艶やかな黒髪も、オレを映す翡翠のような瞳も、強がる所もすべてが愛しくて、たまらない。


「おい、撫子。……おい」

何度呼び掛けても目覚めない幼馴染みに理一郎はため息をついた。
そして諦めたかのようにもう一つため息をついてからブランケットを持ってきて、撫子が起きないようにそっと撫子の身体にかけた。
現在、撫子は理一郎の部屋の理一郎のベッドの上で中途半端な位置でそれはそれはぐっくりと健やかな寝息をたてながら寝ている。
撫子が安心しきった顔で寝ているものだから、理一郎も少し呼んだだけで無理に起こそうとはしなかった。
(最近変な夢を見てる、って言ってたしな。あまり眠れてないのかも知れないな)
そう思ってから撫子はしばらく起きなさそうだと判断した理一郎は撫子を置いて部屋を出た理由でもある紅茶の入ったティーポットとティーカップ二つを持って再び部屋を出た。
いくら部屋の中で風が吹いてこなくても冬に入りかけの季節だ。多分紅茶もすぐに冷めてしまうだろう。
そう思って、撫子が起きてから比較的すぐに紅茶が飲めるようにしてから理一郎が部屋に戻るとまだ撫子は寝ていた。
本当にぐっすりと眠っていて、理一郎的には嬉しい、けど複雑な気分だ。
(危機感ぐらい、持てよな……)
理一郎の部屋の理一郎のベッドでぐっすりと眠る、ということは理一郎を信用しているからだと思うが、理一郎は撫子がそれこそ何年も前からずっと好きなのだ。
だから理一郎的には大変複雑なのである。

「り、いち……ろ…………」

蚊の鳴くような小さい声で呟かれた自分の名前を理一郎は聞き逃さなかった。
起きたのかと思ってベッドの上にいる撫子のすぐ側に腰を下ろして撫子の顔を覗き込むと、目尻から涙が流れていた。
(なんで、泣いてるんだ!?……最近じゃ泣くなんてまったくなかったのに……いや、そういえば一週間前にも泣いたな……)
口元に手を宛てて考えようとした矢先、撫子が再びか細い涙声を発した。

「置いて、か……ない、で……」

置いていかないで。
誰が、誰を置いていくのだろうか。
さっき撫子が呟いた言葉から推測するなら理一郎が撫子を置いていく、という夢でも見てるのかもしれない。
そこまで考えてから、どうしても思ったことを抑えきれなくてつい理一郎は呟いた。

「……馬鹿じゃないのか、お前。オレがお前の事を置いていくわけがないだろ」

そう言ってから理一郎は顔の近くに置かれている撫子の右手をそっと握った。
せめて、涙を流さなくても済むような夢を見て欲しい、と思いながら。

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