し辛い。
「トゲチックのやつ、元気でやってるといいな、ピカチュウ」
「ピィッカ!」
な、ヒカリ?
無邪気に笑うサトシに、ヒカリはぎこちなく笑い返した。
「これって一方通行って言うのかしら……」
「何が?」
「ピ?」
ほんの少しの腹立たしさ。
けれど、きょとんとする顔は憎めない。
男の子ってどうしようもないわ。
ヒカリがミミロルの頭を撫でると、ミミロルは苦笑しながら頷いた。
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ピカトゲが可愛い。
トゲピーって♂、でしたよね……?弟分ってどっかであったような……。
もう♀でもいいと思います。可愛すぎる。
初めて書いた片恋がミミロルとかごめんなさい。
最後までお付きあいくださりありがとうございました!