空にたなびく雲を眺めて思うことがある。
もし、あの時、円にしがみついて離れなかったらどうなっていたのだろう、と。
考えても仕方のないことだとはわかっている。だけど、つい考えてしまう。
ほんの一週間前まではあの『円』と一緒にいた、のに。と。
もちろんこっちの『円』が嫌いなわけじゃない。
でもあの『円』と同じように思えない自分がいて、今は気付かれないように少しだけ距離をおいてる。
今、私が『円』と彼の名前を呼んでもそれがどっちの『円』のことを呼んでいるのか自分でもわからなくなりそうで、呼べない。
そんなことをするのはあの『円』にも、こっちの『円』にも失礼だとわかって、いるから。
わかっている、はずなのに、すぐに面影を重ねてしまう自分の弱さに嫌気がする。
どっちも犬が嫌いだったり、小物を作るのが上手だったり、央のことが大好きだったり、不器用な優しさを持っていたり、と本質は変わらない、けど、違う。
どっちの『円』も、その世界にただ一人しかいない『円』だ。
でもきっともうしばらくしたらあの『円』を忘れてしまうだろう。
まだ、たった一週間しか経っていないのに、もう顔を思い出すのにも苦労しなければいけなくなってる。
その事がすごく悲しく思えて、自然と瞼の奥から透明な雫が溢れて、コンクリートにぽつぽつと染みを作る。

「まど……、かっ…………」
「……撫子さん?」

嗚咽を漏らさないように背中を丸め、膝を抱えて、それでも漏れ出てしまった彼の名前を同じだけど違う彼が拾った。
驚いて、そのまま後ろを振り返るとやっぱり、円がいた。
円は一瞬だけたじろいたあと、静かに私に近寄ってきた。
そして真横に来てからそっと私の顔に手を伸ばしてきた。
その行動に既視感を感じていると、円の指が私の目元に触れた。

「あ……」

そうだった。自分は泣いていたのだった。
円の登場で驚いてすっかり涙も止まってしまったけど、名残はちゃんと残ってて多分それに円はたじろいたんだろう。

「泣かないで、ください」

言われた言葉が最初は理解できなかった。
でも少しだけ悔しそうで、悲しげな表情をしている円を見て徐々に理解できた。

────あぁ、やっぱり、

『円』は『円』だ。
それを実感したら、再び涙が溢れてきた。

「どうして、泣くんですか」
「あなたの、せい、よ……」
「……やっぱり意味がわかりません」
「いいの。わからなくて」

────あなたは、あなたなのだから。

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