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未来編


夜空には満月が浮かび、星々は煌めいていた。
そこらへんにあった木に凭れかかりながら空を眺めていた沢田綱吉は、不意に懐から細部まで細やかな装飾がなされている鈴を取り出た。
月明かりに照らされて鈍く光るそれを一瞥してから目をギュッとつぶり、沢田綱吉は何かを決意した。

「…鳴らすのか?」

背に掛ったのはラル・ミルチの声。

その声に綱吉は振り向き、うなずいた。
その瞳は何かを決意したかのような。真っ直ぐな、目だった。

「そうか。…好きにするといい」

くるり、と後ろを向いたラル・ミルチを一計した後、綱吉は立ち上がり、鈴を振った。
不思議と鳴らないかもしれない、という不安はなかった。
りん、と涼やかな音が森の中に響く。
それは綱吉の持つ鈴を中心に、広がっていった。

眠っていた仲間たちが何事かと起きてくるが、綱吉はそれを無視してただただ音を発する鈴を見ていた。



どれくらい時が立っただろう。一時間かもしれないし、もしかしたら五分と経っていないかもしれない。
鈴の音はまだ森の中に木霊していた。
鈴の音と衣擦れの音。それと仲間たちの呼吸音しかしなかった空間に、突然草木をかきわける音が響いた。

「夢月っ…!…――っ」

嬉しそうに後ろを振り返った綱吉は、視界に入った人物を見て言葉を失った。

その人物の体を囲うようにうねる闇寄り尚黒い漆黒の膝まである、髪。
シミ一つ…傷一つない、肌理細やかな闇に浮かび上がる白い肌。
けぶる睫毛に覆われた飴色の瞳、すっと筋の通った鼻。肌の白さによって際立った唇の紅。
小さな顔の中に整ったパーツ一つ一つが自らのあるべき場所に配置され、互いの美しさを高め合っていた。

自分の妹がそのまま育ったような、その容貌。
だが、綱吉はつい最近にその顔を見たことがあった。

その人が着ている白と黒で構成された服。
そして――頭に付けたホワイトブリム。

仲間たちが背後で得物を構える音を背に、綱吉はじっとその人の透き通った瞳を見つめた。


ざり、と靴で地面を踏みしめ、その人に近づいていく。
仲間の引き止める声を無視して綱吉は手を伸ばせば触れそうな程近くまで近づいていった。
その人の飴色の瞳を見つめながら、綱吉は陶器の様になめらかな頬に手を伸ばした。
綱吉の手を拒まずに猫の様に目を細めたその人は、綱吉の真っ直ぐな瞳を見ながらその紅を塗ったように紅い唇を開く。


『…久しぶり、だねぇ…綱吉』


最も今日のチョイスで会ったけど、と付けたしたその人は、黒い革手袋で覆われた手を綱吉の頬に伸ばす。


「俺は…君と吊り合えるようになった?………夢月」

その綱吉の言葉にその人――ミルフィオーレファミリーボス白蘭付きのメイド兼夢のリング守護者のトウキであり綱吉の双子の妹の沢田夢月――は首を傾げてから綱吉の柔らかな頬を撫でる。


『まだまだ…だけど、及第点ってとこかなぁ?』

綱吉はその言葉にほっと一息ついてから久しぶりに近くに感じる双子の妹に目を伏せた。





  邂逅、再会
(え?え?どういうことですか、十代目!)(…予想外だぞ)



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