夜。でもまっくらじゃあない。空でお星さまがキラキラしてて、まるで、夜を照らしてわたしたちを待っててくれたみたい。

「つきこ、ほら、見える?」
「うん!きれーだねぇ」

 わたしの手を引いて空を見上げるひつじくんは、もう片方の手に持っている望遠鏡は使わずに、繋いだ手をそのまま天へ伸ばす。わたしの手ごと、たくさんの星の中からひとつひとつを指差して、それらを教えてくれた。

 白くて大きく光るお星さまは、チカチカと合図をする。
 横のひつじくんを見てみたら、きれいな赤い髪と目も同じように――ううん、もっとキラキラしていたから、もしかしてお話ができるのかもしれないと思った。あのお星さまとひつじくんという男の子が、わたしにはわからない国の言葉を使っておしゃべりしているのだ。だからお星さまたちについてたくさん知っているのかも。

「今日はね、きみに見せたかったんだ」
「なにを?」
「ぼくの好きなもの」

 ずいっと望遠鏡を出して、のぞいてみて、とひつじくんは言う。それがひつじくんのとても大切なものだって知っているわたしは、そおっとその筒に指を伸ばした。落としたりしたら大変だもの。

 覗くと、ふしぎ。あんなに遠くにあった光が、近い。すごい。すごい。
 わぁっと声が出てしまったわたしを、ひつじくんは目を細めて笑った。お星さまに近づけて嬉しいわたしよりも、ずっと、ずっと、この世界で一番幸せなのは自分だ、みたいな顔で。
 わたしの片目は丸の向こうを見ていたから、チラリとだけ。だから、ような気がしただけ、かもしれない。

「遠くで見ても、どこから見ても、そこにある星は変わらないんだよ」

 見られる時間とかホウガクは違うけどね。と付け加えたひつじくん。物知りだなぁ。

 すっかり夢中になっていた望遠鏡を返して、お礼を言った。こんなふうにしてお星さまを見たのは初めてだった。ひつじくんはこんな空を見ているのだ。

「ありがとう」
「Qui! こちらこそ、喜んでもらえてうれしいよ」

 最後だから

 意味がよくわからなくて、首をかしげた。ひつじくんは笑うばかりで、――笑うばかり、で?ぽろり、と流れたのは涙に見えたのに。笑ってるひつじくんは手のひらを揺らして少しずつ離れていく。

 ああそっか。あれは「ばいばい」なのか。腑に落ちて手を振り返したわたしに届いたのは「ばいばい」でも「サヨナラ」でもなくて、

「またね、つきこ」

(土萌羊)

ノヴァトラベル*クリスタルP
〜111104

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「見えない臓器の名前は」
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