俺の手はね、魔法が使えるんだよ。 ほんとうに? ほんとうに。でも月子にしか教えてあげないんだ。 どうして? トクベツだから。
スラスラと鉛筆を紙に走らせるすずちゃんが書いているのは、魔法の呪文かと思えば何かの絵だった。なんでもできるのがすずちゃんのすごいところではあるのだけれど、それにしたって魔法が使えるという話は初耳だった。今までずっと幼なじみをやってきて、初めて知ったのだ。おばさんにだってかなちゃんにだって、教えていないと言う。
どうしてわたしだけがトクベツなの? 今日の月子は知りたがりだなぁ。 だって気になるの。 そっかぁ。…ふふ。 嬉しいの? うん、とってもね。
くるくるとほんとうに魔法みたいに線が重ねられていく紙には、やがて女の子の顔が現れた。にっこりと可愛い笑顔の女の子だ。髪の毛を高いところでふたつに結んでいる。あれ?この髪型ってもしかして。
「わたし?」
「そうだよ。そっくりでしょう?」
すずちゃんがわたしの鼻をちょんとつついた。ぐりぐり。鼻の頭をぐぅっと押される。ヒリリとした。
「おじさんもおばさんも、すぐに帰ってくるよ。俺だって哉太だっているんだ」
ポケットから水色のハンカチを取り出したすずちゃんが、はいとそれを差し出してきた。使ってって。汚れちゃうよって遠慮したら、月子の顔が濡れてるほうがずっと嫌だって笑う。受け取らないわたしを見かねたのか、優しく拭ってくれた。
「笑ってる月子がいいな」
こんなふうにさ。上手に描けている“わたし”を指差すすずちゃんの笑顔が、それこそが絵と同じものだった。にっこり。
「ふふふ」
すずちゃんはすごいなぁって思ったら笑ってしまった。さっきまで家にひとりぼっちで淋しかったことなんて、吹っ飛んでしまった。
ちょっと笑い出したら楽しくなってきて、わたしを見るすずちゃんもどんどん笑ってくれるから嬉しくなった。
「よくできました。」
「すずちゃんも、よくできました」
頭をいいこいいこって撫でられて、わたしも撫で返した。俺にも?ってすずちゃんが笑って聞いてくるから、こんどはわたしが教えてあげる番。
「だってすずちゃん。わたしが笑ったのは、すずちゃんの魔法が成功したあかしなんだよ」
(東月錫也)
魔法の手*ひとしずくP
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