夢 | ナノ
空洞侵愛


「へぇ……こんなところに出るんだ」

 地下に潜ってしばらく歩き、出た先はどこかの床下だった。
 匍匐前進で地面を這い、床板と畳を押し上げて部屋の中へ入る。少しごちゃついている、誰かの部屋。出た先は忍たま長屋か。

「一年は組の三治郎と兵太夫の部屋です。……こっちです。先生方に連絡しに行きましょう」

 左近が硬い表情でそう言って足早に部屋から出ていくが、恐らく先生方にはもう知っている。
 そのためにわざわざ英語で敵の武器や人数、方角まで教えたのだし。
 が、斉藤タカ丸がその事を知る由も無し、此処は左近に習って先生方を探そうか。

「連絡しにって、まずはどこへ?」
「学園長先生の東屋に別々で向かって、会った先生や先輩全員に知らせよう。校門前に曲者がいるって」
「分かった。二手に……僕とタカ丸さん、久作と左近で別れよう」
「ぼくたちは教室のある西側を通るから、三郎次とタカ丸さんは食堂のある東側からお願いします」
「よし、じゃあ――」
「その必要はないっ!」

 誰かが目の前に降り立ち、三人は足早に運動場を歩いていた足を止めた。
 さらりとした茶色の直毛を結い上げた紫色の制服の少年は、その整った顔立ちに自信に満ちた表情を乗せる。

「四年い組の平滝夜叉丸先輩!」
「その通り!」
「何故ここに滝夜叉丸先輩が?」
「4年は組に編入してきたタカ丸さんを、この滝夜叉丸様が同学年として護衛しに来たのだ!」

 護衛。今護衛と言ったか、この少年は。
 と、いう事はあの校門前の二人組は俺を殺しに来た祖父の所属していた忍者隊か?
 だが、何故一人で行動する事の多い出先ではなく忍術学園に戻ってきた時を狙ったのだろう。しかも、たった二人で。
 忍術学園が舐められている? いや、得意先の反応を見るにそれは考えにくい。
 実力を測りに来た? だとしたら、来たのは末端も末端か。
 いや、そもそも何故忍術学園に俺が戻るタイミングが分かった? 俺が読んでいた教師の気配の中に刺客もいたのか? それとも得意先の中に通じている城が?
 駄目だな、考えられる可能性が多すぎる。

「えーと、滝夜叉丸くん? ……君が僕の護衛をしてくれるの?」
「そうです! 何を隠そうこの滝夜叉丸、教科の成績も実技の成績も学年で一番! しかも武道大会では常に上位の成績を誇りとりわけ戦輪にかけては見る者を――」

 突如として始まった演説のような自慢話に困惑して三人を振り返ると、目を逸らされる。
 なるほど、自信家でうぬぼれ屋。い組の特徴をこれ以上なく体現した人物、とみるべきか。学年で一番、という事はこれは実力に裏打ちされた自信。それに、周囲のこの反応。
 御するのは容易いな。
 永遠に続きそうな自慢話が息を吸うタイミングで途切れた時に、俺は滝夜叉丸に話しかける。

「へぇ、すごーい! じゃあ、滝夜叉丸くんがいれば安心だね。護衛、お願いします」

 こういう輩は、少し大袈裟なくらいで丁度いい。
 お願いします、と手を合わせて頭を下げれば、滝夜叉丸は喜色を満面に浮かべて頷いた。

「ええ! そうですとも! この滝夜叉丸にお任せあれ!」
「うんうん、ありがとう。それで、なんで僕に護衛が必要なの?」
「それはですね――敵が、抜け忍を殺しに来たドクアジロガサ忍者だからです!」

 な、なんだってー、と二年生の三人が揃って声を出す。それに構わず、俺は首を傾げた。

「と、いう事はもうそのドクアジ……なんとかの忍者は捕らえることが出来たのかな?」
「ドクアジロガサ忍者、です。いいえ、それがあいつ、正門前の木から一向に動く気配が無くて――一応、周囲を忍たま達で囲ってはいるのですが」
「あいつ……木の上にいるのは一人だけ?」
「? ええ、一人だけ、でえええ!?」

 言葉の途中で滝夜叉丸を地面に引き倒す。遅れて、発砲音と滝夜叉丸の立っていたあたりに銃弾。

「ひ、火縄銃!? どこから!!?」
「……三人は先生方にこれを伝えに行って。滝夜叉丸くん、こっち」

 滝夜叉丸の手を引き物陰に隠れる。無駄に目立つ髪を布で覆い隠すと、頭だけ出して弾丸の来た方向を探る。
 ――いた。

「見える? あそこ。1時の方向……真正面やや右、塀の上、一人」
「へぇ? あ……ええ、見えました」
「戦輪は届きそう?」
「あの距離はこの滝夜叉丸でも流石に――っどわぁ!」

 影から身を乗り出した滝夜叉丸目がけて飛んできた弾を、腕を引くことで避けさせる。

「そ、じゃあここで救出を待とうか」

 そういって片膝を立てて地面に座れば、滝夜叉丸は引きつった顔で頷いた。
 ――しまった、もしかして、弾丸の軌道を読むのは元一般人として少し逸脱しすぎた行動だったかもしれない。それとも、狙われているにしては落ち着きすぎたか。
 この混乱に乗じている間は良いとして、斉藤タカ丸の大まかな能力や性格を決めておくべきかもしれない。



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