グラフにしたら



どんなことにも不調というものがある。
何をやってもうまくいかない。
勿論逆も然りで、今まさに好調だったはずだった。


「その舌打ち、何度目?」


目の前の女はため息混じりに呟いた。
ずいぶん勝ち気な口やかましいやつ。それが第一印象。
好調だったはずが、こんな女にあっさりと負けてしまったのだ。
こんな女に。


「バトルに男も女も関係ないでしょ?」


バトルに負けたことも、考えを読まれたことも、何もかもが気にくわない。
舌打ちが多くなるのも当然だ。


「……オイ」

「なに?」

「お前、水ポケ使いか?」

「ええ、そうよ」


こんな女に。
そう思ったが、バトルを冷静に解析してみれば、かなりの実力の持ち主だということがわかる。
それも、彼女の使う水タイプのポケモンには有効であるはずの電気や草といったタイプの対策もぬかりないように思える。


「ねぇ、あなた名前は?」

「……聞いてどうする」

「変なこと言うのね。バトルが終わればみんな友達じゃない」


ぴくりと、眉がはねあがった。
どこかで聞いたようなセリフだ。
どうしたらそのような考え方になるのか。
まったくもって理解不能だ。
何度目かもわからなくなった舌打ちをし、キッと睨み付けた。
だが、にこりと笑い返され、不覚にも毒気が抜かれてしまった気分になった。
……調子が狂う。


「……シンジ、だ」

「そう。あたしはカスミ。これでもカントー、ハナダのジムリーダーよ」

「ジムリーダー?」


なるほど。だからか。
歳もそう違わないが、ジムリーダーならあの強さも納得できる。
いや、あの強さだからジムリーダーになれたのだ。
歳もそう違わないというのに。


「オイ」

「なに?」

「もう一度バトルを申し込む」

「ええ、受けて立つわ。でも……」


ニコニコと笑いながら近寄ってくる。
なぜかこの笑顔には逆らえない気がして、苛立ちは増すばかり。
拒まない自分は何なのか。
……拒めないのか?

なぜ。


「その前にポケモンセンター、行きましょ?」

「……お前とか?」

「だって、バトルするんでしょう?」


さも当然のように言う。
誰かと一緒、なんて煩わしくて嫌ではあるが。


「フン、まあいいだろ」


ほんの少しの興味だ。
それは、彼女のトレーナーとしての能力を自分が認めたからなのかはわからないが。
気まぐれを起こしたと思えばいい。
……そう自分に言い聞かせるしかなかった。

こんなの、俺らしくないとわかっているから。


「でも良かった」

「何がだ」

「この先行くのに、この森抜けなきゃいけないから」

「……それが何だ」

「……あたし、虫が苦手なのよ……」


さも嫌そうに。
ということは、暗に盾になってくれと言っているのだろう。
虫が苦手、とはまた随分面倒な。
何だかんだ言っても、やはり女だ。
こんな女無視してさっさと行ってしまうべきだっただろうか。


「さあ行くわよ、シンジ」

「……チッ」

「あー、また舌打ちした」

「うるさい。とっとと歩け」


何でこんな女。

そう思うなら、なぜ一緒に歩いているのか。
バトルをするため、だ。

何度同じことを繰り返しただろう。
だが、最初に感じていた苛立ちはだいぶ丸くなり、それが逆に腹立たしくもある。


「ちょっとシンジ、一人でどんどん先に行かないでよ」

「……とっとと歩けと言っただろ」

「……もう」


まあいい。
もう一度バトルをすれば、こんな気持ちはどこかへ行くはずだ。



(気持ちの折れ線グラフは安定期)



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シンカスか、シン+カスか……。
この二人はカップリングというか、友達みたいな関係を希望。
その前に接点ないですけど……。
というかシンジの性格もよくわかってないんですけどね!
読んでくださった方、ありがとうございました!

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