少し苛ついていた。
自分が何か関わっているのか、気のせいなのか。
解らないが、あの雰囲気の中にいるのは何となく嫌だった。
苛ついて、扉を乱暴に開ける。冷たい風が吹き抜けた。

「……本当に来た」
「何よそれ、私が来るのわかってたっていうの?」
「別に」

ふいと顔を背けたのは、不良の高杉だ。
今は授業中で、ここは屋上。
広がる青空を見上げながら高杉に近づいた妙は、スッとしゃがむと胸ぐらを掴んだ。
真っ赤なシャツを掴まれる事は想定していなかったようで、高杉は珍しく驚いたような表情を見せた。

「私、あなたを呼んでこいって先生に頼まれたの。何で私が?って感じじゃない?」
「従う必要ねェだろ」
「そうよね。本当にそう。でもね……あれはどう考えても私を追い出したように思えてならないの。ねえ、どうして?」
「…………」

午後の英語の授業は自習だった。担当の先生が急病になったからだ。
代わりに入れる先生もいないようで、空いていた銀八が仕方なさそうに英語のプリントを持ってきた。
自習となればZ組の生徒は好き勝手し放題で、銀八もとくに注意もしない。
だが、妙は真面目にプリントの問題を解いていたのだ。
それなのに、どうして屋上にいる高杉を連れて来いなどと頼まれなければならないのか。
それに、問題を解いている時から感じていた奇妙な視線にひそひそ声。
妙に向けられているものだと確証はないが、そんな気がした。
銀八が高杉を呼んでこいと言った時も、クラスの皆もなぜか賛成していた。
お願い、と言って。

「ねえ、どうしてかしら?」
「……俺が知るわけねーだろ」
「ここに私が来ることは知ってたのに?」
「…………」

高杉はじっと妙の目を見た。
感じた視線に振り向き、サッと逸らされた教室とは違い。
何だかな、と気が抜けてしまった妙は高杉から手を放した。

「今だけはあなたと一緒にいる方が気が休まるみたい」
「…………で、俺を連れていくのか?」
「やめとくわ。私には無理でしたって事で、教室に戻ります」
「そうかい」

高杉はくつりと笑うと、妙の目の前にペットボトルを差し出した。
ロイヤルミルクティー。
似合わないそれを受け取ってしまった妙は、困惑しながら高杉とそれを交互に見る。

「せっかく屋上まで来たんだ。戻るならひと息入れてからでもいいんじゃねェのか」
「……そう……ね……」

蓋を開け、こくんと一口。
のどを通った甘い香りと味に、妙の口からホッと安堵に似たため息がこぼれた。


不良は優しい味わい?冷血硬派高杉くん!

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