ふわふわと漂ってきた大人のかおり。
けれど、いつもと違うあまいかおり。

「……誰かと一緒でした?」
「何でそう思う?」
「……香水……あなたが使わないような、あまいの」
「ああ、移ったか」

ひょうひょうとしたその態度が腹立つ。
余裕なのが腹立つ。
怒っている私がバカみたいだ。怒って当然で、間違いではないのに。
まるでこっちがおかしいかのように錯覚する。

「……私はやっぱり、子どもですか」
「何だ急に」
「わかってるくせに」

私とこの人の関係は、恋人、のはず。
高校生の私と、成人した大人な彼。
大人っぽいといわれることが多い私だけど、高校の制服を着た今、彼と並んで歩けば兄妹だろう。
職質を何度も経験してるくらいには、彼は少々危険人物臭が強い。優等生風の見た目の私との釣り合いは推して知るべしだ。

「妙」
「何ですか」
「俺ァ、この臭いがキライでな」
「へえ……そうだったんですか。だからその女の人から逃れるために私を利用したんですね」
「おいおい……何で恋人の迎えに来るのに利用だ何だと考える必要がある」
「私には大人の恋愛はわかりません」

前から不思議だった。
どうして、私とこの人は恋人同士なのだろうかと。
おかしいだろ、と誰かのツッコミが聞こえてきそうなほど不可思議。
高杉さん。
小さな声で呼びかければ、彼は何だと顔をこちらに向ける。
優しいのか、優しくないのか、わからない。

「……好きです……」

それしか、わからない。
恋愛なんて、気持ちを言葉で表すことしかわからない。他の方法なんて知らない。
彼は一度も好きと言ってくれたことはないけれど。

「もっと素直に妬いてくれて構わねーぜ?」
「イヤよ。私はそんなに可愛くなれない」
「それが可愛いとこだろ、お前の」
「からかってるの?」
「本気だろ、どう考えても」

どう考えても、信じられない。
何でこの人は高校生の小娘など相手にしているのだろう。
そういう性癖?

「性癖じゃねーよ」
「あら、声に出てたかしら」

一言。女子高校生を見ると興奮する、と言えばなるほどと納得できるのに。
もしそうなら、この人に惹かれていたかわからないけど。

「ガキだから困ってんだろ」
「ガキって……あなたがいつ困ったのよ」
「いつも困ってるつもりだがなァ……」

手首を掴まれ、とん、と背中が壁に押しつけられる。
ここは外だと言おうとして、驚いた。さっきまで人気がある所を歩いていたのに。いつの間にか人がひとりもいないとこに来ている。どこよ、ここ。

「高杉さ……んっ」

キスされて、あのにおいが強くなった。女の人のにおい。
それが嫌で抵抗するのに、この人は放してくれない。
人気がないとはいえ、誰かが通りかかるかもしれないと思うと気が気でなかった。
何度も角度を変えられ、息も上がり膝が震える。
ようやく解放されたかと思えば、顎のラインから下へと舌が這いぞくりとした。

「高杉さん、ここじゃ……」
「ここじゃなきゃいいのか?」
「そ、そうじゃない、けど……だって……」
「俺は今すぐこの臭い消したいんだよ。お前の匂いで」
「わ、私……?香水なんて、つけてないわよ」
「何もつけなくても、お前はいいにおいするだろ」

すり、と身体を擦り付けられ熱が顔に集まった。
ものすごく恥ずかしい。
でもちょっと嬉しいとか思うあたり、私も相当。

「悪影響だわ」
「あ?」

ぎゅっと、しがみつくように首の後ろに腕を回した。
あまいにおいが消えますように。
呟けば、くすりと笑われた。

「……高杉さん」
「なんだ」
「私、もうすぐ誕生日なの知ってた?」
「自分の彼女の誕生日を知らないような男だと思ってたのかお前」
「プレゼントは香水がいいです」
「お前にはいらねェだろ」
「イヤ。欲しい。高杉さんのと同じの」
「……しょうがねェな」

呆れたように、でも嬉しそうに。
好きと言ってくれたことはないけど。その気持ちは十分わかってしまうから。
抱きしめる力を強める。
あのあまいにおいは、もうどこかに消え失せていた。


高杉×妙

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