「よぉ」

小さなビニール袋を見せながら、ひらりと片手を振ると、パジャマ姿の彼女はきょとんとした表情で小首を傾げた。


「どうしたんですか、銀さん。こんな時間に」
「ああ、うん……寝てた?起こしたなら悪かったよ」
「今から寝るところでした」
「そ、そう?それなら……よくはねーけど……あ、パジャマ珍しいな。ズボンとか新鮮」
「はあ……神楽ちゃんとおそろいで買ったものですよ。泊まりに来るときは一緒に着て寝てますから」
「そういや神楽がはしゃいでたな……」
「……新ちゃんと神楽ちゃんならもう寝てますよ?」
「え?ああ、あいつらに用があったわけじゃ……」
「じゃあ、こんな夜中に何しに来たんですか」

玄関の戸を両手で掴むようにして身体を隠す妙は、どこか落ち着かない様子の銀時を睨むように見つめた。
銀時は目を泳がせ、居心地悪そうに指で頬を掻く。

「……お前に用事……と言えば用事っつーか……」
「……はっきりしないですね。とりあえずここは冷えますから、中に入ってください」

銀時はぎこちなく頷いた。
家に入りブーツを脱ぎ軋む廊下を進む。
前を歩く妙の髪からシャンプーの香りがして、思わず視線を横に外した。
こんな時に限って、見慣れないパジャマ姿だなんて。と、口をつきそうになって慌てて喉元で止めた。


「それで、私に何の用事なんです?」

いつも食事や雑談をする居間で向かい合わせに座り、妙は少し迷惑そうに銀時に尋ねた。
銀時は少しだけ言葉を詰まらせると、言いづらそうに口を開く。

「……誕生日」
「え?」
「誕生日、おめでとう」
「……私ですか?」
「そーだよ」
「はあ……まあ、ありがとうございます。もう何日も過ぎてますけど」

ぐう、と銀時は唸った。
妙の誕生日は十月三十一日。今は十一月。それも後半。おめでとうと言うには、身内に近い銀時と妙の距離感では遅いだろう。
けれど仕方なかった。
銀時はケガをしていて、つい最近まで入院していたのだ。
妙はお見舞いに来てくれていて、会わなかったわけではない。病室で新八と神楽がケーキやプレゼントの話もしていた。おめでとうを言える状況ではあった。けれど、ケガをした状況でプレゼントもケーキも用意できず、新八と神楽が誕生日パーティーとはしゃいでいるせいもあって、病院から動けない銀時は口を挟むことができなかった。
そのことで、妙が怒ることはない。プレゼントが欲しいと言われることもない。
期待してないからだろう。

「……銀さん、気にしてたんですか?」
「気にしてたというか……言おうとしてたのに言えてないって気持ち悪いだろ?」
「気にしてたんですね」
「気にしてはない」
「まったく……わざわざこんな夜中にやって来る方が迷惑だと思いません?」

そりゃそうだ。
そうだけど。

「今さら照れくさいってわかれよ」
「わかってますよ」

妙は笑った。パジャマのせいか、いつもより幼く、というより年相応に見えた。誕生日を迎えても、まだ彼女は未成年。
自分が老け込んだ気がして、銀時はこっそりため息をついた。

「それで?もしかして、そのビニール袋は誕生日プレゼントですか?」
「……まあ。入院費のせいで金なくてな。こんなもんしか買えなかった」

差し出すと、妙は嬉しそうに受け取った。そんな顔をさせるようなものではないのに。

「あら、アイス」
「ダッツは無理だった」
「それでモナカ?あずき入りだなんて、銀さんの好みじゃない」
「…………そういや、そうだな」
「無意識だったの?」

よく考えれば、朝晩は真冬のように寒かったりする時期だ。そんな時にアイスはいかがなものか。ダッツなら妙も喜んだだろうが、安いモナカのアイスだ。しかもあずき。嫌いではないはずだが、特別妙の好きなものでもない。

「……取り替えてくる」
「ふふっ、いいわよ別に。今日は本当に変ね、銀さん」

妙はおかしそうに言うと、アイスの袋を開けた。普段あまり食べないそれを口に入れ、甘い、と微笑む。

「たまにはいいわね」
「そうか……」
「ありがとうございます。銀さん」
「う、ん……」

当然、祝ってる気はしない。
むしろ、チクチクと胸が痛んで罪悪感が押し寄せてくる。
新八と神楽には盛大に祝ってもらったのだろう。近藤や九兵衛からは豪華なものを貰ったかもしれない。すまいるの同僚や常連客からもたくさん貰ったはず。
銀時も考えていたのだ。お金をかけずとも喜んでもらえるものを。
けれど、タイミング悪く入院して、元々ない金が底をついてしまった。
おめでとうも、プレゼントも、思ったようにはいかない。

「私はあなたに特別を期待したりしないわ」
「結構グサッとくるんだけど。男は見栄張る生き物なんだよ」
「銀さんが見栄張ったところでたかがしれてるわ。私にそれは必要ないでしょう?」
「……デスヨネー。照れ臭いのも隠せないのにな」
「そうですよ。無駄なことです」
「無駄か……」
「で?」
「ん?」
「本当は何か別にあるんじゃないですか?」

女ってのはどうしてこうも鋭いのか。普段は鈍いというのに。男心がわからないくせして、色々と見抜いてくるのだから厄介なことこの上ない。隠しても誤魔化しても通じないだろう。

「誕生日迎えたからって、いきなりの変化なんてないよなぁ……と思って」
「そんなの当たり前じゃないですか」
「お前は普段大人みたいだろ。実際大人ではあるけど、それでもまだ未成年だって誕生日のせいで改めて思い知るんだよ」
「……それが?」
「だから、おっさんの俺がお前をって……だな……色々考えちまうから、早く大人になってほしいわけだ。それなのに、パジャマのせいかいつもよりちょっと幼く見えるから……」
「銀さんが気にしすぎなんだと思うわ」
「そう言うならいつも以上に大人びてみろよ」

ほんの少しだけ口調を強めて言うと、妙は目を丸くさせながら僅かに頬を染めた。
けれど次にはいつものようにニコリと笑う。

「そんなことしたら、銀さんの方が大変なことになるんじゃありません?」
「…………言ったな。俺は構わねェぞ、ひとつ大人になったお妙ちゃんに色んなこと教えてあげられるし?」
「お断りします」
「断んのかよ!」
「私にその気はありませんから」
「てめっ……!」
「ふふっ、いつもの銀さんに戻ったかしら?」
「…………」

銀時は舌打ちすると、アイスで冷たくなった唇を掠め取った。


銀時×妙

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