「カケオチしよう」

 一週間ぶりに幼稚園へやってきたかなちゃんが、会って一番にわたしに言った。高いところでふたつに縛ったうち片方の髪を、ぎゅっと掴まれる。握られただけで引っ張りはしないから痛くはないけど、ことばの響きにぴりりとした。

「カケオチ?」
「ええと、仲がよくていっしょにいたいやつが、いっしょにいられなくならないようにするもの…だと思う」

 うう、むずかしい。
 ハテナハテナでしゃべるかなちゃんも、実はよくわかっていないんじゃないかな。
 ほんとう?と聞いてみたかったけど、やめておく。前にも何回かこれでケンカになった。せっかくかなちゃんと遊べるのに、ケンカして怒って泣いてたらつまらないよ。

「どうやるの?」

 黄色の通園ぼうしを自分のロッカーに入れて、よいこのてちょうを箱に入れる。かなちゃんも。
 わたしのがお月さまのシールで、かなちゃんのはお魚さんのシールのやつだ。

「遠くに行くんだって。知らないねーちゃんが言ってた」

 誰もだれも自分たちを知らないところに行くんだって。
 そこでシアワセに暮らすんだって。

「おれ、つきことずっといっしょにいたい。もうあそこに行きたくない」

 かなちゃんが大キライな場所がある。病院だ。たぶん、行きたくないところ。
 わたしも好きじゃない。
 だから行くのは風邪をひいてしまったときか、かなちゃんのお見舞いのときだけ。

 そっか。かなちゃんが病院にいるときは、あんまりいっしょにいられないもんね。
 ただ「がまんしなさい」っておかあさんに言われて、ちょっとしか遊んでなくても帰らなくちゃいけない。
 言うことをきかないわたしに、「かなちゃんもがまんしてるのよ」って怒った。

「…うん、いいよ、かなちゃん。いっしょにカケオチしよう」
「ほんとう?」
「もちろん!」

 大きくうなづいたら、かなちゃんが笑った。
 とっても久しぶりにその顔が見れた気がした。とっても嬉しい。

 さっそく靴をはいて、手を繋いで幼稚園を飛び出す。

 お空はきれいな青色。

 すれ違うように登園してきたすずちゃんに「どこいくんだ」と聞かれた。

「誰も知らないところ!」

 たくさん笑っていられる場所。かなちゃんとわたしで、探しにいくの。

(七海哉太)

青色ラプソディー*リョータイ
〜111104

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