「はぁ……」

つい、大きなため息をついてしまった。
それも仕事中に。
慌てて手で口元を押さえ周りをキョロキョロ。

「ずいぶんと遠慮のねぇため息だな」

真後ろから声がかかって、しまったと肩を揺らした。
よりにもよって、この人に。仕事に人一倍厳しい先輩だ。きっと怒られるだろう。
そう覚悟していたけど。

「ま、今のは聞かなかったことにしてやるよ」
「え……」
「コイツは奢りだ」

たった今買ってきたばかりなのだろう。あたたかい缶コーヒーを渡されて、思わず目をぱちくりとさせた。
だって、こんなの。

「土方さん!」
「あ?」
「え、あ……その、あ、ありがとうございます……」

お礼を言えば、無言で手をひらひら。
入社した時からずっと、怖い先輩だと思っていたけれど。
案外優しい人、なのだろうか?


「って、思ったんです〜」
「…………で?」
「だからぁ、優しい人なんだな〜って」
「だから、その話が何だってんだ」
「むぅ、わかりませんか?」
「わからんから聞いてんだろ」
「にぶちん!」
「……もう酒やめろお前。酔いすぎだ」

奪われそうになって、イヤ、と同僚の友達に誕生日プレゼントとして貰ったウイスキーを抱きしめる。
強い酒はあまり飲んだことないせいか、確かに酔いが回るのが早いと自覚はしている。一応。

「土方さんが優しいって、その時知ったんですよ?」
「それが?」
「だーかーらー、そのことがなかったら、私は土方さんを好きになることなかったかもしれないってお話でしょう!」
「………………」
「あ、今ちょっと思うことあったでしょう!」
「うるせー、いいから今その腕に抱いてるのよこせ」
「ヤですー」

取り上げられそうになって、さらにきつく抱きしめる。
それでも奪おうとする土方さんから漂ってくる煙草のにおいに目眩がして、思わず力が抜けてしまった。
ぽすん。と抱き止められる。耳が胸板に当たって、心臓の音が聞こえてきた。心地いいリズムを刻んでいる。

「だからやめろって言っただろ」
「むー……ちゃんと自分が何してるかわかってますよ」
「酔っ払いの戯れ言だな」
「ひどい。土方さんだって飲んでたのに、どうしてあなたは酔ってないのよ」
「酔うほど飲んでないからな」
「ずるい」
「俺まで酔ったら誰がお前の面倒みんだよ」

思わず胸が高鳴った。
この人、どれだけ私のことが好きなのかしら。なんて、自惚れたくなる。
酔っ払いなんて、ほっとけばいいのに。
ぎゅっと腰に腕を回して抱きしめれば、優しく抱きしめ返してくれる。
お酒と煙草のにおい。そんなに好きではなかったはずなのに、不思議と落ち着くようになってしまったのは好きという感情のせいだろうか。

「……土方さん」

顔を見ようと上向けば、唇を押し当てられた。

「……まだ飲むか?」
「……やめておきます……」

ドクドクと血が巡っているのを感じた。
頭が冴えてしまった。どうしてくれるの。

「そういや、俺はまだお前に渡してなかったな」
「え?何をですか?」
「何をって……何でお前が忘れてんだよ。プレゼントだろ、誕生日の」
「ああ……そうでしたね……。何をくださるの?」
「俺」
「はい?」

ぐるりと世界が反転して、見下ろす瞳とぶつかる。
らしくないんじゃない?と震える声で言えば、

「特別な日くらいは、特別なことしてもいいと思わねェか?」

と愉快そうに笑う。

「心配すんな。ちゃんとプレゼントは別に用意してあるから」
「い、今くださいよ!もうすぐ私の誕生日過ぎちゃうし……!」
「だからだろ」

額にキスを落とされ、体温がかっと上がった。


土方×妙

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